第18話 彼女達を探して
その後、二人と入れ替えに施設内からグラウンドにやってきたレイミアさんに袋を取ってきて貰い、フェニックスくんの灰と化した下半身を詰めた。
「先生。よく知ってたわね。」と感心するレイミアさんに魔物大全集を読んだ話をすると、目を細めて喜んでいた。帰ってもう一回熟読するのも有りだな。
そうしてまだ怒り冷めやらない白銀くんと下半身の再生を待つフェニックスくんを連れ僕達は施設内に入り、とりあえず自己紹介から始める事にした。
「僕は
僕は人間である事を隠しはしなかった。こんな薄っぺらい嘘をついたところですぐバレるのが関の山だ。それに彼等に少しでも心を開いてもらうには、自分も心の内を見せなければ。
「私は、ラミュー・べロス・レイミア。先生
の愛人兼秘書よ。よろしくね。」
レイミアさん、嘘で固めた心見せすぎ。初めて聞いたよ、愛人兼秘書。
「レ、レイミアって!もしかして魔王軍第二騎士団騎士団長の!」
「あら?知ってるのかしら?元だけれどね。」
わぁー!と明るい表情を見せる白銀の男の子。どうやら僕が人間である事よりレイミアさんに興味を示したようだ。有難いけれどこうも関心を持たれないとなると、どこか切なさを感じる。
「おっおれ!ズィルバーン・ドラッへ・ドランです!あのっ!とーちゃ、父上を知っていますか!?」
噛みそうになりながらも前のめりで話すその姿は、まるで英雄やヒーローにあった時の子供の様な表情だった。
「あぁ…あの白銀のドラゴン。アインスの息子さんかしら?」
レイミアさんはペロリと唇を舐めながら思い出すように言う。
「はい!父上がいつもお世話になってます!おれ、いつもレイミアさんの話聞いてましたっ!冷酷で容赦なく、残虐非道な素晴らし騎士団長だとっ!」
それって褒めているのか?と思いながら僕は苦笑いでレイミアさんを見た。そして彼女の表情から察した。
一瞬だけれど曇った彼女のその表情と憂いを帯びた瞳……
ドランくんのお父さん、アインスさんはもう戦死しているんだと。
だから彼はこの児童養護施設に居るんだろうけれど、子供のドランくんにはまだ知らされていないのだろう。英雄を目の前に瞳を輝かせる小さな男の子にそんな話をするのは野暮かもしれない。いつか話さなければいけないけれど、泣きたくなる様な話だ。
「そんな騎士団長をあいじんにーって、やるねー石田せんせー。」
はっ!確かに!と驚いた表情のドランくんを他所に、上半身を起こしたフェニックスくんが事実無根な事を言いながらやんわり笑った。
「ぼくはー、ポイニクス・べンヌだよー。」
そしてサラッと自己紹介。最近の子供達は侮れないな。事実無根だけど。そんな事よりも、だ。
「べンヌくんはさっき居た二人を知ってるんだよね?」
僕はこの教室内に居ない二人の女の子を思い出しながら訪ねた。少しムスッとしたドランくんに目をやりながら
「知ってるよー。ともだちなんだー。」
とべンヌくんはふわふわ笑った。
「あいつ等…ルルとアイはいっつもべンヌを殺す作戦ばっか考えてるんだ!」
白銀の尻尾をパシン!と叩きつけ、まだ短い腕を一生懸命組みながらドランくんは続ける
「友達傷付けるやつなんて仲間じゃないっ!」
ごもっとも。
「殺すなら人間を殺せばいいのにっ!」
いやそれは聞き捨てならない。僕もこの世界では無いにせよ人間代表なので、ちょっとその発言には危機感を感じなくもない。
「あ、石田先生はレイミア先生の愛人だから大丈夫だよ!」
レイミアさん様様だ。
「とりあえずは僕からルルちゃんとアイちゃんに
話をしてみるから…二人はここでレイミア先生と待っててくれるかな?」
「レイミア先生……悪くない響きねぇ。」
レイミアさんが舌を出してカラカラ笑うけれど、僕は一旦気にせず二人を探すために教室を出た。
教室を出た所でふと、ハピーちゃんは何しているんだろう?と色鉛筆風に創られた正門の方を見ると、まだ固まっていた。
えぇ………と大丈夫だろうか?
いや、ハピーちゃんも心配だけど今はルルちゃんアイちゃんを探さないと。
そう思って廊下を進んでいくと、事の他直ぐに見つかった。一番奥の角の教室で、二人して人形ごっこをしていたのだ。遊ぶ玩具も充実しているなんて凄いな本当。じゃなくて、そんな事に感心している場合じゃない。
「ルルちゃん、アイちゃん?」
声を掛けながら教室に入る僕。また逃げられたらどうしようかと思いながら、しかし二人はそんな様子もなく振り向く。
「「どうしてあたし達の名前を知ってるの?」」
「あぁ、ごめんね。ドランくんに聞いたんだよ。僕はね、石田希月。今日から君たちの先生になるんだけど、よろしくね。」
僕は二人のそばに座りながら静かに言った。正直どっちがルルちゃんでどっちがアイちゃんかは分からない。すると下半身が馬である方の女の子が
「あたしがセントール・クロノス・ルル。」
と、人形を片手に言うと
「あたしがアステリ・ラビリンス・アイ。」
と、上向きに生えた太く大きな角を擦りながら隣の女の子も言った。
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