第32話「ホーム」と「ハント」と

「お前も「ハント」の仲間か?」


 屋根の上にいた俺の背後から話しかけられとっさに剣を構え振り返る。相手は二人、ローブのフードを被り顔が見えないが声から察するに30代は越えている男性だろう。俺が剣を構え黙っていると二人は頷きあい剣を抜き攻撃してきた。


「チッ!」


 流石に街中で派手に戦うわけにもいかずに俺は屋根から飛び降り先ほど刺された「ハント」の男らしき人物がちょうど倒れるところだった。俺を追って二人組も飛び降りてくる。俺は三人に囲まれるが、三人ともそれなりの実力者だと思う。流石にこのまま戦えば魔法を使わざる負えないと判断し、俺は家の壁を蹴り再び屋根の上へ飛び上がる。


「な!?」

「くそ!一体どんな身体能力してやがる!?追え!」


 俺は屋根伝いに移動し男たちを撒くと身をひそめる。男たちはしばらく辺りを彷徨っていたが、途中で諦めたのか街のはずれの方へ歩き出した。彼らに気づかれないように尾行しあとを追う。彼らはだんだんと人気のない方へ行くとキョロキョロと辺りを確認しながらとある一軒家に入っていく。


 男達が入ってしばらくした後、屋根から飛び降り家の中を確認するためにこっそり入り口から入ると、そこには地下に進む階段だけがあった。中を覗くと階段の下には武器を持った男が二人退屈そうに欠伸をしながら立っていた。どうやらここがアジトのようだ。俺は近くに落ちていた石を手に取り階段から転がり落とす。


「あ?なんだ?」

「石?誰かいるのか?おい、お前見て来いよ」

「チッ、わかったよ」


 男が一人階段から上がってくるため俺は扉の後ろに隠れ剣を構える。


「あ?誰もいねえじゃねぇ……が!?」


 男が誰もいないことを確認し油断した所で剣の腹で男の後頭部を叩き気絶させる。息をしているので死んではいない。もちろん倒れて音が鳴らないように「身体強化魔法」を使い男を受け止める。


「おい?誰かいたのか?」


 もう一人の男が上がってきたので、今度は上がってきてすぐに先ほどの男同様に気絶させる。一応二人がこのまま死んでも後味悪いので「光魔法」で回復させておく。静かに階段を下りてドアに耳を澄ます。中は広い空間になっている様で声が聞こえずらいが音が反響し何とか聞き取れた。


「……という事です」

「じゃあそのガキに逃げられたのか?」

「す、すみません」


 声から察するに複数人中にいるようだ。先ほどの男達が誰かとしゃべっているのが聞こえる。先ほど「ハント」の男を殺していたことから敵対している組織のようだが一体彼らは何者だ?

 

 しばらく耳を澄ませていることに集中してしまった俺は階段から降りてくる二人にギリギリまで気づかなかった。


「くそガキが!」


 二人は狭い通路で剣を振るってく来たため、俺は逃げ道がなくとっさにドアの中へ入ってしまった。


「あ?誰だテメェ」


 中は家ニ、三軒分ほどの広い空間が広がっており、そこに二十人ほどの男女が立っていてその中心にはソファーに座った一人の男性がいた。


「あ、兄貴!さっき言ってたガキはあいつです!!」


 男の声に反応し皆が武器を手に取る。入り口には二人、仲には二十数人。殺したくはなかったが最低でも二人は殺して脱出するしかないようだ。


「待て!!テメェら手を出すな。おいガキ、ここがどこだかわかってんのか?」


 ソファーに座ってたリーダーのような男が座ったまま声をかけてくる。どうやら会話がしたいらしい。その間は周りのやつらは手を出してこなそうだ。俺は彼と会話をすることを選択した。


「あんたらは「ハント」か?」

「ああ?質問を質問で返すなよ。チッ、まぁいい。俺たちは「ハント」じゃねぇよ。むしろ敵対してる。で、お前は「ハント」の仲間じゃねぇのか?」

「違う」

「じゃあなんだ?」

「冒険者」


 そう言うとリーダーらしき男は頭を掻いた後、立ち上がり先ほど追ってた男たちの頭を叩く。


「テメェら馬鹿か!?ただの冒険者のガキじゃねえか!何やってんだ!」

「「「す、すみません」」」


 どうやら俺がハントの仲間と勘違いしてたらしい。男はため息をつきながら再びソファーに座る。


「ああ、なんか悪かったな。だがなんでこいつらをつけてここまで来た?ああ、お前ら武器はしまえ。このガキを殺したところで何も出なさそうだし、ガキを殺した後の飯はまずいぞ?」


