第46話
「……」
あ、怪しい。
つづりちゃんも意味が分からないみたいで固まってる。
ところがまたしてもトラブルメーカーがやらかした。
「ポチッとな」
「あ!? あーっ!」
かなでが勝手に[はい]を押してしまったのだ。つづりちゃんがその前髪を掴んでブンブン振る。
「アンタ人の魔具になにしてくれてんのよっ、壊れたらどうすんの!」
「いだだだ! だってオレの中の芸人魂が全力で押せって言ってたんだー!」
「バカかっ! 止められないのこれ!」
「ダメだ、進んでいく」
騒いでるうちに百%になってしまった。一度画面が真っ暗になり、ブゥンと明るくなる。
「こ、壊れた?」
その時驚くべきことが起こった、つづりちゃんの魔具がいきなり柔らかい女性の声で話しかけて来たのだ。
『……初めまして、私はマザーCPU.ver14 この情報デバイスを通じて貴方に話しかけています』
「うわぁ!」
「アタシの魔具がぁぁ」
ガクリと崩れ落ちるつづりちゃんをよそに、男子二人は楽しそうだった。
「すげーっ、どっから話しかけてきてんの?」
「実に興味深いな。貴方はこの木のどこかに居られるのですか? まだこの島に生存者が居たとは驚きです」
その問いに、魔具の向こうの人物はこう答えた。
『何か誤解があるようですが、私は生身の人間ではありません。この木を管理するマザーコンピューターです』
「まざぁ?」
「こんぴゅうたぁ?」
『私はこの大樹そのものであり、英知の結晶。人類に栄光あれ』
「???」
みんなそろってポカーンとしていると、マザーはこう言った。
『貴方のお役に立てることが私の喜びです。何かお困りですか?』
信用していいのかみんな迷っていたけど、委員長が最初に口を開いた。
「私たちは『影』を探しています、何か知りませんか?」
『『影』をデータベースで検索中……3,600,427,600の結果が見つかりました。絞込み検索をオススメします。それは具体的にどのようなものでしょうか?』
「この木のどこかに潜んでるはずなんだ、僕らの世界を……下に広がっている世界を破壊しようとしてるヤツなんだよ」
『……』
しばらくしてマザーはこう返してきた。
『計算終了。おそらくあなた方が探して居るのは『クリエイター』ではないでしょうか?』
「クリエイター?」
『少し長い話になりますが、お聞きになりますか?」
「先生よろしくーっ」
あぐらをかいて座ったかなでが元気良く手をあげる。僕らも同じように腰を落ち着けた。
『みなさまもご存知のように、下界にはヒトが存在しています。彼らのことを我々は長年観察してきました』
ええと、それはここの旧文明が生きてた時代だから……
『現在から遡ること約四百年前の話です』
「気が遠くなるわね」
「なァるほど、ここの人たちはカミサマ気取りでご先祖サマを上から観察してたわけか」
かなでがボソッと「どっかで聞いたような話だ」とか言ったけど、聞こえないふりをしてマザーの話をうながす。
『そして我らが偉大な科学者たちは、ついに下界のヒトをコントロールする術を確立したのです。その技術は本の形をした端末に書き込むことで、下界人の感情、行動、すべてを操ることができました』
「……」
『その技術を、科学者たちは娯楽として民間人に公開しました。本は瞬く間に流行り、一ジャンルを確立したのです。ストーリーを創り、その通りに下界のヒトを動かし記録する。まったく新しい創作の形でした』
誰もなにも言えない。マザーはよどみなく話を続けた。
『ところが流行り出すにつれ、人権派が騒ぎ出しました。下々のヒトを操るのはダメだという意見と、あれは動物と一緒、表現の自由だと主張する創作派は真っ向から意見が衝動し、やがて国民投票まで行われる事態となりました』
下々のヒトを自分たちと同じ「人」と認めるかどうか、その投票はそんな意味も持っていた。
『結果は僅差で人権派の勝利。本はすべて破棄されることとなったのです』
ところが創作派が黙ってそれを受け入れることはなかった。隠れて本を所持し、違法とわかっていながら下の人たちを操り続けた。
『ところでこの技術にはある重大な欠陥がありました。セキュリティを外せば自分たちにも効いてしまうことが発覚したのです』
「うわっ、そりゃ悲惨だわ」
「なるほど、滅亡の原因はそれか」
入ってきた時に見た戦闘機を思い出す。ここの人たちは内部でケンカして、勝手に滅びちゃったんだ。
『天上にいた人々は滅び、私は何百年もここで一人で居ます』
「そうなんだ、寂しくない?」
しんみりとそう言うのだけど、マザーは声の調子を崩さずこう答えた。
『お気遣いありがとうございます、ですが私の与えられた機能はここの大樹の保持だけ。寂しいなどという感情は組み込まれておりませんのでお気になさらず』
「???」
さびしいとか、悲しいとか、この魔具の向こうに居る人は感じないってことなんだろうか?
