夏服の少女の奇跡


何処へ行っても

誰といても

たった一人の少女は

薄い夏服で

戦闘機が飛び交う青空の下を

ゆっくりと歩いていた

腰まで伸びた長い髪を風に揺らして

漂う整髪剤の偽りの花の香り

でもそれが少女が自分で選んだ物ではないのだ

少女を見つめるわたしは

もはや壊れてしまって

この世界でようやく微笑むことが出来る予感がした

頭がおかしくなったのではない

そうではないのだ

少女はたった一人でそこにいる

吹き付ける風はとても生ぬるかったし

それが気持ち悪かった

感性があるならきっとそう断言、出来る筈

少女は

まだ壊れずにそこにいた

わたしは次の質問を投げかけずにはいられなかった

あと何秒?

あと何秒そうしていられる?

奇跡のようにさ

少女を避けて落下する爆弾だった

けれどそんなものは錯覚なんだよ

いい加減、目を覚ませよ

柔らかい肌は何も拒めずに

ただ黙って受け入れるだけ

少女というその物質よ

その先に何が待ち受けているのか

解らないのか?

それでは死んでしまうよ

それでは駄目なんだ

そのやり方はもう通用しなくなったんだこの世界では

きみはまだ生きていかなくてはならないのに

この世界で


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