another of life ~俺のもう一つの物語
神城弥生
第1話死、そして
・・・ここはどこだろうか・・・・・・。
見渡す限りの・・・宇宙・・・?
俺はそんな中に浮かんだ小さく細い道の上に立っている。
目の前には古く知らない文字がぎっしりと大きな扉が一つ・・・。
「・・・?あれ、ここは本当にどこだ・・・?・・・??・・・俺は・・・一体誰だ・・・??」
何もわからない。
気づけばここに立っていた。
鏡がないので自分がどんな顔をしているのかもわからない。
・・・何かを思い出そうとするが、何を思い出せばいいのかさえ分からない。
俺は急に不安になってきた。
・・・駄目だ、本当にどうしたらいいかわからない。
頭がボーっとして、まるで本当に何も知らないようだ。
・・・そんなわけないはずなのに・・・、記憶はないが何故だか自分は最近まで何かをしていた気がする。
・・・とりあえず目の前の扉に進むしかないようだ。
他に道はない。
扉に触れると思いのほか扉は軽く簡単に開いた。
扉の中は先ほどまでの風景とは違い真っ白い部屋だった。
天井には大きなシャンデリアがあり、壁際にはよくわからない不思議なものが沢山あった。
何故か浮いている球、大きくゆっくりと下から上へ上がっていく砂時計、いくつもの絵画・・・。
そこは本当に不思議な部屋だった。
「・・・おや?・・・そうか、もうそんな時期か・・・。お入り。そしてそこに座りなさい。」
「・・・・・・え?」
部屋の中心には沢山の書類の山に囲まれた白髪の長い老人が座って事務仕事のようなことをしていた。
・・・と言うかさっきまでいたか?この老人・・・。
だが不思議と先ほどから老人はそこに座っていた気にもなってくる。
俺はそんな不思議な気持ちになりながら老人が座っている長いデスクの正面に置かれた椅子に腰を掛けた。
「・・・さて、君が言いたいこと、分からない事は分かっている。まずは儂の話を聞いてほしい。いいね?」
老人は掛けていた丸眼鏡の奥から僕の心を見透かすようにじっつ見つめてくる。
僕はいつの間にかこの老人の話を聞いてみたい気持ちになっている。
・・・なんだか不思議な気持ちだ。
だが今は話を聞く以外どうすることもできないので俺はゆっくりと頷く。
「うむ。よろしい。まずはその椅子に座りなさい。まぁ立っていたいならそのままでも構わないがな。」
気づけば俺の目の前にふかふかで高級そうな椅子が置いてあった。
・・・さっきまであったかこの椅子・・・?
と、思いながらも、だんだんと初めからそこにあった気がしてくるのが不思議だ。
俺はそんな事を考えながらゆっくりと腰を掛ける。
老人は僕が椅子に腰を掛けるのを確認した後、改めて俺の顔をしっかりと覗き込んでくる。
「・・・ふむ。先ほども言ったがお主の事は分かっておる。そしてお主が何もわからないことも。まだ時間はあるからゆっくり話をしていこう。」
「・・・はぁ。」
ここがどこなのか、俺は誰なのか、色々疑問はあるがどう聞いていいかわからず、それになんだか不思議とこの老人は本当に全て知っている気がして俺は黙って話を聞くことにした。
「単刀直入に話す。まずお主は死んだ。地球と言う星で生まれ、そこで死んだ。今記憶がないのはいきなり知らない場所に来て記憶があるとパニックを起こすと思い今は思い出せないようにしている。もう少し時間が経てばゆっくりと思い出してくるじゃろう。あわてることはない。」
俺は死んだといわれたことに多少驚きはしたが、あまり動揺はしなかった。
というか、記憶も死んだ感覚も経験も思い出せないのだから、いきなり死んだといわれても実感がわかない。
「ふむ・・・。まぁまずは簡単に全体の流れを説明する。説明が終わった頃には記憶が戻り、疑問も生まれてくるはずじゃ。・・・ではまずお主は死んだ。そしてお主の魂は特別にこの場所に来たわけじゃが、・・・ふむ。今お主が思ったことが正解じゃ。ここはお主らからすれば死後の世界。そして儂らからすれば天界と呼ぶ世界じゃ。そして儂は世界の一部の管理者とでもいうところかの。お主らの世界の言い方をすれば神様ってところか・・・ふむ、思ったより落ち着いて話を聞いているの。結構結構。まぁこの茶でも飲みながら続きを話そう。」
