【書籍発売中】天才詐欺師は転生してもラクに暮らしたい(旧題:異世界(インチキ)ヒーローズ)

如月衣更

第1部

第0章「インチキ占い師の末路」

第1話 プロローグ

 ――いやね、そりゃアコギな商売だったと思うよ。


 なんせ騙されやすそうな人間をカモにして、口八丁手八丁でインチキ占い信じ込ませるわけだし。

 しかもそれでお金取ってるんだから普通に詐欺だよ。


 でも、さすがの僕もびっくりしたね。

 お前のせいで億単位の損失が出たって言われてもさ、まさかコンクリ風呂に入れられるとは思わないでしょ?


 勘違いしないでほしいんだけど、占い師は予知能力者じゃないんだ。

 株の動きなんて予想できるわけがない。


 仮に本物のスピリチュアルパワーを僕が持ってたとして、「数日後この銘柄が右肩上がりになる!」とかいうイメージが浮かぶの?

 デジタルに対応してるのか、すごいなスピリチュアルパワー。


 ……ともあれ、今回こんなことになってしまった全ての原因は、僕に詐欺師の才能があったからだ。

 あまりの的中率に口コミが広がり、雑誌の取材にラジオのゲスト、果てはゴールデンタイムのバラエティ番組にも呼ばれるようになった。


 舞い上がっていた、という表現が適切だろう。

 最初はほんの小遣い稼ぎのつもりだったのに、身の丈に合わない収入を得られるようになると途端に自制心が鈍ってしまった。


 結局、手に余る金と名声に振り回されてこの様だ。

 成功者が身を持ち崩す典型的なパターンと言える。

 

 そういうマヌケを食い物にしてきた僕が、見事にマヌケの仲間入りを果たしたってわけだ。 

 その末路がコンクリ風呂で東京湾遊泳とは……まあ、因果応報と言えばそれまでなんだけどね。


 案外占いで株の動きを予知しろなんてのは建前で、この件の責任を負わせるスケープゴートにたまたま僕が選ばれただけってこともありえる。

 成功すれば金を奪って口封じ、失敗すれば全責任を押し付け口封じ――

 もはや予知の成否は関係なく、用が済めばさっさと始末して終わりって筋書だったのかもしれない。


 今の自分をタロットで占うとしたら、僕はこう告げるだろう。

 『引いたカードは正位置の悪魔。欲に溺れ、こういう輩に目をつけられた時点で結末は決まっていた』とね。


 さて、自虐してる間にドラム缶に入れる生コンの準備ができてしまったようだ。


 両手両足は結束バンドで固く結ばれているため身動きは取れない。

 唯一の可能性である話術に頼ろうにも口には猿轡だ。


 とてもじゃないけどこの状況を打破する方法は無い。

 それこそ、突如スピリチュアルパワーに目覚めるか神様に祈りが通じるかくらいのファンタジーが起こらない限り、僕の死は避けられないだろう。


 あまりに滑稽だ、こんな時だというのに少し笑いが込み上げてきた。

 別に逃れられない死を前にして気をおかしくしたわけではない。


 これが笑わずにいられるか。

 超常の力はここに在ると嘯き、神に通じていると騙ったこの僕が、今それらの力に頼らざるを得ない状況にいるんだから。


 やってみろって? できるわけがない。

 スピリチュアルパワーなんてものは存在しないし、この身は神に通じてもいない。

 残念ながら僕はただの人間だ。


 あまりにあっけない。

 不思議なことなんて何一つ起こることなく、僕の終わりは当たり前のように訪れた。


 その直前、走馬灯のようなものを見て過去を振り返っているうち、ふと思う。


 ……そういえば、なんで占い師なんて始めたんだっけ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る