第23話クエストと山と
「断る、だと!?ふざけるな!!」
スキンヘッドの男は肩を貸してもらってた男を突き飛ばすと俺に向かって斧を振り上げ、「身体強化魔法」を使っていることから今回は本気だという事が伺えた。男は振り上げた斧を俺から5m程手前で振り下ろすと魔力が斬撃として飛んでくる。そんなことできるのか、と驚きながら避けると後ろにあったギルドの壁に当たり大きく縦に斬れ、飛ぶ斬撃の威力がよくわかった。
「終わりだ」
俺が斬撃に気を取られた隙に男はすでにすぐ後ろに立ち斧を横に振るう。何とか剣を抜きそれを受け止めるが勢いを殺しきれず数メートル横に飛ばされて転がる。男はすぐに距離を詰めてくるが俺は倒れたまま地面に魔力を流し地面の土に水を流し泥沼を造り、男はぬかるんだ地面に足を取られ体制を崩したところに「アイスショット」を男の足元に当てる。
「うぉ!?」
「死ね」
泥沼に足を取られ頭を低くしたところに俺は剣を振り下ろす。が、俺の件は男の首を跳ねる前に誰かの剣にに当たり止められる。
「やりすぎだ!!こいつを殺す価値なんかないだろう!」
俺の攻撃を止めたのはジルだった。
「どけよ」
「いや、どかない。お前にこんな簡単に人は殺させたくない!」
こいつは何を言ってるんだ。俺はこれまで何人も殺してきた。そして恐らくこれからも。
その瞬間倒れていたスキンヘッドの男がジル諸共斬ろうと斧を振るう。ジルもそれに気づいたがつばぜり合いをしている俺たちにはそれを避ける余裕はい。俺が死を覚悟した瞬間いきなり男の斧が粉々に砕け俺たちに斧が当たることはなかった。
「ギルマス……」
「ったくテメェら何はしゃいでるんだ。全員ギルドに入れ。罰を与える」
その後スキンヘッドの男からギルドマスターの部屋に呼ばれ男は冒険者としてルールを大きく逸脱したとして解雇処分となった。
「入れ」
「失礼します」
次に俺とジルが呼ばれギルマスの部屋に入る。中は雑務用のデスクに来客用のソファーとテーブルがあるだけの質素な部屋だった。
「話は他のやつからも聞いた。災難だったな、だがもうあいつは冒険者じゃねぇ。下手に手は出してこないはずだ。次手を出して来たら死刑処分になるからな」
「すみませんギルマス」
「なに、お前が謝る事じゃねぇよジル。むしろ良く止めてくれた。じゃなきゃ今頃俺は後始末に追われて今日は定時に帰れなくなっちまう」
ギルマスはさっきの男に負けないほどの綺麗なスキンヘッドに金色の趣味の悪い斧を持っていた。
「でだ。確かにお前たちは被害者だが騒ぎを起こしたことは事実だ。何か罰を与えないと他の奴に示しがつかない。という事で一つクエストを受けてもらう」
ギルマスが一枚の書類をテーブルに投げる。それをジルは読むと俺に渡してくれる。
・毒消し草の採取(1kg)
「これ……マジですか?」
「ああ、マジだ」
ジルは頭をガシガシ掻いてソファーの背もたれによしかかる。話を聞くと冬解けのこの季節は毎年大量の薬草を必要とする。理由としては冬の季節は雪が積もって採取できずに在庫がなくなってしまうからだそうだ。まぁDランククエストの中でも一番簡単な「お使いクエスト」らしい。
俺たちはそれを了承すると皆が待っている一階へ降りて酒場で料理を頼み食べながら先ほどの説明をする。皆も面倒くさそうな顔をしたが渋々了解した。因みにフォレストベアーの報酬は受け取り、彼らの報酬はジルの新しい盾代に消えてしまった。
「この辺の薬草採取場所と言えば北の「魔の山脈」の麓あたりか、じゃあ明日早速行ってさっさと終わらせようぜ」
ジルがそういい俺たちは解散、今日は宿をとり休むことにした。
次の日早朝から集合すると北を目指して出発する。4人は聞いてもいないのに故郷の話をしてきた。少し鬱陶しかったが何故だか彼らといるのは悪くない気持ちになる。だが故郷の話をされるたびに俺のここをは沈んでいった。
「しかし今日はやたらとゴブリンが多いな」