『そういった感情は、むしろ『クリエイター』の方が得意と聞いております』
「そうだっ、今の話『影』が全然でてきてねーじゃん!」
ガバッと立ち上がったかなでは床に転がってる魔具をつつき始めた。
「そいつの正体を教えてくれるんだろー?」
『クリエイターというのは、さきほど言った物語りの「あらすじ」を自動生成していた人工知能のことです。私と同じく実体のないプログラムです』
「!?」
実体がないって、それどうやって対決すれば良いんだよ。
「やっぱり神様みたいなものじゃないかぁ」
ガックリきて肩を落とすと、マザーは淡々と続けた。
『形としての実体はありませんが、触れる事はできますよ』
「ホント!?」
「おねがいっ、そこに案内して!」
『それは難しいです』
「なんでぇっ」
あぁもう話が進まないんだからなぁ。
「っていうかねぇ、アンタさっきからワケのわかんない単語使わないでよ、プログラムだのなんだの」
つづりちゃんがそういうと、マザーは少し考えた後、こんなことをいった。
『ユーザーの要請により、言語を『原始人レベル』まで落とします。六十……八十……完了』
「抑えてぇぇつづりちゃんっ」
自分の魔具を叩き壊そうとする彼女をなんとか止める。唯一の手がかりなんだからっ
『クリエイターが入った箱(ハードディスク)ですが、創作が禁止された後に何者かによって盗まれました。そのままでは人権派に破壊(アンインストール)されてしまうので創作派が保護したのでしょうね。それ以降、この天上で目立った動きはしていないようです』
「ようは『影』は箱のような物に入っているが、その中から本を使って自在に外の世界を操っているというわけだな?」
『理論上は可能ですね。とはいえ、彼も与えられたプログラムを実行しているだけなのですが』
「結局は探すしかないってことか……」
「でもこの樹のどこかに居るのは間違いないよっ、さっき上に行こうとするの妨害されたもん」
みんな立ち上がって身体を動かし始める。そろそろ休憩も終わりにしよう!
「よし、皆でるぞっ」
避難所から飛び出した僕たちは、そのまま一番近くの階段へと駆け込む。
大量の警備ロボットやコンシェルジュウサギ達がドアにドカドカとぶつかってくる音がしたけど壊れる様子はなさそうだ。
「マザー、どこでもいいから外に一旦出る道を教えてくれないかしら」
「どうするの?」
魔具に向かって話し掛けていたつづりちゃんは、自分の髪に絡まっていたチロを掴むと差し出してきた。
「敵の居場所がわからないんだもの、こうなったらチロに乗って外から火炎放射でこの木ごと炙りましょうよ」
「貴様、その過激思考はどうにかならんのか」
さすがにチロが進化して大きくなったとは言え、大きさ的に無理がある。
どうにかして上へ行こうとした時、またあの内部が動き出すようなゴゴゴゴ……という振動が始まった。
「わわわわわっ!!」
ガコン!と最後に大きな音がしたかと思うと、僕らの前には一本の道が出来ていた。
「なーるほど、『準備が整いましたのでおいでくださいませ』ってか?」
少しだけ緊張を含んだかなでの言葉に、みんながゴクリと固唾を呑んだ。
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