LASTArk 8

早朝。コエは鳥の鳴き声で目を覚ました。隣では夜一緒に番をしていたシンが眠っている。どうやら見張りをしているうちに二人とも眠ってしまったようだ。

シンの様子を見ているとルアルが倒木の中から出てきた。

「あ、おはよ」

「おはよー………ふぁ…」

ルアルに返事をしながらあくびをする。ルアルの後ろからユースも出てきた。

「いてて…寝違えた……」

ユースが首をひねって伸ばし始めた。そういえば昨日みたときだいぶ首を痛めそうな体制で寝ていたなと、コエは思った。

まだ眠っているシンを起こし、火の後始末などを始める。後始末と平行してモンスターの肉をついばむ。一日、二日くらいはまだ生で食べられるらしい。

昨日は結局モンスターの肉を食べた。

味は食べれなくはないが普通の肉と比べてだいぶ血生臭さいし硬い。栄養は結構あるらしいが少なくとも美味しいとはいえなかった。

ユースは慣れているのか普通に食べていたがその他は微妙な顔をしながら食べていた。

しかも生で食べるから余計生臭かった。血抜きはある程度したが、だいぶ口についたので全員いろいろホラー状態となった。

「本当に生のほうが美味しいの?」

「じゃあ、試しに炙ってみたら?」

ユースに言われたとおり、コエは肉片を試しに炙ってみて食べたのだが、

………うん、絶対生で食べたほうがいい。

結論だけいうとその通りだった。

ちなみに内臓とかも食べられるらしいが消火器官は食べないほうがいいらしい。というか、ユースから食うなとだいぶきつく言われた。

食べ残しはそのままにしておいた。多分森の動物が食べてくれるだろう。

四人はふたたび歩き始めた。

「これって見つかるの……?」

「仕方ないよ、だって探索系の魔法使えないし……」

ルアルがそう言った。一応こういうときのために仲間を探すための魔法はあるのだが、誰もそれを使えないのだ。

「なー?なんかいい方法ないの?」

コエが言葉をこぼすを

「一応光属性の魔法に似たような魔法がある」

「え、じゃあそれ使えよ」

「俺だと魔力が弱すぎて使えない」

「なんだ、役立たずぅ………」

「悪かったな」

ユースの声にコエに対する苛立ちの色が見えた。

「けど、この状況だとコエくんも役立たずだよ?」

「まあそうだけど………」

まず、ここにいる四人のうちコエとルアル以外は対人派閥なのだ。魔法を使うとなると無理がある。

方法がわかっているなら方法をその二人に教えればいいというわけでもない。

魔法にはそれぞれ属性魔法と無属性魔法がある。この二つの魔法はそれぞれ必要な魔力の種類がことなる。さらに、属性魔法には属性による細かい種類分けがありその一番量の多い属性の魔力が自分の属性となる。ルアルを例にあげると彼の場合属性魔力で一番多いのは電気ということになる。

