猫とパークの探検隊③
スタッフカーというのがあるらしい、ジャパリバスともまた別でそれこそ探検隊の皆さんみたいな人達が使うような車両のことだ。
バス同様ヒトもフレンズも何人も乗れる、そんな便利な乗り物があるなんてすごく素敵なことだ、旅のお供には必須!きっと俺達もあっという間に探検隊に追い付いてしまうことだろう。
「でも、私達は徒歩よ?」
「お腹が空いちゃいますねー?」
だが、そんなものはない。
俺達は広大な大地を探検隊目掛けて歩き始めたのであった。
…
徒歩だといつまでも掛かるのやら… でも道中いろんな道具が揃ったので現在こうしてキャンプに興じることもできるというわけだ、ここに来てついに料理人として本領発揮ができる俺は少々図に乗っている。
「それじゃあ今日はボルシチで優勝していくことにするわね?」ネットリ
「なにその話し方…」
「ボルシチ?って何ですかー?」
ボルシチとは…。
ロシア等東欧諸国に広く伝わるウクライナの伝統的な料理で、テーブルビートという野菜を使うことで真っ赤な色になるのが特徴的なスープ料理である。
ロシアでは「ボルシチは我が国のソウルフード」と主張するが、なにも東欧諸国に限らず色んな国で古くから親しまれているらしい。
故に、世界三大スープの1つとして数えられるほどだ。
「まずはニンジン、タマネギ、牛肉、そしてテーブルビートなどの材料を刻んでいくのぉ?そして油を敷いたら刻んだ具材をお鍋に
「はわわ~!おいしそー!」
「へ~?手際がいいのね?」
肉食の子しかいないから牛肉も心置きなく出せるのは気楽ね…。
まぁうちには元々草食の子はいないんですけどー?
「具材は特に決まってないらしいから、ハムとかソーセージとか… お好みで好きなものを潜影獅子手してみるのもいいと思うわぁ?」
「ねぇさっきからそのせんえーしししゅ?って何?しかも言いづらいんだけど」
「煮込んでる間にパンに付けるソースも用意していくわね?」
「無視しないでよ!?」
ボルシチにはやっぱりパンプーシュカを添えるのが伝統的よ… パンプーシュカっていうのは小さい揚げパンのことで、ニンニクソースをかけるのがポピュラーな食べ方だそうよ?
「じゃあそろそろ煮込み具合を確nやだぁー!綺麗な赤色~!かばんちゃんのシャツみたーい!」←食い気味
「ホントに真っ赤ね?辛くないのかしら?」
「いい匂~い… 待ちきれませんねー?」
こんな赤色を見てると思い出すな… まだ結婚前に発情しまくってた俺が地下室で妻のシャツをビリビリに引き裂いた時のことを。
っと急に素に戻っちゃったわ?失礼…。
ちなみにボルシチが赤いのはテーブルビートの色素だから辛くないの。
「それじゃ完成したボルシチを器によそって… はいどーぞ?熱いから気をつけて?」
「「はーい!」」←楽しげ
「パンも忘れずに用意したら完成!そして今回はこれもデンッ!シュワシュワのやつぅー!」
「はわわ~!」
「ラムネだわ!」
とこんな感じでご機嫌なキャンプを繰り広げる俺達、明日にはゴコクも出れるので十分に英気を養おう。
いただきますもしっかり声に出すと三人で数回めのご飯にありついた。
「おいしー!」
「本当!すごく美味しいわ!」
「美味し過ぎて… 石になったわね…」
「え… それってどういう意味なの?」
意味などない、気にしてはならない。
さてそろそろ切り替えないとな。
はい!エドテン!
