第86話二人称

 小説を書き始めてから気になるようになったことがある。

 それは、多くのライトノベルで主人公がヒロインのことを「お前」と呼んでいる点だ。


 ラノベを読んでいるだけのときには気にも止めていなかったが、自分で書いていると、

「……ん? この主人公って、ヒロインに対して上から目線すぎないか?」

 と疑問に思うようになった。


 ライトノベルはデフォルメされた世界観での物語なので、細かいことを気にしても仕方ないのは分かる。

 しかし、どうにも引っかかるのだ。


 人のことを「お前」と呼ぶのは、一般的なことなのか。

 少なくとも、僕は日常生活において全く使わない。

 いや、学生時代には仲の良い男友達に使っていたんだっけな……。

 古い記憶なのでよく思い出せない。

 どちらにせよ、「お前」というのは自分に馴染みのない言葉なのである。


 なぜ作者の立場になってみると、主人公の言葉使いが気になるのか。

 それは僕が、作中の主人公と自分自身を同一視しているからなのかもしれない。

 

 小説は小説、現実は現実である。

 そこを切り離して考えることが僕にはできていないのだろう。

 このままでは、自分と瓜二つの主人公ばかり書くハメになってしまう。


 僕みたいな人間を主人公にした物語か……。

 悲しいことに、魅力が無さすぎる。


 ひとまず僕は「お前」という言葉を使わず、毎回ヒロインの名前を呼ぶ形で小説を書き進めてみている。

 ちなみに、ヒロインの名前は小夜子だ。

 今書いている小説では「なあ、小夜子」「どうしたんだ小夜子」など、「小夜子」という言葉が連発されている。


 客観的に見れば「何回小夜子って読ませるんだよ! 小夜子はもういいよ!」と言われそうである。 

 やっぱり、名前以外の二人称は必要なのだと実感する。


 とは言え「お前」以外の二人称もなかなかしっくり来るものがない。

 キミ、あなた、お宅、あんさん、テメェ……。

 色々あるけれど、ラノベ主人公の言葉使いとしては、違和感があるものばかりだ。

 それなら「お前」を使うのが一番しっくり来る。 

 ああ、だからラノベ主人公はよくヒロインに「お前」と言うのかと、僕は一人で勝手に納得した。


 納得はしたが……僕はまだ小説内で「お前」という言葉を使っていない。

 小夜子! 小夜子! と、ヒロインの名前を連発している。

 

 まあ、初めて書く小説なのだし、ちょっとくらい読みにくくても許してもらいたいものだ。

 僕はまだ主人公と自分自身の分離ができていない。


 少しずつでもいいので前進して、面白い物語を書いてみたいものである。

 では、また。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る