偏愛的断片的悪趣味

韮崎旭

偏愛的断片的悪趣味

 血液にしか関心が持てないがさておこう。私は美少女なので。いや、美少女だから。そう言うことにしてください。見やすいでしょう、美少女だとね。

血液にしか関心がない美少女なので。


 彼女のことは、「あさか」という名を用いることしか知らない。あとは黒髪ロングだが管理を放棄している、つまり、その黒髪ロングの管理を放棄している美少女である。

 もうお分かりだと思うのだが、これはつまり。

 美しいIFで、願望で、かなわない夢で、だからこそより輝く美しさなのだ。そう言うたぐいの妄言。


 彼女とは何を話したかよく覚えてない。その日はなんとなく朝一番に出かけて副都心線沿線の駅で会ってピアス穴あけて(耳たぶ以外の何かなのだが、場所覚えてないのだった。名詞の暗記が苦手だ。どれくらい苦手かというと、人間の体液の個別の名称を覚えられないので全部「体液」と呼ぶくらいには。あのフィブリンが関与している機構、何?)、パフェ食べて、かわいい黒服を適当に購入し、「あさか」の部屋(なぜかアパートの一室で、めちゃくちゃかわいい。乱雑なのだが、まあ、願望だし、印象としてかわいい、でいいですよね?)に来て、彼女が「何か飲む?」とか聞くので、二人して、果実系の酒で、あさかが処方された安定剤を飲んでいた。失神しない程度を狙ってね。抗精神病薬もあると聞くが、「いやそれODしても面白くないでしょ。私は錐体外路症状は、怖いよ」と私が言うと、あさかは爆笑していた。多分その時点ですでに酔っていたんだと思う。両者が。

 中途半端なエアコンの作動(外気温32℃、エアコンの設定、28℃除湿)のせいで微妙に暑くて酔いが回るのと併せて久々に私はハイだった。あさかはしらん。というのは、私はあさかではないから。楽しそうではあった。ところでここで重要な情報だが、あさかには自傷癖があり両腕が縦横に傷跡で埋め尽くされていた。で例によって酔ってもいてまたあさかはその辺の絶対衛生管理が雑なカッターナイフで切り始めた。まあカッターナイフは文房具だし、衛生管理の対称じゃあないよね。

「ねえ、死のうよ」

「はあ?」

「こいつらで」(刃物を指さす)

「無理でしょ」

「別にいいじゃん」

「あー、つまり」

「実際の生死は問題じゃない。ここで心中しよう。その気分が一番大事♪」

「いいよ」

 という訳で、何かもう誰がどっちのどこをどう切ってるのかただでさえ安定剤と酒のせいで手はぶれるしでなにもわからん感じで切っていた。痛い。楽しい。暑い。とけていく。あさかが私の腕の傷に触れる。(ここで重要な情報だが、わたしにはあさかより軽い自傷癖があるのだった…………。)痛い。愉快。頭が痺れるような、血まみれの小さな白い手で、そのあさかの手を今切りつけた、私の持つ工具が、ねえ私たち死ぬのかな、…………?


「私たちの最後のページに挟まれていたし折に、いま、火を、つけて、……すべてを無に帰すの」

 あさか、美しい子、私の死神、どうかあなたに捧げることを(何を?)許される光栄を。


 そんな美しい夏が腐乱するのだろう。

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