夏休みにまた会おう。

アヤサキ

第一章「終業式。そして夏が始まる。」

「皆さん、有意義な夏休みを過ごしてくださいね!」

「は~い」

 終業式の時、毎回思うことがひとつある。校長の話が長いことだ。

 近年、どの学校の校長も話は短い傾向であると耳にしたが、俺の通う学校は違う。むしろ長い傾向に向かっている。

 俺が考えるには、歳のせいであろう。この学校の校長の年齢は65歳。歳を取るほど人間は話し相手が減り、自分の経験したことを話したいという欲がとてつもなく多くなるのだ。

「えー。時間が押しているので、時間を繰り上げ、ここで終業式を終了とします」

 そらみろ。時間がなくなったじゃないか。

「以上をもちまして、平成30年度富士見高校終業式を終了します。気を付け。礼!」

              

                ♦


「じゃ、みんな~。また二学期ねー。宿題ちゃんとやるのよー」 

 担任の岡村先生が挨拶をして、終学活が終わった。この先に待っているのは学生の自由の楽園、夏休みだ。

 やれやれ。やっと一学期が終わったか。そんなことを考えながら机の中の荷物をカバンに入れていたら、俺の首に腕が巻き付いてきた。

「ぐえっ」

 普通に苦しい。

「ねえねえ!松山くん!夏休みどっか行こーよー!」 

「ぐええっ」

「なによー。私とは出かけたくないとでも言うの~?」

「ぐえええええ」

 そろそろ酸欠になっちゃうって!

 俺は、愉快な言葉をかけながら殺しにかかってきている腕をポンポン叩く。

「ん?ああ。ごめんねー」

 今気づいたのかよ!俺は腕が離れてすぐに、大きく呼吸をする。

「ハアッ!ハアッ!」

「あれ?大丈夫?誰にやられたの!?」

「ぅお、お前だお前!!少しは自覚しろよ!バカ!」

「あー!人にバカって言っちゃダメなんだよー!バカー!」

「…お前、何がしたいんだよ…」

 このバカっぽい…いや、このバカな女は俺の幼馴染の有村鈴音ありむらすずね。認めたくはないが、こんなに変な奴なのに勉強も運動もできてしまう。いわゆる優等生だ。さらに、芸能事務所にスカウトされるほどの美人。まあ、その時は断ったらしいが……。

 気分と首の痛みが落ち着いてきた俺は、本題に入った。

「で?なんだよ。俺は早く家に帰って夏をエンジョイしたいのですが?」

「露骨に嫌そうな顔しないでよー。だからー。さっきも言ったじゃん。夏休みにどこか行こう!」

「え~。めんどくさい」

「そんなこと言わない!平成最後の夏休みなんだから大事にしなきゃ!」

「知らん知らん。元号を理由にするな!俺はもう帰るぞ!」

「えー。じゃあ、夏休みはずっと松山くんの家に泊まるー!」

「怖えよ!じゃあな!」

 俺は教室から急いで抜け出した。

                 

  

                ♦



 はあ、まったく。あいつは何がしたいんだか…。

 まあ、今日から待ちに待った夏休みの始まりだ!忙しくて今まで出来ていなかったゲームを片っ端からやっていくぜ!

 夏休みの計画を考えながら家へ向かって歩いていると、近所にある神社の前に辿り着いた。

 目の前には大きな鳥居と大木、そして山の上にある本殿へと伸びる長い階段。

「懐かしいな…」

 俺はなぜか無性に昔の気分を味わいたくなり、鳥居をくぐって階段を登った。

「小学生の頃、有村とよくここで遊んだな…」

 階段を登り切り、登ってきた階段の方に顔を向ける。

「おお…すごいな…」

 目の前に、俺の住む街の景色が広がった。

 夏の熱い日差しに照らされる学校、雑居ビル。微かに人の動きが見える商店街。

 この景色には、今まで見たことがないような美しさが詰まっていた。


 美しい景色に感動していたその時、大きく風が吹いた。

「うわっ」

 あまりの強さに驚いて、とっさに目をつぶる。


「…やっとおさまったか…」

 

 目を開けると


 さっきまで誰もいなかった場所に


 やさしい笑顔を向けている


 一人の少女がいた。


「君は…誰だ…?」

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夏休みにまた会おう。 アヤサキ @ken_nakai

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