花のような、少し香ばしい香りがしてきたと思ったらいつの間にか俺達の間にある、先ほどまで老人が書類整理をしていた机に二人分の紅茶が置かれて、そして先ほどまであった書類の山が消えていた。
喉は乾いていなかったが、老人がそうしたように俺もゆっくりとマグカップを手に取り紅茶をすする。
紅茶は香りに負けないほど味がしっかりしていた。
口の中に花の香が広がり、後味にはほのかに香ばしくほろ苦い味がする。
始めて飲む紅茶なのになんだか懐かしいような、落ち着く味がした。
・・・あ、そうだ、俺の名前は孝明だ。
不意に少しずつ自分のことが、当たり前のように頭に浮かんできた。
正面を見ると老人は俺が紅茶を飲み、そしてソーサーに戻すのをゆっくりと待っていた。
俺は少しずつ自分の記憶が戻り、懐かしみながら、思い出しながらマグカップをソーサーに戻し老人と向き合う。
「・・・ふむ。では続けるぞ?世界の、宇宙の生命の数は大体決まっておる。多少前後することもあるがな。そして死んだ魂は色々な処置の後記憶を消してその者にふさわしい次の人生を与える。まぁお主も今はその途中という事じゃ。」
俺は老人の話を聞きながらだんだん記憶が戻ってきたような気がする。
元から知っていた様に、そしてちゃんと自分で経験したように感じるため、これはちゃんと自分の記憶なんだろうという安心感がある。
・・・ああ、懐かしいな皆。
学校の友達に・・・ああ、俺は中学生だったのか・・・、好きだった女の子に・・・、ああ、駄目だ恥ずかしい記憶だ俺振られたんだった、何であんなに焦っちゃったんだろうな、今でも顔から火がでそうなほど恥ずかしい。
楽しい記憶も悲しい記憶も恥ずかしい記憶も様々な記憶がゆっくりと鮮明に蘇ってくる。
「・・・ふむ。記憶の方は順調のようじゃな。では話をつづけるぞ?お主はその輪廻転生の輪の途中にいる。が、本来ならばこうやって神と一対一で話すことなどはないがお主は特別にの。じゃがお主も例外なく転生してもらう。他の者とは少し事情が異なるが・・・。」
俺は記憶が戻るのを感じながら老人の話を聞いている。
俺は成績もそんなに良くなかったし頭もよかったわけではないのに何でこんな器用なことが出来るのか不思議だった。
だが老人の言葉はしっかりと俺の耳に届き、そして理解できる。
・・・まぁそれが神様の力の一つなのかもしれないと何となく納得した。
「さて、本来なら輪廻転生される流れに乗るはずだったお主が何故ここにいるかと言う話をしよう。地球で言う所の歴史の偉人、電気を発明したり車を発明したりと、これまでの発想を覆し歴史に名を残すものは大抵ここに来て、輪廻転生の輪を外れて転生しているんじゃ。世界には必ずその時必要な発明などをし世界を変化させていかなければならない。じゃが普通に輪廻転生のシステムだけじゃその変化、刺激とでもいうか、それが起きにくいんじゃ。そこでこうして特別にこうして神の部屋に招き転生させる。つまりお主もその刺激の一部になってもらう。」
・・・ああ、家族の記憶が戻ってきた。
俺は一人っ子か、兄弟欲しかったなぁ。
あ、でもいなくてよかったな、俺みたいにつらい経験をすることになるから。
ああ、やっぱり。
俺は家族に殺されたのか・・・。
父親に殴られて、母親に見捨てられ・・・、そして死んだ。
・・・そうだ、俺は虐待されていたんだ。
元々は仲のいい家族だったが父親の会社の倒産がきっかけで両親は喧嘩が絶えなくなり、家庭は崩壊。
そして二人の怒りの矛先は俺に来てたんだった。
・・・まぁいつかは殺されるなって思っていたがこんなに早いとは・・・。
覚悟はできていた・・・が、やっぱり殺されると精神的にくるものがあるな・・・。
「・・・ふむ。まぁ紅茶でも飲み落ち着きなさい。クッキーも食べなさい。」
いつの間にか泣いていた俺を気遣ってか老人は僕に紅茶をすすめてくる。
