第33話鍛冶神と領主と

 俺は毎日メロンさんの店で食事をしている。店の陰には「ホーム」の人が警戒し店の様子を見ていた。「ハント」が現れるのを待っているのだろう。食事が終わった後は再び街を散策する。久しぶりに時間が余っているので盗賊から奪った武器などを売ったり旅に必要なものを大量に買っていた。おかげで数日で何軒か顔見知りの店が出来た。皆「ハント」については知っていて警戒している様だった。


「おい坊主。その武器を見せてみろ」


 そんなある昼下がりにとある路地にある売れてなさそうな店にの前を通るとドワーフの男に話しかけられた。


「かー!これだから最近のガキは!いくらミスリルの武器でも手入れはしなきゃいずれ斬れなくなるんだよ!!」


 素直に剣を見せると男は剣をさやから抜くとそんなことを言い、いきなり剣を研ぎだした。俺は剣に変な事をされたくないので止めようと思ったのだが、彼が剣を研ぎだした瞬間、顔つきが変わり素人でもわかるくらい素晴らしい手際で作業を開始した。


「ふぅ、それに剣の重心がずれてるな。よっと。ほら、これでどうだ?振ってみろ」


 たった数回。たった数回剣を研ぎ、剣を軽くたたいただけだが、その剣を受け取り剣を振ってみると以前に比べ驚くほど軽く感じ手になじんだ。


「どうだ?その顔はいいみたいだな。良い剣を持ってんだ。ちゃんと面倒見てやれよ?」

「あ、ありがと。いくら?」

「ああ?代金なんかいらねぇよ。暇だからやっただけだ。気にするな」


 おじさんはめんどくさそうに手をふり料金はいらないとアピールしてくる。


「ねえおじさん。代金は払うからこれも見てくれない?」

「あ?こ、これは!?」

 

 俺は両親の形見である剣と杖を取り出した。これはスタンピートの時見つけた物だ。


「お前、これの持ち主はどうした?」

「……死んだ」

「な!?そうか。死んだか」

「おじさん父さんと母さんを知ってるの?」

「父さん?そうか、あいつらの息子か。そうか、そうか」


 おじさんはそう呟き剣を大事そうに撫でる。


「おじさん?」

「儂はケヒトじゃ。お前さんの名前は?」

「……チャールズ。ケヒトって「鍛冶神ケヒト」?」

「ああ、そう呼ばれてた時もあったな。昔の話じゃ。今は隠居してみての通り暗い路地裏で細々とやってる鍛冶屋じゃよ」


 鍛冶神ケヒト。その名前は子共でも知っている名前だ。まさかそんな人物にここで会えると。


「とりあえず少し待ってろ。この剣を研いでくる。時間はかからんから店の物でも見てろ」


 そう言うとケヒトは店の奥へ入っていった。店の商品を見ると、どれも簡単な作りに見えてとても手が込んでいるのがわかる。そして値段も良心的だ。しばらく商品をみているとケヒトが戻ってくる。


「さあ、出来たぞ。ところでお前さんはこの剣がどういった剣か知ってか?」

「どういった?剣は剣でしょ?」

「そうか。知らなんだか。これは「魔剣」といって魔力を込めるとその性質を変える剣なんじゃ。これは魔力を込めると固いものがよく斬れる様になる。固ければ固い程良く斬れる」

「それは知らなかった。」

「そうか。ところで良ければあの二人の最後を聞かせてくれんか?」


 俺はケヒトの隣に座り両親の最後を語った。勿論その背景国があることは黙っておくが。


「そうか。ありがとう。だが最後に二人は大事な物を守って逝けたんだな」

「大事な物?」

「お前さんじゃよ。親にとって子共は宝物だ。お前さんは生きている。それが真実だ。あいつらは肉体は死んだかもしれんがまだお前さんの中で生きている」

「俺の、中で?」

「ああ、お前さんの中でいつまでもお前さんを見守っているさ。だからチャールズ、あいつらに恥をかかせない生き方をしなさい。あいつ等は命を繋いでくれたんだ。その命を大事にして、未来に繋ぐんだ。そしてその命はお前さんだけの物じゃない。「アニ」の街皆が繋いでくれた命だという事を忘れてはいけないよ。おっと、少し説教臭くなってしまったかな。どうも年をとると説教臭くなっていかんな」


 その後俺はお礼をして再び街を歩く。俺はこの命ちゃんと大事にして生きてきただろうか?いや、大事にはしているが、心から大切にはしていなかった。転生をしてどこかまた死んだら、と心のどこかで思ってしまっていたのかもしれない。人生は本来は一度きりだ。この命も一度きり。街の皆が繋いでくれたこの命をもっと大切にしようとこことに誓った。


