第19話 朝の出来事②
俺は歯を磨き終えるとセリスの元へ行く。
「あ!やっと来た!何してたの?」
「歯を磨いてたんだ」
「そうなんだ!これ美味しいよ!」
そう言って渡してきたものは骨付き肉だった。すごく美味そうなんだが、小さい女の子が骨付き肉を両手に持ち、食べている姿がおかしくて笑える。
「おいおい、口の周りが汚れてるぞ?」
「拭いて」
「仕方ねぇなぁ」
んっ!と口を出してくるので拭いてやる。本当に俺はこいつに甘くなったなぁ、ていうか惚れてるからか。と俺が思っているとザックが紙を持ってこっちに来た。
「ソウタ君、これを持って行きたまえ」
「なんだこれ?」
「私のサインだ」
「いらねぇよ」
そう言って投げ捨てようとすると、ザックが慌てて止めてきた。
「わぁー!待ってくれ!それを困った時に他のギルドの責任者に見せてくれ」
「なんでだ?」
「私は意外にも人望が厚くてね、それなりの地位にいるんだよ」
「へぇー」
「興味なしかい!?」
俺はセリスの前にある皿にのっている骨付き肉をとろうとすると、セリスに手を叩かれた。
「何すんだよ?」
「これは私の!」
「いいじゃんか、一つくらい」
「ダメー!」
「わかったよ」
ふしゃー!と言いそうなぐらい警戒しているので取るのをやめた。そしてセリスが安心しきった瞬間に骨付き肉を一つとってやった。だって食べたかったんだもん!
「あー!ダメって言ったのに!!」
「一つくらいいいだろ?」
と言い噛み付く。するとあまりの美味さに驚いた。このジューシーな感じに味付け、今までこんなに美味いものを食べたことないぐらいの美味さだった。
「セリス、もう一個くれ」
「いや!」
「なんでだよ」
「美味しいんだもん!」
「ちっ」
「舌打ちした!もう絶対にあげない!」
本当にくれなそうなので別のものを食べる。そして気がつくと骨付き肉は残り一つになっていた。
この時を待っていたぜ!
と言いたい気持ちを心の中で抑え、最後の一つをとり、そのまま一口食べる。
「うめぇー!」
「ダメー!!返して!!」
一口食べた瞬間セリスが飛びかかってきた。まさかここまでしてくるとは思わなかったので、座っていたイスごと倒れてしまう。そして、セリスは涙目になりながら俺の胸をポカポカ殴ってきた。
「返して!返して!」
「嫌だ!俺だって食べたいんだよ!」
「うわぁぁーん!!最後の一つだったのにー!」
「別にいいだろ、あんなにいっぱい食ってたんだから!」
「もっと食べたいの!」
そう言って俺が倒れてもなお、持ち続けていた骨付き肉に噛み付いてきた。
「何すんだよ!行儀悪いぞ!」
「ソウタに言われたくない!」
「残りは俺がもらう!」
「私が食べるもん!」
そして二人は同時に噛み付こうとした瞬間、ソウタはセリスの頬にキスをした。
「えっ...〜〜///」
瞬間、セリスの顔は真っ赤になった。周りから「おぉー!」という歓声が聞こえてくる。そして俺はその隙に骨付き肉を平らげた。
「ふぅ〜、美味しかった」
「えっ?」
すると、セリスは目を見開きながら聞いてきた。
「今のちゅー、は?」
「ん?セリスの気を惹けると思ってな」
「じゃあお肉を食べるため?」
「あぁ」
「ソ、ソ、ソウタの、」
セリスは下を向きながらプルプル震えている。そして、爆発した。
「ソウタのバカァァァァ!!!!」
「うわぁ!」
驚くほどの速度で飛びかかってきて、俺の顔をひっかいてくる。地味に痛いのでやめてほしい。
「ちょ、セリス!落ち着けって!」
「ふしゃー!」
セリスは大激怒している。そんなに肉が食いたかったのか?食べ物の恨みは怖いと言うが本当に怖いんだなぁ、とソウタはそう思い、提案する。
「そんなに肉が食べたいなら食わしてやる!だからもう怒んなって!」
「ちがうもん」
「あ?」
「私が怒ってるのは、気を惹かせるためだけにちゅーしたこと!」
「は?」
生まれて初めて出来た彼女から言われたその言葉に、ソウタは理解できなかった。
「何言ってんだこいつ?みたいな顔しないで!」
「べ、別にそんな顔してないぞ?」
「ウソ、ソウタは顔にでやすいもん!」
俺のポーカーフェイスはどこに行ったんだよ!と思いっていると、セリスが泣き始めた。
「うわぁぁぁん!」
「は!?泣くなって!」
「うわ、最低」「あの子可愛そう」「あの男ブチ殺すか?」
セリスが泣き始めるといつの間にか周りにいた人達に言われた。なんだよ、俺が悪いのか?
「俺が悪いのか?」
「うん」
「あの男自覚なかったの?」「最低ね」「よし、殺そう」
俺がセリスそう聞くと、先程と同じように言われた。くそっ、意味わかんねぇ。
「悪かったよセリス、まさかここまで泣くとは思わなかったんだよ」
「許さない」
「何したら許してくれるんだ?」
「...ちゅー、して」
「は?」
「だから!ちゅーして!」
そこで俺はようやく理解できた。なぜセリスが怒っていたのかを。でもこんなに泣くものなのか?
