◆
何者なのか。
まず間違いなく桐乃側の人間ではない、それだけは桐乃にもはっきりとわかった。ちりちりと放たれる殺気のようなものが、少し離れた桐乃にぶつかってくる。目の色が、違う。
「……ダイヤは好きにするといいっすよ。アレは俺の目的には含まれていないっすから。それに、不和さんのおかげで知りたいことも知ることができた。もう虎波生絲の役目も必要性もなくなってきたところっす」
「……だとしたら、あなたの目的は」
銃声がさらに強まる中、由良に虎波は冷たい笑みを浮かべて見せた。
「黒川氏があなたをブレーンに置く理由がわかったよ。あなたは勘が鋭過ぎる」
虎波が不気味に笑顔を浮かべた時、カウンター越しに鳴瀬の声が飛んできた。
「来るぞ!」
その声を合図に虎波が桐乃たちに「奥へ!」と叫ぶように言った。この場は彼の言うとおりに動いたほうがいいと判断したのだろう、鳴瀬が先に奥へと銃を携えて走っていく。桐乃は由良に手を引かれて走り出し、大将も付いて来る。
「!」
突如、厨房に姿を現した武装集団に鳴瀬の銃が火を吹く。耳を思わず桐乃は塞ぎ、しゃがみ込む。その一瞬、一塊になっていた桐乃たちの中に、虎波生絲の姿が見えないことに桐乃は気付いた。しかし状況が状況だ、他人を心配している場合ではない。
「くそ……! 酒で目が回る!」
馬鹿なことを言いながら鳴瀬が引き金を引き続ける。その最中、由良が桐乃から手を離して飛び出す。腕を大きく振るい、指先を動かす――その動作の直後、武装集団の動きが僅かに鈍った。
「狭い場所では糸が操りにくいんです。鳴瀬くん、あなたはもう二度とお酒を飲んじゃ駄目ですよ」
「そうする」
言って、鳴瀬は連射する。店の出入り口をハチの巣にした銃器よりも耳の奥まで届き、脳が揺さぶられるかのような発砲音が止む。音がぼやけて聞こえて不快感が残るも、立ちはだかった武装集団は一人、また一人と前のめりになって倒れていった。
人が撃たれて死ぬ。初めて目の当たりにした黒い部分にさっき食べた食事が胃の中から込み上げてくる。しかし、吐いている場合でもない。必死に堪えて、桐乃たちは厨房奥の裏口を目指す。背後を見やって、虎波やアーサーの身を案じながら、吐き気を堪える桐乃は躓きながらも殺し屋の後ろを付いて行った。
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