「クソ!出たぞ!サーペントだ!」

「こんな近海に!?逃げろ皆!」


 そんなことを考え歩いていると港の方から叫び声が上がる。急いで駆けつけるとそこには首の長い水龍のような魔物が口を開け港の方へ突進してきていた。


「逃げろ皆!おいそこの君!君も逃げるんだ!」

「うぁあああ!お母さん!!」


 港にたどり着くと沢山の人が街の方へ逃げていたが、子供が一人取り残されていた。俺は父さんの剣を取り出し魔力を込める。剣は大人用なので俺には長く重かったがそれでもこの剣を持つとなんだか勇気が湧いてきた。


 俺は「ブースト」を使い海に飛び出し空を蹴る。サーペントが子供に気を取られてる隙に「風魔法」を使いながら剣を横に一閃する。


「「「「な!?」」」」


 サーペントは港にたどり着くと、ゆっくりとその顔を港に落とし胴体は海へ倒れていく。俺は港に戻ると呆然と剣を眺める。まるで豆腐を斬ったような感覚に驚きを隠せなかった。「魔剣」は思った以上に素晴らしく、又怖いものだった。俺はそっと剣をさやに戻し魔法の袋にしまう。この剣はまだ俺には早い。この剣を使い慣れてしまえば剣に頼った戦闘をし、技術が疎かになるだろう。それだけではなく俺は天狗になってしまうのも怖かった。


「「「「わああああああ!!」」」」


 そんなことを考えていると突然背後から歓声が鳴り響く。驚き振り返ると街の人たちが声は張り上げながらこちらに走ってくる。


「すげぇぞお嬢ちゃん!サーペントを倒しやがった!!」

「一撃だと!?かっこいいなおい!」

「助けてくれてありがとう!もうだめかと思ったわ!」


 皆それぞれお礼を言ってきて、なんだか照れ臭くなりフードを被り顔を隠す。こういうのは慣れてないんだ。


「ジム!!」

「お母さん!!」


 先ほどの子共もどうやらお母さんを見つけられたようだ。二人は抱き合い生きていることを確かめ合う。その光景が俺にはとても尊いものに感じた。


「なぁお嬢ちゃん!このサーペントを売ってくれ!」


 行商人がこぞってサーペントを売ってくれと頼みこんできた。別に俺はいらないので一部だけを残しすべて売却する。皆にお礼を言われながらすぐにそこを離れメロンさんの店に向かう。残ったサーペンとをプレゼントし少し料理を作ってもらおうと思ったからだ。


 店につきメロンさんに事情を説明、サーペント料理を作ってもらおうとしたとき、一人の男性が店に走りこんできて、高級そうな服を着た男性に何かを耳打ちする。高級そうな服を着た男性は驚き俺を見て、そして近づいてきた。


「もし、お主先ほどサーペントを倒し住人を助けてくれたという冒険者か?」


 俺は素直にうなずく。


「そうか。儂はこの街の領主であるゴンザだ。どうだろう。お礼に屋敷に招待したいのだが、時間はあるだろうか?」

 

 俺は断る理由もないので了承しゴンザと共に店を出る。その時ゴンザがメロンさんをなめる様に全身を見ていたことを俺は見逃さなかった。


 しばらく馬車に乗り屋敷に着くとすぐに客間に案内され料理が出てきた。ゴンザは先ほどまで食事をしていたのにもかかわらず豪快にそれを口にする。どっぷりとした体形の理由が分かった気がした。改めて自己紹介をさせられ、その後はゴンザの自慢話を淡々と聞く役になった。


 どうやらゴンザは数年前に父親が急死したことによってその地位を受け継いだようだ。そして街の発展のために日々頑張っているらしい。ゴンザは酒が進み次第に顔が赤くなりろれつが回らなくなってきていた。だが語ることをやめない彼に嫌気がさしながらも何とか耐えて聞き役に徹する。


「それでな?あー、どこまで話したっけ?そうそう。この街はいい。何より美人が多い。先ほどいた店のメロンという女性も中々だったろう?まぁどうせもうすぐ儂の物になるがな」

「ゴンザ様の物に?」

「ああ、儂の物にだ。そうだ。どうだあろう?お主も儂の元で働いてみる気はないか?」

「仕事ですか?内容をお聞きしても?」

「ああ、お主「ハント」という奴隷商を知っているか?」


 どうやら「ハント」と領主が繋がっている噂は本当だったようだ。

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