…
翌朝歩きながら二人のことを尋ねてみたんだが、なんでも二人はジャパリパーク警備隊というものに属しているんだそうだ。
なんだかよくわからないのだが、おそらく俺の知ってるハンターみたいな仕事をしているのだと思う。
現に警備隊にはチームさいきょーというのがあるんだけど、そのうちの二人はヒグマさんとキンシコウさんだと聞いた、この経験が後に次の世代でセルリアンハンターとして生きていくのかもしれない。
にしても警備隊か、二人ともやけに戦い慣れているわけだ。
「ストップ、いるわ?」
とそこでギンギツネさんは立ち止まると腕を俺の前に伸ばして進行を妨げた。
いる… というのはあれしかあるまい、警備隊のお仕事の時間だ。
「セルリアン、この辺も探検隊のおかげで減ってきましたけどまだでますね?」
「全体的に増えている証拠ね?危ないからユウキは下がってて!」
彼女が俺にそう言うと間も無くウヨウヨと現れたセルリアン。
やはり俺の知ってるやつと少し違う、注視してみたがどれもコアとなる石が見当たらない、二人はそんな相手に「やれやれ」という感じで掃討に入り打撃を浴びせていく。
二人は手慣れているせいか戦闘というよりは気怠げに掃除でもしにいくかのような雰囲気だ、俺にとっては脅威だが彼女達にとって大した相手ではないということだろう。
そしてギンギツネさんの言う「下がってて」、これは勿論俺の身を案じて言ってくれたのだと思う… でもそれは同時に俺は何も手伝うなということで、悔しいが今の俺は戦闘に関して二人の足手まといにしかならないという意味でもある。
こういう時俺にもフレンズの力があればと思うが、それは今まで如何に力業に頼った戦い方をしてたかってことだと気付かされる。
俺は戦い方が雑なんだ、だからいつまでたっても師匠に勝てない。
師匠こそ力業で押しきってくるように見えるが、流石と言うべきかそれでも無駄が少なくて同じ力業でも洗練されている。
そしてそれは目の前の二人の戦いを見ていてもそう、荒々しくもどこか計算されたような利に叶った動きしている。
それに戦いの為にフレンズの自分を欲するというのは… 結局俺もそういう人間ということなのかもしれない。
思い出せ、両親や姉さんや師匠に言われてきた言葉を…。
母からもらった力は振り下ろして傷付けるのに使う為のものか?違うだろ?それは散々言われてきて自分自身も嫌っていたことのはずだ、だから昔は人を傷付ける自分が恐ろしかったんだ。
今戦う二人を見れば答えが出るじゃないか?
二人は今、俺を“守る”為に戦ってくれているんだ。
「ギンギツネちゃん!いきますよー?」
「えぇ!お願い!」
その掛け声と共に母の体が強い輝きのオーラみたいなものを纏った、大技の予感だ。
そしてその時だ。
「なんだこれ?雪か?」
母を中心に辺りが雪原に変わったように見える、何かが理由でそう見えるだけかサンドスターが何かしらの意思に作用してるのか… それはわからないが今目に映るのは母が雪原の上に立ち大きな氷の棍棒ん振り回してセルリアンを一掃していく姿だ。
「おとと… とっておきのアイス棒ですー!」
最後にはそれを放り投げ残りの一体にぶつけて戦闘は終了した。
「…」
言葉を失った、なんだ今のは?不思議と寒くもなかったが間違いなく母の周りだけ雪原になっていた。
氷の棍棒なんてどこから出した?いつの間にかその手に握られ、それを振り回してはセルリアンを倒してしまった。
みんなできるのか?あんなことが?でも俺の知ってるフレンズ達にはあんな魔法みたいな力はない、姉さんも師匠も勿論ハンター達だって普通に動物の特性を生かして戦っていた… 俺だってそうだ。
カコ先生だってこんなの教えてくれなかった、ではあれは… サンドスターコントロールとは別のベクトルで発動するのか?
ここは俺の知ってるパークではないんだなと改めて思い知らされた瞬間だ、しかし。
あれ、俺にもできないだろうか?
なのであれについて尋ねてみたのだが。
「あれはけものミラクルよ?知らなかった?」
けものミラクル、無論聞いたことはないがフレンズ固有の必殺技みたいなもので戦闘中にある程度テンションみたいなものが上がりきることで発動できるらしい。
ギンギツネさんの場合も周囲が銀世界に変わり、超高速でかまくらを作り上げるそうだ。
それ… なんの効果が?
