その街には一人だけ

またたび

その街には一人だけ

私の街の端っこ・・隣街との境界線に位置する電話ボックス。そこでとある番号をかける。●●●-●●●●-●●●●。皆が真似をしないように、番号は伏せておく。


電話が鳴る。そして繋がった。


「・・もしもし?」


沈黙が続く、だがしばらくして


「・・いらっしゃい、嘘の街へ。制限時間は1時間。その間はゆっくりしてもいいわ」


プツンとそこで電話は切れた。


「これできっと」


私は電話ボックスから外に出た。すると、そこにはいつも通りの街の風景が見えていた。ただし、誰もいなかった。人っ子ひとりすらいない。その街には私しかいなかった。


遡ること一週間前・・


都市伝説好きな私にある情報が入ってきた。その都市伝説の名は『嘘の街』だ。なぜそう呼ばれてるのかなど謎が全く尽きない噂話だった。ちなみに私は親友の恵子からその話を聞いた。なんと恵子はその嘘の街への行き方も知っており、おかげで私は無事ここへ辿り着くことができた。親友様様である。


そして話は現在に戻る。


散歩してみる、どこを行っても見覚えのある景色・・しかし誰もいない。公園もスーパーも学校も誰一人として、いなかった。


「これはどういうことだろう?うーん・・」


私は都市伝説好きだが、それでただキャーキャーしてる訳ではない。ちゃんとそれが本物か、原因が存在しないか、人工的なものなのか、などを調べる。しっかり調べるのだ!何故なら最近は偽物の都市伝説が多い!心霊番組の心霊写真だってどこまで信用できるものだろうか?そういうものは本物だからこそ好奇心をくすぐるというのに、貴族が風情の分からない人間を憂うように、その楽しみをぶち壊す人間を私は非常に憂いていた。私はこんな時代だからこそ、常に本物の都市伝説に飢えている・・しかし、今回こそは当たりかもしれないぞ。自分で体験してるわけだし、今の所トリックが分からない。もしも本物なら感動して泣いてしまうかもしれない。


ああ・・!嬉しくてたまらないよ、今!


ふと時計を見ると、あっという間なもので50分も経っていた。・・あれ?そういえばさっきの電話で制限時間とか言っていたような?1時間って言っていたかもしれない。もし制限時間を過ぎたらどうなるんだろう、私は強制的にこの素敵な世界から追い出されるのだろうか?そ、そんなの嫌!まだここから出たくない!やっと見つけた違う世界なんだから・・


時計は刻々と進む。まだ謎は解けてない。そして残り五分を時計は示した。ふと後ろから声が聞こえてきた。


「・・蓮!」


自分の名を呼ばれ、慌てて振り向くとそこには・・


「恵子⁉︎」


私の親友がいた。


「ど、どうして・・」


「ごめんね、蓮。今回のことはちょっとしたサプライズだったの」


「さ、サプライズ?」


「ええ。この『嘘の街』の噂を流したのは私。この舞台を用意したのも私なの」


「そ、そんなわけないじゃない!一人の力だけでこんなの用意出来るわけないでしょ!」


「催眠による疑似体験」


「えっ」


「あの電話ボックスは実は故障していて誰も使ってなかった。私はあの電話ボックスの周りに貼られていた故障中のテープを全て剥がして、電話にとある装置を付けた」


「とある装置?」


「ええ。といってもただのスピーカーだけどね」


「・・・」


「そしてそのスピーカーから催眠音声を流して、今、蓮は眠っているわ。もちろんあなたが眠ったのを確認した後は、私が保健室まで運んでおいたから安心して。今は保健室のベッドで寝ているわ」


「・・ってことはこの街は私の夢の中に近いということ?」


「まあ、そういうことね。ただ、この街を指定したのは私だし、迎えに行くために実際私がここへ来れるわけだし、かなり限定された夢ではあるけどね」


「せっかく楽しかったのに。夢なんて・・。ひどいわ、恵子!」


「ごめんなさい・・ただ、都市伝説好きなあなたならきっと楽しんでくれると思って」


「ええ、楽しかったわよ。すごく!だからこそ耐えられない、悪いけど恵子・・私ここから出る気ないわよ」


「なっ・・!で、でもそしたら蓮はずっと眠ったままになっちゃうよ」


「もう、それでもいい。私は非現実じゃないと都市伝説に会えないのなら、非現実に生きていく。さっきはカッとなっちゃったけど、今思えば感謝してるわ、ありがとね、恵子」


「そ、そんな。お願い、蓮!そんな冗談なんか言わないで早く帰ろうよ!」


二人の長い討論も終止符が打たれる。私は彼女の呼びかけに応えず、その街の中へと入り込んでいく。私の夢だから、私はここをきっと愛せる。


「蓮!悪かったわ!私が悪かったからお願い!戻ってきてよ!ねえ!ねえってば!」


愛しき親友には申し訳ないのだけど、私は私の求める世界だけを愛したいの。二股は良くないわ。だから強く一言。


「ごめん、無理」

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その街には一人だけ またたび @Ryuto52

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