死神は劣等生

雪追舞

Episode1 天使落第

天使試験に落ちた・・・。


彼女は自信があっただけにショックだった。

「あんなに一所懸命勉強したのに・・・」


天使は一番人気があるので競争率が高い。

でも彼女は頑張った。


ただ、死ぬまでの時間が僅かしかなかったから、勉強する時間が少かった

・・・なんていうのはただの言い訳にしかならない。


彼女の名前はパレル。もちろん、天国こちらの世界での名前だ。

現世まえの名前はもう憶えていない。


天使試験に落ちたパレルは、仕方なく死神になることになった。


「やっぱりやだな・・・死神なんて」

パレルは試験に落ちて以来、ずっと落ち込んでいた。


「パレル、そろそろ行くぞ」 


声を掛けたのはジャンク。ちょっとガラの悪そうなチンピラ風の死神で、彼女の教育担当役だ。


パレルはまだ死神研修中の見習いだ。だからこのジャンクから死神の指導を受けている。

この研修を終えることにより、晴れて一人前の死神となれるのだ。


「なんだ。お前まだ落ち込んでんのか?」

「だって私、死神なんかになりたくなかったもん」

パレルはぼやくように言った。


「大体なあに? このダサイ黒い服・・・童話に出てくる悪役の魔女みたい」

パレルは自分が着ている死神の制服が気に入らなかった。先の曲がった三角帽にヨレヨレの真っ黒な服、数百年間変わっていないこの死神の制服は確かにダサく見えた。


「何言ってるんだ。これは我が死神族の由緒ある制服だぞ」

「こんな古臭いデザインの制服だから死神はいつまでたっても人気が無いんだよ」

「神様がこの死神の制服が気に入ってるみたいだからしばらく変らないだろうな」

「神様のセンス、疑うな」


パレルはふてくされたように唇を尖がらせた。


道の正面から純白に輝く衣を纏った少女たちがパレルたちに近づいてくる。天使と天使試験に合格したその研修生たちだ。


天使試験に落ちたパレルには、その白い制服はいっそう眩しく輝いて見えた。


「いいなあ・・・可愛いなあ・・・私も着たかったなあ、あの制服・・・」

パレルは羨ましそうに彼女たちを見つめる。


「ふん、俺はイケ好かないな、あんなインテリな制服。お前のその黒い制服のほうがよっぽど可愛いと思うぞ。うん、可愛い可愛い」

ジャンクはそう言いながらニヤリと口角が上がっていた。


「ジャンク・・・」

「なんだ?」

「嘘、下手だね」

パレルは軽蔑の眼差しでジャンクを睨む。


「な、何言ってんだ。本当にそう思ってるぞ・・・うん」

ジャンクは冷静さを失うと目が泳ぐクセがあった。


「言っとくが俺たち死神は決して天使より身分が低い訳じゃないんだぞ。

だから卑屈になるなよ。死神としてのプライドを持て!」


「プライドねえ・・・プライドより可愛い制服がいいな」

パレルはさらに唇を尖らせながら天使たちを羨望の眼差しで見つめた。まるでアヒルのようだ。

 

「ねえ、ジャンクは死神になってどれくらいたつの?」

「ああ? うーん、よく覚えてねえけど二百五十年くらいかな・・・」


「天使になりたいと思ったことは無いの?」

「無いね! 俺はこの仕事は気に入ってんだ。まあ俺の成績じゃ元々天使になんてなれないけどな。それに、人気はないけど死神の仕事だってそんなに捨てたもんじゃないんだぞ」


死神の仕事は、死にゆく運命の人のところに出向き、人生の思い出を走馬灯のように見せて召喚させることだ。


召喚とは人が天国に召されること、つまり死ぬことを言う。

死んだあとに、その魂を現世から天国まで連れていくのは天使の仕事でだった。


「今日もこれからまた死ぬ人のところに行くんでしょ。憂鬱だなあ・・・」


「お前、死神の仕事で一番大切なことは何だか分かるか?」

「分かってるよ。これから天国へと旅立つ人に『いい人生だった』って思いながら逝ってもらうことでしょ」

「そうだ。人が死ぬ時、直前に見る走馬灯のような景色、それを見せるのが我々死神の仕事だ。できるだけ楽しい思い出をたくさん集めてあげて、自分の人生がいい人生だったと思ってもらうんだ。俺たちの腕次第でその人が幸せな気持ちで天国へ旅立てるかどうかが決まるんだから、大切な仕事だぞ。天使にはできない仕事だ」

「ふーん・・・」


パレルは納得したようなしないような中途半端な返事をしながら顔を反対側に逸らした。



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