至福の時

ノザ鬼

第1話 その時

 準備完了!


 時計を確認。


 残り五分。計画通り。


 後は、三分待つだけ。



 そうだ。


 待っている間に、説明をしよう。


 俺はもう直ぐ死ぬ!


 正確には人類全てが…、いや地球が滅びる。



 あれは、三ヶ月程前の事。


 よくあるパターン。


 隕石の軌道が地球へ衝突するコースだと発表された。


 何度計算しても、衝突と算出されたとか。


 それに加え、隕石の大きさから地球が壊滅するとか…。



 そう、今日がその日。


 死ぬ理由は解ってもらえたと思う。


 壊滅まで、後五分…。


 いや、話しているうちに残りは四分半だ。



 あっ、俺が何をしているのか気になるよな。


 これを見てくれ。


 『ジャーーン!』と効果音が付くほどに紹介されたのは…、


【カップラーメン】


 パッケージも豪華な一品!


 しかも、その中の限定品。


 この世に存在する╋個の内の一つ。


 カップラーメンの蓋を五枚で応募できるって事で…


(染々と思い出し。)


 何杯、食べたことか…。


 厳しい倍率を勝ち抜き、手にした限定の一品。


 これを俺の人生の最後に食べると決めたのだ。


 カップラーメンの横に置いた時計が出来上がりまでの時間を刻々と刻む。


 出来上がりカウント、十秒前。


 『パチン!』


 カップラーメンは割り箸でないとな。


 不思議なことに、普段使いの箸では何故か味が落ちる。


 もし、生き残った人類がいるのなら研究してほしい。



『ピピピピ!』


『ピピピピ!』


 右手でアラームを止める。


 当然、左手はカップラーメンを掴む!


 右手を引き戻しながら、蓋に手を掛ける。


 そして、一気に解放!


 閉じ込められ、圧縮された香が爆発し広がる。


 流石! 限定の一品。


 香も絶品だ!


 この間、きっかり一秒。


 箸を入れ麺を持ち上げ混ぜる。


 スープが絡み付いた麺は、黄金色を纏っている。


 料理とは目でも楽しむものだ。


 そして、お待ちかね!


 容器を口に運び…。


 『ごくり。』


 味が口の中で弾けた。


 次は麺!


 スープと麺とのハーモニーが、俺を昇天させる。


 そして、最後の晩餐のメニュー【限定の一品】は食された。


 ごちそうさま。


 置かれた容器に立て箸。


 行儀の悪い行為だが、カップラーメンには良く似合う。


 残り二秒。


 計算通り。


 これは、カップラーメンの味を思い出す至福の時。


 そう、最後の時は至福で満たさ…。


 ん!?


 蓋が目に止まった…。


 こ、これは!


 気が付いてしまった…。


 至福の時を絶望と後悔へと導くものに。


 そう、その正体。


 それは!


 『賞味期限』


 切れてたぁぁぁぁぁ!



 残り零秒。


 俺の人生は、後悔で終わりを迎えた。

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至福の時 ノザ鬼 @nozakey

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