「だね。この辺は魔物はあんまりいないはずなのに……」
街を出てからというものゴブリンという下級の人間の姿をし緑色の皮膚をしている魔物によく出会った。戦闘に関しては4人が勝手に戦ってくれるのでとても楽に進むことが出来た。
一度昼休憩を挟んでから山の麓までたどり着く。
「あー、今年は雪が多かったからな。少し山を登らないと見つからないかもしれないな」
あたりにはまだ雪が少し残っていた為、僕らは山を登ることにした。
「あっ」
「っと、気をつけてねチャールズ。この辺りはまだ滑るから。何ならお姉さんが手お繋いであげようか?」
「……いい」
「えー繋ごうよー。お姉さん寂しい!!」
「おいおい。あんまりチャールズを困らすなよ?」
俺が岩場に滑り転がりそうになったところをアミに支えられを逃れる。山は思ったより険しく足場は雪解け水でぬれ滑りやすかった。
「あー、しかし山登りはいいな!こう、わくわくするよな!!」
「お、分かるそれ!困難な山ほど上りがいがあるよな!!」
「わかんないわよ。さッさと降りたいわこんな山」
「本当よ。早く帰ってチャールズとイチャイチャしたいわ!!」
「いや、イチャイチャは止めてあげような可哀想だから」
「でもよ、爺ちゃんが言ってたぜ?「山は人生みたいなもの」だって」
「何よそれ」
「いいか?人生は困難の連続だ。山も同じさ。だけどそれを乗り越え山頂にたどり着いたやつだけが真の感動と喜びを味わえるんだぜ?」
「ふーん。まぁ今回は山頂へは行かないけどね」
「はぁ。女は分かってねぇな……」
そこからは男と女に分かれてあーだこーだ話し合いながら山道を進んでいく。本当に仲がいいんだな皆は。なんだか昔の友達を思い出してしまう。
「ふふっ」
「あ!!今チャールズが笑ったぞ!!」
「え!?嘘嘘!!見せて!!」
「あ、もう笑ってない」
「えー!!チャールズー!!お願いだからこっち見て笑って!!あ、でもその冷たい表情もたまらなく可愛いわ!!」
思わず少し笑ってしまうがすぎに表情を引き締めて進む。だが不思議と体は軽かった。以前はあんなに体が重く歩くのさえ困難だったのに……。
「ほらチャールズ。捕まれ」
「あ、ありがとう」
俺の伸長では上りずらいところでジルが手を伸ばし引っ張り上げてくるれる。恥ずかしさから顔をそむけてしまい、それを皆がニヤニヤしながら見てくる。だが悪い気はしない。仲間が出来て冒険するってこんな気持ちなのかな……?
「お!!あったぞ!ここだ!」
山を登り始めて2時間ほど経った頃、山の中腹に開けた場所があり辺り一面に紫色をした花が咲き誇っていた。
「よし、さっさと積んじゃおうぜ!!」
ジャックは背負っていた大きなカゴ下ろし花の絨毯の上にダイブし、ジャックもそれに続く。
「全く、男の子って馬鹿よね」
「分かるわ。チャールズはああなっちゃだめよ?」
二人に言われて頷くが言えない。俺もダイブしたかったなど、止められるのが一瞬遅かったら彼らの横にダイブしてたなど……。
その後は皆で楽しく花を摘み、次第に日が暮れ始めた。
「っし、今日はここで一泊して明日帰るか!」
「だな!!あーいい仕事した!!」
「全く。アンタたちが遊ばなきゃこんなに遅くならなかったのに」
「本当よ。チャールズをもう少し見習ってほしいわ」
言えない。俺も遊びたかったなど……。
「しかし綺麗な夕日だな」
「だな。チャールズどうだ?仲間と一緒に見る夕日は」
普段見慣れているはずの夕日だが、世界をオレンジに染めたその光景に俺は目を奪われてしまった。なんでだろう。今日はいつも開いている胸の穴のような感覚がない。満たされているような感覚が全身を襲う。自然と涙が零れてくる。
「チャールズ。俺たちにはお前がどんな人生を歩んできて、どんな辛い道を歩んできたのか分からない。だがお前は一人じゃない。少なくとも俺たちがいる。辛くなったらいつでも言えよ?」
「そうだぜ!俺たちはもう仲間だ!いつだって力になるぜ!」
