四人の悪党


 フランスの片田舎、草原広がる中にぽつんとある小さな町。歳の離れた男女は三日ほど前にこの町にやって来た。黒川一士から紹介してもらったのはその小さな町で牧場を営む夫婦の家だ。車いすに乗った厳つい強面の男を、整った顔立ちの、凛とした雰囲気を纏う一人の女性が青々と広がる草原に向かって車いすを押している。

 それぞれ、マフィアの頭目として生きた二人だったが、今はただの親子になれるように、と互いに支え合っていて生きることを決め、アーサー・シャーロット、現在はアーサー・フレデリックとして自分の押す車いすに乗る男性、本当の父親であるオーガスト・フレデリックと共に舗装されていない道を進む。草原の丘に上がり、オーガストが口を開く。

「いいのか、私なんかのために人生を無駄にすることはないと思うぞ」

 優しく、アーサーは慣れないお淑やかな口調で返事をした。

「家族に遠慮なんかしないで」

 苦笑いでオーガストは日本で過ごした数日間を思い出し、小さな声で呟く

「子供の痛み、か」

 足の痛みと共にオーガストは思い浮かべたのは幼い頃、妻の霜子と共に日本へ送り出した子供の顔。顔は見れなかったが、赤い髪だけは母親の遺伝かな? と成長した我が子の姿を思い出し、胸を痛める。

「お……お父さん……」

 不意に、アーサーは頬を染めて、初めてオーガストのことを「お父さん」と呼ぶと、オーガストは照れ隠しに前を向き直す。それを見て、アーサーはくすくすと笑い出し「あーあ」と声を漏らした。空を仰ぎ、晴れ渡った空に向かってにこやかにアーサーは微笑む。

「似合わないことをするのはやっぱり、疲れるな」

 それでいい、とオーガストは笑った。ゆっくりでいい、それでいい。

「お礼の手紙を送りたいんだ。日本語で書きたいから手伝えよ、親父」

「口の悪い餓鬼め」

 笑って、親子は草原を進む。その先には、新しい世界が広がっていた。


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