他の属性の魔力が全くないということではないのだがルアルは光属性の魔力は生憎そんなに持っていなかったようだ。

コエにも試してみたが上手く使えなかった。

「歩いて探すしかないか……」

「だいぶ効率悪いけど」

仕方なく四人は森を歩いて捜索を続ける。足跡や人がいた痕跡がないかくまなく辺りを探し続ける。

シンは自分の鼻を使って人の臭いを探していた。

「んー?こっちからなんか臭うなぁ……」

「何か見つけた?」

ルアルがシンに尋ねた。シンは頷き、より臭いを感じとるためにしゃがんだ。

「この辺かな………ん?」

シンの目に何かキラリと光るものが映る。拾いあげてみるとそれは透明な糸屑だ。

「何それ?糸……?」

ルアルが顔を覗かせる。

「うん……けどなんで……」

その直後、二人の体が勢いよく上へと浮き上がった。

「うわぁああっ!?」

あまりにの出来事に声をあげる。二人の悲鳴にユースとコエが驚いたような顔をして振り向く。

「何だっ………これ…?」

シンが自分の手足を見るとさっきの透明な糸が絡まりついている。二人は木の上に高く吊り上げられてしまった。

「おい!!大丈夫か!?」

ユースが下から声をあげる。

「怪我とかはないけど!何か変な糸が………!」

ルアルがそう答えるとコエが強く反応した。

「!!……糸?」

ユースがコエの方をみるとコエの表情には焦りと恐怖が入り交じっていた。

なにか心当たりがあるのかとコエに尋ねようとしたとき、後ろから声が聞こえた。

「おやおやー、コエくんじゃないか」

コエが声に反応してそちらを振り向くと同時に、その声の主は刃を振りかざして一気にコエとの距離を摘めてきた。

ユースはそれに気付き、間に入ってその刃を弾き飛ばす。

ガキンと、ユースの槍と刃がぶつかり合う音がした。

声の主は一旦二人から距離を取った。

「やあ、コエくん。また会ったね」

その声の主、テイラーはコエに対してにっこり微笑んだ。コエはそれに対して「ひっ」と声をあげる。

その顔には明らかに恐怖が滲み出ている。

「何だ、お前は……」

ユースがテイラーを睨み付ける。

「やだなーそんなに睨まないでくださいよ。君もラストアークのメンバーなのかな?」

テイラーは表情を変えずに言った。

「そうだけど。何のようだ」

こちらも睨みを解くことなくテイラーに尋ね返す。

「いや、ね。前、僕はコエくんと一緒にあそんだんだけど。ね、コエくん?」

テイラーはコエに投げ掛け視線を送るが、コエは目を伏せて合わせようとしない。

どうやらコエにあの大怪我をさせたのはこの魔俗の男に間違いないようだ。

「で、今回も一緒に遊ぼうかなーって。けど君がが割ってはいってきて………邪魔なんだよね」

テイラーは自分の武器である大きな鋏に手をかける。

「だから、そこを退いてくれないかな?」

「誰が退くか」

ユースはきっぱりと言った。テイラーは残念そうな顔をした。

「そうか……けど、君もいい素材になりそう………」

そう言うとさっきとは別の微笑みを作った。微笑みに変わりはないのだが明らかに狂気を含んだ笑みだ。

「じゃあ、まず君と一緒に遊ぼうか。よろしくね」

「ああ、存分に楽しませて貰うぞ」

二人は向かい合って構えをつくると同時に地面を蹴った。

***

「カピラタ、なにか聞こえるか?」

アリマがカピラタに尋ねる。

「うーん……?こっちって言ってるような……?」

「私の魔法もこっちです」

アリマたちには幸いフォスターとカピラタがいるのでまだ希望はある。

しかし、フォスターはこの魔法を使うのは初めてなのであっているかどうかが不安だ。だからカピラタにも風の声を聞いてもらい続けている。

「結構皆と離れてしまっているようですね……なかなか見つからないとなると………」

カリンが辺りを見回しながら言った。カリンにはその体の大きさを生かして遠くに誰かいないかを探してもらっている。

「うーん、それも考えられるな………」

アリマが腕組みをして唸った。こう、二日もバラバラなままだとさすがに不安が一層ます。

「コエくん大丈夫かなー」

カピラタがふと、そんなことを言った。

前回のことがあって皆が一番心配しているのはコエ一卓だった。

「まあ、大丈夫だと思うけど………」

そうであると願っていたい。

