新しい日課
黛惣介
新しい日課
生まれつきのこの三白眼のせいか、この長い金髪のせいか、何故だか
あの子と出会ったのは中学二年生の夏休み、今から三年前のこと。ずたぼろで倒れていたところを妹が拾って来た。あの子というのは――雄の猫だ。白と黒の模様で、お腹の部分にある黒い模様が卵のような形をしていたことから父がタマゴと命名した。あの猫が気に入っているかどうかはわからない。ただ、家族が呼べば無言でありながらも反応を示す。そして当然のように、悠希が「タマゴ」と呼ぶと、無言で引っ掻いて来る。度重なる非情な一撃は、悠希の肌にいくつもの傷痕を生み出した。太腿を横一文字にやられた時は泣き叫んだ記憶がある。三年という長い年月を共にしたものの、一ミリたりとも距離は縮まっていない。今日も、廊下ですれ違ったタマゴにふくらはぎをやられた。「切り捨て御免」とでも言っていそうなクールな立ち振る舞い、直後のタマゴが歩き去る姿は、見る者が見れば百戦錬磨の侍に見えていたかもしれない。
タマゴとの日常はこれからも変わることが無いのだろうと悠希は思っていた。しかし、タマゴを一番可愛がっていた妹が、今年の春に全寮制の高校へ入学、家を出た。そして今年の夏、二週間後の八月の頭に、二番目にタマゴを可愛がっていた兄が一人暮らしをするために家を出る予定だ。今まで世話を積極的にしてきたナンバー1と2が今年になって急に姿を消す非常事態。これは悠希にとって重大な問題でもあった。両親は共に職業柄、基本的に真夜中に帰宅、今まで兄妹で割り振りしていた家事全般をこれからは悠希一人で受け持つこととなる。それはまだいい。家事全般はそつなくこなすことはできる。できるが、少々イレギュラーな仕事がこれから加わることになる。タマゴの世話だ。今までは「嫌われてるから」と避けてきたタマゴの世話だったが、もはやその逃げ道は封鎖されたも同然。別段やることに抵抗はないのだが、現状は世話をするにあたって『危険極まりない行為』でもある。下手に餌入れに近付こうものなら無言の猫パンチの応酬、トイレ掃除をしていれば無言で背中に爪を立ててくる。最も恐ろしいのは爪切り。いつ爆発してもおかしくない、どの色の線を切っても爆発するような爆弾と対峙するようなものなのだ。これに関しては家族の心配が勝った。爪切りだけは定期的に両親がする、もしくは動物病院にお願いすることで決まった。下手にして、悠希が病院送りになるのを、さすがの家族も避けたかったのだろう。
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