遺書

タチバナエレキ

遺書

授業中に学校がテロ組織に制圧されたら、自分はその他大勢の1人として死にたい。ヒーローにはなりたくない。


ずっと集団の中で「ずれ」を感じて生きてきた。

周りと同じでありたいと願っても、些細な所で浮いてしまう。

多数決では自分の意見が通らない。自分なりに迎合したつもりでも必ず少数派になってしまう。

周りとうまくやる、それは誰にでも簡単に出来る事だと思っていた。

友達はいた。他にも浮いてる奴は少なからずいて、なんとなく一緒にいた。

しかしその少数派の中でも自分だけ意見が合わなかったりする。自分には共感能力がないのだと絶望した。そんな自分を理解してくれる親友が1人だけいたが、昨日死んだ。


自分は「普通」でいたかった。

有事が起きたらその他大勢として皆と同じように死ぬ、そんなモブになりたい。それなら葬式の参列者の事も考えなくていいだろ?どうせまとめて葬られる。


何故こんな事いきなり言い出すのかって?


本当に人を食らう怪物が学校に現れたからだ。


今、運動部の連中からいじめられていた隣のクラスのデブ男と、1年では有名な電波系女子と3人で映研の部室に隠れてる。


デブ男が聴いているラジオに寄ると、校内にいる人間の8割は死んだ。

自分は生き残りの2割に入ってしまった。


デブ男と電波女は「死にたくない」と言う。

「自分をいじめていた連中は死んだし、今までどんなに嫌な思いをしても意地で生きてきた。今更死にたくない」からだと言う。

また自分だけ少数派だ。


授業をサボって部室で昼寝をしていたら、彼らが逃げ込んで来てことの次第を知った。

慌てて廊下の窓から外を覗くと校庭を怪物が走り抜けていくところで、バタバタ倒れている人がいて、更に塀の外に待機するSWATが見えた。

成る程、これはドッキリではない。

呆然としていると直ぐ2人に部室に連れ戻され、ドアはバリケードで封鎖された。


本音では今からでもこの部室を出て暴れ回っている怪物に向かって行きたいが、2人が外に出る事を許してくれないだろう。


今、2人に見られないように机の下でこのノートを書いている。


突如現れた人を食らう怪物。

さっき、窓の外を走っていたそいつは巨大な×××だった。

自分はこの怪物に心当たりがある。


親友は昨日の夕方、学校の裏で倒れているところを発見された。飛び降りではなく、肩に人間のものとは思えない大きな歯形があった。失血死。


怪物は最初は小さかったはずだが、人を襲う度に大きくなる。だから昨日の時点では認知されていなかった。

つい先日、そんな都市伝説があると親友が教えてくれたのだ。

人の肉を食らい成長する化け物の話。


これは遺書。

無事書き終わったら2人を残してこの4階の窓から裏庭に飛び降りるつもりだ。

でもきっと失敗して2人に命を助けられてしまうと思う。自分はそんな人間だ。

その時はこのノートを焼却炉で燃やす。

そして悔しいがそうなった時には全てを諦めて生きてみようと思う。

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