 男がそう言うと皆武器をしまう。だが警戒はしているようだ。


「あんたらが「ハント」じゃない確信が欲しかった。それとあわよくば「ハント」の情報が欲しかった」

「何故「ハント」にこだわる。誰か身内を殺されたか?」

「いや、存在が迷惑」

 

 俺の言葉に一瞬唖然とした後大きな声で男は笑いだす。街の人たちが迷惑してる、そしてなにより助けた親子が狙われてる。俺にできる事ならせめてアジトだけでも見つけてギルドに報告して何とかしてあげたかった。


「がはは、あー笑わしてもらったぜ。だがどうやら俺たちは敵じゃなさそうだ。どうだ?少しこっち来て座って話さないか?」


 男の正面に開いているソファーに座るように勧めてくる。どう考えても危険だが俺は情報を貰うためにあえてソファーに座った。だがいつでも動けるように魔力だけは練っておく。


「ほう。なかなか度胸があるじゃないか、それか馬鹿なのか。まぁいい。それで?何で迷惑してんだ?」

「その前に今度はこっちの質問。アンタらは何なんだ?」

「テメェ!兄貴の質問に答え「あー、いいからいいから。お前達は黙ってろ」すみません。」


 男は皆を自分の後ろに移動させて待機させる。俺から入り口までは先ほどドアの前にいた二人だけになる。どうやら俺の警戒心をとるためにそうしてように思える。


「ふう。なかなか肝が据わってんな。まぁいい。俺たちは奴隷商だ。だが勘違いすんな?俺たちはクリーンな奴隷商だ。お前は最近この街に来たのか?」

「今日」

「そうか、「ハント」については?」

「ほとんど何も」

「そうか……。まぁいいか。俺たちは元々この街を中心に活動してるそれなりに大きな奴隷商、名は「ホーム」だ。聞いたことくらいはあるだろ?」


 確かに聞いたことある。というかこの国でその名を知らない者は少ないだろう。かなり大きな組織だ。こんなところに本部があるとは。


「ああ、勘違いすんな?ここは裏本部だ。本部は他にある」

「裏本部?」

「ああ、緊急時に集まる、まぁいわば法に触れる事をするときの会議所だ。でだ、今度はこっちの番だろ?何で「ハント」を追ってる?」

「この街に来るときに親子が攫われたのを発見し保護した。だがその時の犯人が「ハント」と名乗っていた。そして街に着いてからも親子を狙っていた様に感じた。せっかく助けた二人が再び攫われないようにしようとした」

「それは「ミカン」と「モモ」とかいう親子がやってる店かの奴らか?」

「知ってたのか?」


 男は頭を掻いた後数名に合図をする。すると数名がドアから出ていった。


「ああ、勘違いするな?俺たちはその親子を守る側だ」

「何故?」

「あー、俺たちはクリーンな仕事をしていた。だが最近「ハント」の奴らが暴れて仕事を横取りしやがるどころか、法を犯してまでこの街で好き勝手やりだしてんだ。それを俺たちは止めたい。俺達の商売を邪魔する奴らにはそれなりの制裁をしなくちゃな。ところでお前、俺たちの仲間にならねぇか?」

「仲間?なるわけない」

「そうか。なら協力しないか?「ハント」を見つけてもお前一人ではどうしようもないだろ。だから見つけたら俺たちに報告してくれ。そのあとは俺たちがどうにかする」

「……一つ聞いていいか?何で俺を疑わない?」

「あ?そんなの感だ。俺は鼻が利くからよ、そう言うのわかんだよ。それでここまでのし上がってきたからな。それにお前が今練ってる魔力量、それにそのミスリルの武器、お前相当やるだろ?それに目的が同じだ」


 俺の魔力量まで見抜くという事はこの男は相当魔法が使えるという事だ。確かに悪い話ではない。俺一人では「ハント」相手にどこまでできるかわからない。それに奴隷商は信用ならないが、お互いに利害が一致しているので乗ってみるのも一つの手だろう。


「分かった。情報は提供しよう。ただそっちも俺が知りたいことがあったら教えてくれ」

「分かった。それでいい。俺たちは今から協力関係になったわけだ」


 それから俺はある程度の「ハント」のアジトの情報を聞いてアジトを出る。まぁ聞いた話を省力して説明すると「ホーム」は「ハント」についてあまりまだ分かっていないようだ。というのもここの貴族が絡んでいることは間違いないらしい。さすがに彼らでも貴族が絡んでくるとそう簡単には動けないそうだ。


 それから俺は宿をとり夜中に街を散策することにした。もしかしたら「ハント」が俺を攫ってくれるかもと思ったがニ、三日しても何も成果は得られなかった。「ホーム」からの情報によると先日男を殺した事と俺が親子を助けたことで「ハント」も警戒をしているんじゃないかという予想だ。これは長い戦いになるかもしれない。

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