紅茶はおいしくとても落ち着き、相変わらずいつの間にかあったクッキーを食べると気づけば涙は止まっていた。
不思議と落ち着く食べ物だ。
流石神様の食べ物と言ったところだろうか・・・。
俺が虐待され始めたのは中学に入ってすぐの事だった。
そのころから家庭は崩壊し、両親からの暴力が増えてきた。
俺はそれでも何とか我慢し、不良などにもならず何とか学業を頑張っていたが家に帰るとすぐに父親から受ける暴力の回数が増え、俺は気絶し気づけば朝という事もしばしばあった。
朝になっていた・・・という事は俺は両親どちらからも助けられずに朝まで放置されていたという事だ。
その頃からか、俺が生きることを諦めたのは、俺には将来がないと悟ったのは・・・。
「・・・どうかね?少しは落ち着いたかね?」
「・・・はい。ありがとうございます。」
ここじゃなかったら僕の精神は崩壊していただろう。
恐らくこの空間と、ゆっくり記憶を取り戻させてくれた事と、紅茶などが僕の精神を崩壊させずにつなぎとめてくれたんだと思う。
そう考えるとかなり気を使ってもらってるんだなと、この老人に対する好感度が上がった。
「・・・ふむ。なかなかどうして、君は思ったより精神的に強いみたいだな。結構結構。では話の続きをしてもいいかな?」
「・・・はい、お願いします。」
「ふむ。ここの全体の流れはさっき話した通りじゃ。そしてお主には世界に刺激を与える存在になってもらう。と言っても何かをなさねばならないわけではない。好きに生きなさい。お主が存在するとおいう事だけで、たとえ引きこもっているだけであっても世界には十分な刺激になる。ただ早死にだけはしないでほしいとだけ言っておこうかの。まぁその辺は言っても仕方のない事だがの。」
存在するだけで世界の刺激になる・・・。
分からないがそう言うことらしい。
「そしてそう言ったものも例外なく今までは記憶を消して新たな人生、つまり他の人とも変わらぬ存在として生きてもらうことになっていた・・・が、最近ちょっとした試験的な事をしていての。」
「・・・試験的ですか?」
「そうじゃ。お主漫画やアニメは好きじゃったろ?」
「・・・ええ、詳しい、と言うほどではありませんが、それなりに・・・。」
「ふむ。それでいい。実はの、この世界には様々な星がある。お主らのような平凡な星から、科学の発達した世界、魔法を使う世界、様々の。」
老人はそこまで言うと一度紅茶を口に含み喉を潤す。
「そして試験的なものとは、今までは必ず記憶を消してから転生させていたのじゃが、記憶をなくさずにそのまま転生させるという事じゃ。しかしそう言った事を普通の者にさせると混乱して精神を壊す危険がある。・・・最近地球の日本という国では「地球人が異世界に転生して人生をやり直す」という物語が流行っておったじゃろ?そう言った知識を持ったものなら精神を壊す事無く新しい世界に適合できると思いその中からランダムに1000人の者を送ったんじゃ。」
確かに俺は異世界に憧れていた。
・・・と言うより地球が、俺のおかれている環境が嫌いで、逃げ出したかっただけかもしれないが・・・。
「しかし結果はあまりよくなかった。理由としては転生してもらう代わりに少しだけ特別な力を持ってもらう特典を付けたんじゃが、それに甘えたして努力せず・・・いや、選んだ者たちが地球では怠け者だったものが多くてのぉ。それとその物語で流行っておった「ハーレム」や「勇者になる」など幻想を抱き無茶をして早死にした者、怠けて家を追い出されて早死にした者、犯罪に走って処刑されたもの、とにかく結果はよくなかった。やはり二次元だけに浸り現実を見ない者がいきなりやり直すといっても難しかったようじゃ。全く碌に人としゃべれなかった奴がいきなりハーレムなんて作れるわけないのに・・・。」
老人は反省点や愚痴をぶつぶつとつぶやきだした。
なんか怖い世界に行かされる気がしてきて俺は不安になってきた。