「その、ここでか?」
「うん」
「恥ずかしいんだが」
すると、
「男みせろよ!」「ここでキスしなきゃ彼女に愛想を尽かされるぞ!」「俺みたいな過ちを犯すな!」「変われ!俺がキスする!」
「うるせぇよ!あと最後のやつ誰だ!ぶっ殺すぞ!」
男共にそう言っていると、セリスが俺の服を掴んできた。
「はやく」
「え、本当にするのか?」
「しなかったらもうずっと無視する」
もちろんセリスにそんな気は全くない。だがここまで言わないとキスしてくれないだろうと思ったから言ったまでだった。
「わかったよ」
すると、予想通りソウタが覚悟を決めてくれた。
「目、閉じてくれ」
そう言われたので大人しく目を閉じると唇に温かいものが一瞬押し付けられた。
「これでいいだろ!」
そう言ったソウタの顔は真っ赤になっていた。すると、周りから「きゃー!」と言う女性の声があがる。
「えっ?えっ?何でこんなに人がいるの?」
「なんだよ、気付いてなかったのか?」
「うん」
「どんだけ怒ってたんだよ」
ソウタは呆れている。ということはけっこう前から周りにいたんだろう。その事に気付いたセリスの顔は真っ赤になった。
「うぅ〜、恥ずかしい」
「俺だって恥ずかしいよ」
「なんでちゅーしたの!?」
「お前がやれって言ったんだろ!?」
俺達がそんなことを話していると、
「あの、名前何ていうの?」
「そうそう!名前教えて!」
と女性の方達がセリスに名前を聞き始めた。
「せ、セリス」
「セリスちゃんって言うのかー!私はエレナよ、よろしくね!」
「う、うん」
「きゃー!可愛い!」
なぜだか俺は押しのけられ、セリスの周りに女性達が集まる。
「あの男とはいつ付き合ったの?」とか「なんでケンカしてたの?」とかいろいろ聞かれている。
その間、俺は男達に話しかけられていた。
「兄ちゃんやるじゃねぇか!」
「こんな大勢がいるのにキスなんてよ!」
ガハハハ!と男達は笑っている。
「何でこんなに集まってくんだよ」
「そりゃぁおめぇ、面白そうなことがあったら見に行くだろ?」
「確かにそうだが。趣味が悪いぞ?」
「何言ってんだよ!このロリコンが!」
ろ、ロリコンだ、と?と少しショックを受けながらもセリス救助に向かう。
「どいてくれ」
「なんでよー!もう少し話させてよ」
すると、ほとんどの人がどいてくれたが、何人かが残り俺に文句を言ってきた。
「セリスが困ってるだろ?」
「そんなことないわよ」
「なんでお前がそんなことわかるんだ?」
「ならあなただってなんでセリスちゃんが困ってるって分かるの?」
「震えてんだろ?」
「あら、寒いのかしら?お姉さんが服貸してあげようか?」
「いい加減にしろよ?」
俺は威圧を少し発動させると、女達は「ひぃぃ!」と言いながら逃げていった。
「大丈夫か?」
「うん、ありがと」
「ならいいが、人に囲まれるの苦手なのか?」
「うん」
「そうか」
俺はそれだけ答えると、ザックが来た。
「まだ食べるかい?それとももう行くかい?」
「もう行くよ、セリスもそれでいいか?」
「うん!」
「なら、気を付けて行ってくるんだよ」
「親みたいな言い方だな」
「私からすればここにいる全員息子みたいなものだからね」
「そうかい、じゃあ行ってくるよ」
「行ってきまーす!」
「あぁ、行ってらっしゃい。またおいで」
別れの挨拶をして俺とセリスはギルドをでる。するとそこには、
「「「今までごめんなさい!!!」」」
街の人が大勢いて、同時に謝ってきた。
「なんなんだ、これは?」
俺がそう言うと一人の男がでてきた。
「今まで石など投げてすまなかった」
「気にしてない。それより、なんなんだこれは?」
「見ての通り、君に石などを投げた者達だよ」
「そんなことわかってんだよ。だからいきなりなんで謝りに来たんだよ」
「君の仲間に恋人を生き返らせてもらった」
「俺の仲間はこいつだけだ」
そう言ってセリスの頭を撫でる。
「だが君は神に選ばれた違う世界の人間なんだろ?それに事情はエギルさんからもザックさんからも聞いた。本当に事故だったんだな。しかも、やざわざガイルさんを助けるためにあんな危険な所に行った人に俺はなんてことを!」
「一人で盛り上がるな。それで、生き返らせたやつの名前は聞いたか?」
「もちろん、夏川香帆さんだ!」
「あいつか。まぁいい、生き返ってよかったな」
そう言って立ち去ろうとすると目の前に子供達が来た。
「あの、この前はごめんなさい!」
「気にするな」
そして立ち去ろうとするとまた止められる。
「ま、待ってくれ!これからどこに行くんだ!?」
「旅にでるんだよ」
「俺達になにか出来ることはないか!」
「ない。じゃあな」
「頼むよ!これじゃあ俺達の気が収まらないんだ!」
「なら夏川たちのサポートをしろ。それ以外は何もいらん」
「任せてくれ!みんな!聞いたか!」
「「「おぉー!!」」」
やれやれ、やっとこれで行けるかと思うと誰かがこっちに走ってきた。もうこれ以上は我慢できん!と思い、セリスの手を掴み、姿を消した。創造魔法で新しく「インビジブル」を創ったのだ。
「これ周りの人から見えてないの?」
「あぁ」
「すごーい!」
セリスはすごくはしゃいでいる。そしてようやく街を出た時には、ギルドをでてから三十分経っていた。
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