僕は魔界に就職してみた。
遠藤 九
第1話 慌てる魔王に朗報あり
「あーーー!困った!困ったよ!どうする!どうしよー!」
魔王城の大広間、王座に位置する場所に腰掛けながら魔王は叫んだ。軽く2mはあるだろう巨体に似合わず、オロオロと頭を抱えながら。
「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ。魔王様。」
そんな情けなくうろたえる魔王をなだめるのは、執事姿で山羊の骸骨面を被った男だ。ややこしい。
骸骨面の男は手に持っている書類をパラパラと捲りながら、ため息混じり魔王を見た。
「取り敢えず、何件か対策を練ってみたのですがいかがでしょうか?」
手に持っていた書類を魔王に差し出し、骸骨面は一歩下がる。そのスマートな動きには確かに執事服がよく似合っていた。
手元の書類には
"今後の幼魔族、魔物の育成に置ける対策案"
と銘打っており、その中には活字、活字、活字。
「むーーーう。分からん!」
纏められた書類をバサッ!と上に投げつけ王座の椅子からだらし無く滑り落ちながら、ひらひらと舞い落ちる紙の中、魔王は大広間の天上を見つめ
「お前の話は小難しいわー、ほんと。」
と愚痴った。
ここ、魔界は今。人間や勇者との百年にも及ぶ争いで、親や家族、家を無くしてしまった幼魔族や魔物の子供達の保護、教育、育成の問題について悩まされていた。
戦いが始まった頃は良かったのだ。
それこそ圧倒的な軍事力と進行速度で、どんどんと人間の土地を侵略していった魔王軍。
しかし戦いの最中、勇者なる者が突如として現れ戦況は一変。五分と五分の戦いに、魔王軍も劣勢を強いられた。沢山の魔族や魔物が倒れ、親を失った幼子達は行き場所を無くし。生き場所を失った。
戦うのにはまだ非力な子供達。
「あーあー、早く戦争終わんないかなー。」
魔王は心を痛めていた。かと言って、人間に屈する訳にはいかない。それこそ子供の居場所が無くなってしまう。
「なんかこう、無いかなー、パパッと解決出来る方法とか。」
「だらし無いですよ、魔王様っ。」
執事姿の男は椅子から雪崩の様に崩れ落ちている魔王を王座に持ち上げながら諭す。
「勇者強いしなー。」
「痛いのとかやだしなー。」
「お腹空いたしなー。」
グチグチとこの魔王は!本当に!
執事姿の男は呆れながらも王座に座らせ直した魔王を見上げる。
魔界の絶対王である魔王様。
その力は確かに絶大で絶対である。
軍を指揮する素質もあり、魔物を育てる技能もある。戦いに置いてはプロフェッショナルだ。
「プロ……。」
「んー?どうした?」
執事姿の男は小さく漏らす。
「そう!プロですよ魔王様!」
そして、手をパン!と叩くと、夕食の時刻には事案を纏めて参ります。と言いながら大広間を出ていった。
魔王は思った。
また小難しい話が始まるのか、と。
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