第31話
「けほっけほっ、こんなにハデだなんて聞いてないっ!!」
「あひゃひゃひゃ、すげぇーっ! 予想以上の威力!」
僕はもうもうと立ち込めるケムリに咳き込んだ。爆破係をコイツに頼むんじゃなかったー!!
「さぁ行くぜ、つむぎっ」
「あっ、うんっ」
差し出された手を掴んで走り出す。まるで方向がわからない舞台を進み、パッと煙を抜け出ると、そこはいきなり全校生徒の目の前だった。たくさんの目がいっせいにこちらに向けられる。
「っ!」
静まり返ったのは一瞬だった。すぐに僕が誰なのか気づいたようで、いっせいに大声をあげ始める。
「い、居たぞー!! 裏切り者のつむぎだ!」
「馬鹿なっ、どうしてこんなところに?」
「なんでもいい、捕まえろっ! 国から懸賞金が出るぞ!」
一番最前列にいた上級生が目の色を変え飛びかかってくる、すぐさまかなでが防御壁をはってくれた。
「はいはーい、熱狂的なのは分かりますが客席から出ないようにおねがいしまーす」
「ぐあっ!」
ちょっと、ケガさせるのだけはやめてよ。生き生きとしたかなでは、どこから取り出したのか
「それでは歌っていただきましょう、裏切り、捨てられ、それでもワタシ刃向かいます! 琴ノ葉つむぎのニューシングル『それでも僕はやってな――」
「誰が歌うかァーっ!!」
僕の渾身のとび蹴りがかなでにヒットする。マイクが落ちてキィィーンとハウリングを起こした。僕はそれを拾い上げてゆっくりと話し出す。
「歌は歌わないけど、みんなに聞いて欲しいことがあります。簡単には信じられないとは思いますが、僕はポット村を燃やしてはいません」
一瞬、水を打ったように静かになる。だけどそれは本当に一瞬だった。
「ウソをつくな!! 何いまさら言い逃れしようとしてんだよっ」
「自白したんだろ! 新聞部の記事に書いてあったぞ!!」
う、あれはどうしようもなかったからであって……
「だいたい濡れ衣だっていうんなら、なんでコソコソ逃げるような真似をした!」
ワッとあちこちから投げつけられる怒声にかき消されそうになりながらも、僕は精一杯さけんだ。
「それは! ある魔法がみんなにかけられてるから! 僕が犯人だって思い込まされてるんだ!!」
「バカなこと言うなっ、オレらはそんなものにかかるほど単純じゃない!」
「そーだそーだっ」
もうっ、予想はしてたけどまるっきり信じてもらえない。こうも頭ごなしに否定されるとめげそうだよ~!
「記憶の改ざんはそう単純なものじゃない。自分がそう思い込まされてることにも気づいてないとしたら?」
「あっ」
横からマイクをかすめとったかなでが後を引き継ぐ。
「真犯人はこうなることを想定して術をかけている。そんな単純な罠にかかってしまうほど、この誇りあるニキ魔導学校の生徒は安っぽいものなのか?」
挑発するような声音に汚い言葉が飛んでくる。けれどもあちこちで顔を見合わせるような動きが出始めた。
「そういう……記憶をすり替えてしまうような魔法ってあるの?」
「ある。もっともかなり前に法律で禁止されているから、闇に葬りさられているけれど」
「じゃあ私たち、もしかしたらそんな術に既に掛かっているって可能性もゼロじゃないの?」
「えぇ、それってすっごいブキミ……」
流れが変わった! もしかしたらこのまま信じてもらえる?