「そうよ!そして本当の仲間になってください!」
「無理強いはダメよ。でも私達を本当の仲間のように、家族のように思ってくれたら嬉しいわ」
ジャックたちは次々に俺の頭を撫でてくれる。俺はフードを深く被り涙を隠す。山は人生、登るのにはそれぞれの喜びがある。頂上までは行ってないが、確かに山はいいものかもしれない。
「あ?あれはなんだ?」
ジャックの視線の先を見ると誰かが何かを運んでいるのが見えた。
「ゴブリンよ!」
目に魔力を集めよく見るとゴブリン達が女性二人を運んでいるのが見えた。ゴブリンはメスができない為人間の女性を攫い犯し子供を産ませる習性があり、そして最後には食べてしまう。ゴブリンは低級の魔物だが女性にとっては天敵のような存在だ。
「チャールズ!!」
それを見た瞬間体が動き俺は「ブースト」を使い岩場を飛び降りる。
「すげぇ、もうあんなところに」
「言ってる場合か!チャールズを追うぞ!!」
後ろから声がするが構わずに岩場を蹴り飛び越えながら一気にゴブリンに近づいていく。あと少しで追いつきそうなところでゴブリン達は足を止めたので俺もスピードを緩めてみると、そこにはゴブリン達の集落を発見する。数は100以上はいるだろう。中にはオークと呼ばれる身長2m以上の人間の体をして顔が豚のような醜い魔物もいた。
「おいおい嘘だろ。こんなところに集落が」
「これはギルドに報告ね。私達の手におえる範疇を越えてるわ」
「ああ、これは冒険者20人は集めてこないと」
「クソッ。なんでこんなところにあるのを誰も気づけなかったんだ……。チャールズ!!」
俺は追いついてきた皆を無視して集落に突っ込んでいく。ギルドの戻る?そんなことしてたらさっきの女性たちは死んでしまうかもしれない。今ならまだ間に合うはずだ。集落には沢山のテントが張ってありどこに攫われた人間たちがいるかわからない為大きな魔法は使えない。
「「アイスシャワー」!!」
俺は両手からできるだけ沢山の氷の塊を放つと次々に近くにいたゴブリン達を貫いていく。だがオークの皮膚は固く氷が通らないようだった。
「「「「「グォオオオオオオオ!!!!」」」」」
突然の襲撃に怒ったゴブリン達が一斉に俺を目掛けて突進してくる。だが好機だ。
「「サンドニードル」!!」
俺は近くの地面を尖らせて三角柱のような形を造り地面からいくつも生やす。突っ込んできたオークたちは次々にそれに刺さり絶命していく。が、数はまだまだいる、これからが本番だ。
近くのテントからも次々に魔物が出てきたところを見ると近くには人間はいないようだ。
「ファイヤートルネード」!!」
俺は小さな炎の竜巻を二つ作ると近くにいた魔物たちを一蹴する。
「嘘だろ……。これは「混合魔法」?」
「凄い。こんなの見たことない……」
いつの間にか後ろまで来てた4人は俺の魔法に驚く。
「なんで来たの?別に付き合う必要ないよ?」
俺が言葉に4人は笑い頭をガシガシと撫でてくる。
「馬鹿野郎。お前ひとりで戦わせるなんてそんな事大人としてできるか。それに今の魔法で1/3くらいは屠っただろう。あと一踏ん張りだ!」
「というかチャールズ。さっきのって「混合魔法」よね。しかも「特級魔法」の」
「チャールズ君って私達よりもはるかに強かったのね……」
「ああ、あんなの使えるの王宮魔導士達くらいだぜ……」
「驚くのは後だ!来るぞ!!」
小さな竜巻が消えた瞬間四方から魔物が一斉に押し寄せてくる。
「4人は固まって戦って。俺は敵を蹴散らせてくる」
「おいチャールズ一人で突っ込むな!クソ!!」
「ジル!悔しいがチャールズは俺たちよりはるかに強い!!それよりも陣形を崩すな!」
「そうよ!私達は4人で戦わないと一瞬でやられるわよ!」
「悔しいけどそうね。チャールズ、どうか無理しないで」
こうして5人対数百の魔物の戦闘が始まった。
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