「で、カピラタ。また風は何か言ってるか?……………カピラタ……?」

カピラタの返事がなく後ろを振り向くとカピラタの姿が消えていた。

「なっ………!?」

隣のフォスターも驚きの表情を見せる。しかし、消えたのはカピラタだけではない。

カリンのあの大きな気配も忽然と消えていた。

「くそっ……油断した……!!」

─これじゃああのときと一緒ではないか……!─

アリマが悔しさを滲ませ、木に拳をドンと叩きつけた。

ふと、フォスターがその木になにか刻まれていることに気づく。

「これは……」

それを見るなり、持っていた小さな小刀で上から傷を着けた。

「何だそれは」

「魔方陣ですよ……しかも転送魔法の……」

フォスターは魔方陣を見て言った。

「おそらくこれが発動したんでしょう。傷を着けたのでもう効果はありませんが……」

そういって魔方陣が刻まれた木を叩いた。

「誰かが私たちがここを通ることを見越して刻んだのでしょう……たぶんあのグループ─

そのとき、どことから黒い稲妻が飛んできた。

「危ない!!」

アリマがフォスターを突き飛ばした。アリマに稲妻が直撃し、その場に膝をつく。

「アリマさん!!」

突き飛ばされたフォスターが駆け寄る。

「?どこも痛くはない………」

攻撃を受けたのにも関わらず無傷だ。アリマは立ち上がろうとした。

しかし、何かが変だ。体が異常に重い。体を動かそうとしてもまるで他人の体のようだ。

「あれ、二人に狙ったのにはずしちゃったか……」

声のする方を見上げるとウサギの耳をした少年がたっていた。

「お前は……あのグループにいたな……」

「君は……ちらっと見たけどマリアのお姉さんなのかな?」

少年…クレイグの言葉にアリマは彼を睨み付ける。だが、彼は気にかけるとこもなく話を続ける。

「同時に当てられたら楽だったんだけどねぇ……マリアにアリマがいたら連れてきて!って言われてるから……」

グレイグは一歩前にでてこう言った。

「鹿のお兄さん、そこ退いてくれない?」

「嫌ですね。退く理由がありません」

フォスターがそう言うとクレイグはため息をついた。

「お兄さん多分魔法派閥でしょ?俺格闘技とか得意だからタイマンだったら負けちゃうかもよ?そっちのマリアのお姉さんは俺の魔法でしばらく動けないし、魔法重視で使う人は間合いに入られると弱いし……」

そう一気に吐き捨てた。

だがフォスターはそれを受けても動じない。

フォスターが口を開いた。

「………そう喋っている暇があれば責めてきたらどうですか?」

「っ!何を……」

クレイグが踏み出そうとしたとき、片足が何かに引っ張られるように動かなかった。

「なっ………?」

動かない足の方を見てみると地面から蔓が生えてクレイグの足をとらえていた。それだけではない。気づけば反対の足も、それぞれの腕にも蔓が絡み付いていた。

「こんなの……っ…」

もがけばもがくほど蔓はどんどん食い込んでいくし、本数も増えていった。

「さ、今のうちにいきましょう」

「おい……待て……っ!」

フォスターはそういって動けないアリマを抱きかかえた。

「倒さなくていいのか?」

「彼の言う通りタイマンだと負けてしまいます。ここは逃げたほうが懸命だと……」

その時、クレイグをとらえていた蔓が一気にズタズタに切り刻まれた。

「!?」

アリマが驚いた顔をする。

「………思ってたよりも早く来ましたね」

フォスターはポツリとそう呟いた。

「なんだよ?気づいてたのか?」

一人の人物が二人の前に飛び降りた。

「もう、勝手にどっかいって………」

クレイグが不満を漏らす。

「だってよぉ、こんなの来たくなんかななかったんだからな………」

そういってアリマたちの方を向いた。

「よぉ、また会ったな」

ルシフェンがニヤリと下衆な笑いを浮かべた。

「お兄ちゃん……」

「こいつがか……」

フォスターと全く容姿が似ないルシフェンをアリマは見る。兄弟とか姉妹といえば大体似たような容姿をしていると思いがちだがそうとは限らないことを改めて確認した。

「さあ、今日こそは逃がさねぇからなっ!!」

ルシフェンの言葉とともに戦いの火蓋が切られた。



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