「ああ、不安にさせてしまったか、すまんの。じゃが安心せい。普通に生きとれば普通に生きられる。人間はどの世界でも人間という事じゃよ。兎に角その1000人中成功したのが50人ほどじゃった。これはよくないと思い新たに100人の人間を選んだ。」
「・・・それが俺?」
「うむ。そのうちの一人がお主じゃ。前回は本当にランダムじゃったが今回は的を絞っての、それが「異世界アニメや小説を読んでいて、適合できそうで、あまり二次元に浸りすぎず現実をしっかり観れる者」という対象にしたんじゃ。」
確かに俺はアニメや漫画が好きだったが、オタク、と呼べるまでにはならなかった。
あくまで趣味の一環程度だった。
「とにかくそういう者なら普通に生活して幸せを掴めるじゃろうて、だから安心せい。」
「あの・・・。先ほど偉人になる人は転生者が多いと言いましたが・・・。俺にはそんな知識はありませんよ?」
「ふむ。まず何故偉人たり得たのか。そこから話そう。簡単に言うと映画や漫画という世界観はどこから来たと思う?まぁそのものが自分の想像や経験から作る事もある。じゃが中には自分でも気づかないうちに前世の記憶、前世の世界を自分が想像した世界として認識し、作ることがある。じゃから「フォース」を使う異世界だって、「ロボット」が世界を支配している世界だって、もちろん「魔法」を使う世界だって本当に存在しておる。」
「・・・つまり記憶は消しても無意識にそれを思い出していると?」
「うむ。世界に刺激を与えるためにの。そう言ったものもいるし、引きこもって一生を過ごすものもいる。じゃが先ほども言ったがどちらも等しく世界に刺激を与えておるから安心せい。お主が若くして死んだことは勿論わかっておるし、だから特に何かを白とは言わない。そうじゃの、まぁしいて言えば幸せにはなってほしいかの。」
幸せ・・・。
そう言えば俺には縁のない言葉だったな・・・。
「まぁ、そう言うことじゃ。何か質問はあるかの?」
「・・・俺はどういった世界に行くんですか?」
「うーむ、実はまだ決まっておらんのじゃ。それを決める作業をしておったのじゃがのぉ。どうにも「うちのほぢに来てくれ」と言う星の神が多くてのぉ・・・。・・・どんな世界に行きたいという希望はあるかの?」
「・・・言えばその希望は通るのですか?」
「絶対とは言えん。じゃが参考にはなるじゃろう。」
「・・・では・・・。できるだけ安全な世界がいいです。例え平凡でも、人生をやり直せるなら、今度こそうまくやって幸せに暮らしたいです。」
「ふむ・・・。なるほどのぉ。いい答えじゃ。なら・・・。」
「あら?タイミングピッタリじゃな~い!!お・ひ・さ!管理者のおじいさん!」
突然老人の後ろから声がしたと思ったら、そこにはいつの間にか体つきのいい可愛らしいワンピースを着た・・・おっさんが立っていた・・・。
老人は振り返ることなく頭を抱えている。
「あら~君駄目だぞ?女性に対しておっさんだなんて考えたら。私間違えて君の体を真っ二つにしちゃうぞ~?」
「す、すみません・・・。」
間違えて真っ二つってなんだ・・・?
一体どんな間違いをしたらそんなことが起きるんだ・・・?
だが彼女(?)から感じる殺気は本物だ。
殺気とかよくわかんないけど、急に空気が重くなり、次間違えたことを口走ったら確実に殺されるという感覚が全身に流れた・・・。
「うふふ~。で、そろそろ私の星の番じゃない?ねぇ~聞いてる~?」
「聞いておる聞いておる。じゃからその肩に置いた手を離しておくれ。肩がつぶれてしまう。」
「あら~やだ~。ちょっと力を入れ過ぎたかしら?てへっ!」
「う~む。まぁ確かにお主の星にも送っていいかもしれん。じゃがお主の星だと彼の希望がのう・・・。」
「うるせぇよ握りつぶすぞじじぃ。」
「あ、ごめんなさい。君悪いが彼女の星に行ってくれ。儂まだ握りつぶされたくない。」
突然男口調に戻った彼女(?)に老人は怯え、いきなり意見を変えやがった。
・・・なんか俺の未来が不安でしかないんだが・・・。
・・・大丈夫だろうか・・・。
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