ハコとヒヨコと大賢者

欲望貯金箱

ことのはじまり

 ある冬の日の朝。

 リュビエ王国のはずれにある森。

 その森にポツンと佇む大きめの家に、珍しく手紙が届きました。

 金色の封蝋が付いた、豪華な装飾の手紙です。

 家の主である老婆は配達に来た伝令騎士に、ナッツをシロップでコーティングしたちょっとしたおやつを渡して、かわいい笑顔で見送ります。

 そうして届いた手紙の差出人を見て、老婆は暖炉にゆるやかにシュートしました。

 きれいなアンダースローでした。

 一連の動作を見ていた見習い少年はたまったものではありませんでしたが。


「何してるの!」


 叫ぶや否や暖炉に手を突っ込みかけ、手を火傷する寸前に伸びてきた別の手に止められました。

 止めたほうの手はそのまま暖炉に突っ込まれ、無傷で手紙ごと出てきました。

 いえ、よく見るとすこしだけ煤が付いています。


「ありがとう」


 少年は手の主にお礼を言いました。

 手の主は何も言いませんでしたが、老婆も少年も気にしませんでした。

 老婆はため息を付いて奥へと引っ込み、少年は焼けて破れてボロボロの手紙をパズルのようにああでもない、こうでもない、と何とか読もうと試みます。

 床にぺたんと座り込んで、時々ごとんごとんと歩く彼にお茶を貰い、いろいろな仕事をほっぽり出して。

 やがて日が傾き空が黄昏色に染まるころ。


「まだ読んでたのかい」


「だって、大切そう」


 差出人は読めませんでしたが、どこの国から来たのかはわかりました。

 セベルノヴァ。少年たちの住む王国からはるか北に位置する霊峰を超えた先にある国です。

 読めたところだけ繋いで、これは困っているのが分かるものでした。

 なんとドラゴンが国を襲っているというのです。

 確かに冬のドラゴンは春にかけて巣作り、産卵、子育てをするのでこの時期は大変に気性が荒いですが、理由もなく人を襲う生き物ではないはずです。

 大賢者であるあなたしか頼れない、とまで読めればあとは十分。

 少年は困った顔をして老婆を見つめます。


「はあ…」


 顔に手を当てため息をついた老婆は少しだけ笑っていました。

 少しだけ笑って椅子に座り、少年の方を見て。


「ハコや。ドラゴンの素材、欲しくないかい?」


「欲しい!」


 即答でした。

 ハコと呼ばれた少年は頭の中で計算します。


「ドラゴンはすっごく大きいんだよね!そしたらたくさん素材がでるよね!おばあちゃんが貰って、北の国が貰って、それでも余ったら欲しい!」


 ドラゴンの素材は有名です。

 鱗、骨、肉、皮、血、牙に始まり捨てる部位が無いとまで言われるのがドラゴン素材です。

 特にハコは翼の素材だけは絶対に確保しておきたいと思っていました。


「ヒヨコを飛ばしてみたい!ドラゴンの素材欲しい!」


 ヒヨコとはなんのことでしょう。

 鳥ではなさそうです。

 ごとん、ごとんと歩いていた彼が寄ってきました。


「ヒヨコ!あたらしい身体ひさしぶりに作るね!」


 やはり彼なようです。

 返事はしませんが大きな腕を振り上げてガッツポーズ。


「……しょうがないねえ」


言葉とは裏腹に老婆はちょっと嬉しそうでした。

そうして3人ははるか北の国セベルノヴァに旅に出ることにしたのでした。

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