「つむぎ、詳しく話を聞かせてちょうだい」
「ヒノエ先生!」
すがるような、信じたいような顔で先生が駆け寄ってくる。だけどその手をとろうとした瞬間、彼女の黒いまなざしが急に妖しい紫色に輝いた。
「うそつき」
「えっ」
真顔のままの先生は――いや、みんなが無表情に僕を見ている。その口がいっせいに同じ動きを始めた。
「うそつき」
「うそつき」
「おまえはうそつきだ」
すぐにその声は輪唱のようにひろがっていく
「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」
「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」
「うそつき!」「うそつき!」「うそうそ!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」
「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」「うそつき!」
両耳をふさいでくらりとよろめく。すぐにかなでが寄ってきて肩をひいた。
「つむぎ。もう十分だ、第二フェーズに移行」
とんでくる光線をなんとか弾き飛ばしながら、前もって用意しておいたワイヤーにかけよる。引っ張るとすぐに巻き上げられて飛ぶように窓から講堂の屋根に出た。見事な満月が辺りを冴え冴えと照らしている。
「う……」
ヒザをついて口元を押さえる。きもちわる……。
「ちょーっとキツかったね、あの光景は」
「違う、僕はうそつきなんかじゃ」
「わかってるよ」
ポンと頭に手をのせられ、わしゃわしゃかき乱される。
「さぁ、ここから鬼ごっこ。昔よくやったの覚えてる?」
その言葉で思い出すのは、まだ僕らが無邪気に街を駆け回って遊んでいた時のこと。少し微笑んだ僕は立ち上がった。
「大丈夫、逃げられるよ」
次の瞬間、風魔法でも使ったのか先輩たちがいっせいに飛び上がってくる。僕らはパッと逃げ出した。屋根の上から飛び出し、隣の校舎のベランダめがけて飛び移る。
「「シルフウィンド!」」
バッと下に向けて空気弾を打つと身体がふわっと浮き上がる。三階分上昇した僕らはそのまま空っぽの教室をかけぬけて廊下に出た。
「クイックBランチセット~!」
「だからその作戦名わかりにくいんだってば!」
とはいえ、身体に染み付いた動きで僕らは二手に別れ走り出す。よしっ、このまま追っ手を分散して――
「足の長い華麗なオレを追うより、チビなつむぎを追った方が確実だよー」
「かなでコラぁぁぁ!!」
後から追ってきた生徒たちは一瞬まごついてそれぞれを追ってきた。僕はいそいで階段を跳び下りる。
「ダークバインド!」
「ひっ」
足元めがけて飛んできた魔法をすんでのところでジャンプして避ける。気を抜くな! 一瞬でも捕まればそこでおしまいだ!
「追え! しょせんチビだ、すぐに追いつける!」
「チビって言うなぁーっ!!!」
「なんだコイツ、メチャクチャ足はえええ!」
反射的にどなり返した僕はそのまま校舎を一周して上り階段に差し掛かる。別れてきっかり三十秒!
「!」
階段の折り返し地点で、下ってきたかなでに鉢合わせる。ぶつかる寸前、僕らは床をキュッと鳴らして思いっきりトンボを切った。そのまま追ってきた人たちをひらりと飛び越えて背後を取る。
「うわあああ!!」
僕を追ってきた人たちと、かなでを追ってきた人たちが出会い頭につぎつぎと衝突していく。よほどすごい衝突だったみたいで、彼らはもんどりうって階段を転げ落ちた。そしてそのまま床で伸びてしまう。
「いえーい、ナイスちーむわーく」
「僕にほとんど押し付けておいて何がチームワークだっ!」
僕のとなりに着地したかなでの頭を、パコんとはたく。しかし息をつくヒマもなく、次の追っ手が現れた。
「あらー、なんというエンドレス鬼ごっこ」
「うぇぇぇ、ちょっとは休ませてよーっ」
またもダッシュで逃げ始めた時、ピロリンと着信音が届いた。耳につけたイヤリングをカチッと押したかなでは僕にその片方を放り投げてくる。
「はーい、こちら『かなむぎコンビ』」
「なにそのコンビ名!?」
慌てて耳につけると、小さな水晶体の向こうから聞き慣れた声が聞こえてきた。
『こちらコードネームT。魔力の流れを特定してるわ』
「T……って、つづりちゃんでしょ」
『ふふっ、一度こういうのやってみたかったのよね』
あのー、もしもーし、いまさらだけど僕の危機的状況をみなさん何だか楽しんでるよーな、いやいや気のせいだよね!
『本校舎の屋上から観察してるわ、だけどちょっとこれは……』
「な、なに?」
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