…
ゴコクを出てすぐの晩、二人が寝ている間に色々試してみたのだが…。
「まぁ… できるはずないよな」
当然、俺にはそのけものミラクルとやらができない。
所謂ゲージが溜まりきってないってのもあるだろうし、そもそも今の俺がけものではないというのもあるだろう。
あるいはハーフの俺はフレンズ化しても使えないのかもしれない。
ただそれならそれで。
「やはりこっちを洗練させろってことだろうな…」
サンドスターコントロール。
今の俺にはこれしかない。
目の前の木に向かい一発二発とサンドスターの拳を叩き込んでいく、その度にパンッ!スパンッ!と音たて木を揺らしては葉をゆらゆらと落としていく。
当たった場所を見てみるが…。
「やっぱり、浅いな… 速度も遅い」
前は拳程度の大きさなら音速で出せたし、それにこれだけ打ち込んだらこれくらいの木なんてすぐに折れてた。
だが今は幹が抉れるだけ。
ヒトであるかぎり弱体化から逃れられない。
「くそ…ッ!!!」
やはり力業、右手の先から飛び出した身の丈ほどもある光の拳が木に当たると、先程のような軽い音ではなくドンッと大きな揺れと共にゆっくりと木は倒れた。
そして、同時に拳を形成するのに使われたサンドスターは宙に飛散した。
「はぁ、ここまで勢いをつけなきゃならないのか…」
サンドスターが宙に逃げてしまいどっと疲れた、このクラスの一撃を何発叩き込めばここのセルリアンは倒せるんだろうか?
これじゃ帰れても幸先良くないよな… 何も変わっちゃいないのだから。
「ゆ、ユウキ?今のは…」
「っ!?」
ギンギツネさん!?いつの間に!?
いつからだろうか、周囲に気を配る余裕など無かった俺は彼女の存在に気付くことができず秘密の特訓を見られてしまった。
「い、いつから?」
「ついさっきよ?目を覚ますとあなたはいないし、森の奥で変な音がしたから」
この力、別に隠していたわけじゃないけど…。
「不思議な力を持ってるのね?」
「や、その~…」
「また誤魔化す気?あなたあからさまだから何も隠せてないわよ?」
だよね… 隠し事苦手なんだ。
でもギンギツネさんも怒ってるって風ではない、少し呆れたように小さな笑みを俺に向けている。
ここまできたら仕方がないので洗いざらい話してしまうことにした。
「ギンギツネさんごめん… 実は俺嘘ついてたんだ?」
「知ってるわ?どこからどこまでかは知らないけど」
例えばもうすぐ探検隊に追い付くだろうけど、俺は別に探検隊に会うのが目的ではなくて家に帰ることが目的だってこことか、俺の家はこのパークのどこにもないってこととか。
あと、俺が純粋な人間ではないってことも。
「じゃあ… さっきのはサンドスターを使った技なの?」
「そう、体内のサンドスターの循環をコントロールして外に出した時には形を作り出すんだ、さっきのは拳を弾き出して木に当ててた」
「便利なものね?でも消耗が激しいみたい、戦闘に参加するならもう少し改良がいるわね?」
その通り、だからこっそり練習してたんだ。
俺が追い詰められているような雰囲気だったのも彼女から見ればなんとなく感じていたそうで気にはなっていたらしい、話を聞いていくつかは納得してくれたようだ。
「ホワイトライオンさんは?」
「あの子は寝たらなかなか起きないの… 気になる?そういえばずっと言おうと思ってたのだけど、あなた達よく似てるわよね?髪も白いし目元なんてそっくり」
「まぁ… 親子だからね?」
「なるほどね?あの子が見ず知らずのあなたにやけに肩入れするから変だとは思った… あの子にもなんとなく感じるものがあったのねきっと」
混乱させるかもしれないから母さんには黙っていてもらうようお願いしておいた。
不思議だが、なんだかこうして誰かに話すと少し楽になるものだ。
俺は元の場所でもただ自分を追い込むばかりで相談というものをしていなかった、多分俺の気持ちなんて誰にもわからないと自暴自棄になっていたんだと思う。
今思えば妻や母に素直に相談するべきだったのだ、博士達も姉さんも師匠だってなにかアドバイスをくれたはずだ。
そりゃ最後に頑張るのは俺自身だが、連中がパークに来る以上みんなにとっても他人事じゃない…。
みんなで考えるんだ、対策を。
備えるとはそういうことだ。
「ねぇユウキ?その技をもっと安定させたいなら、私にも協力させてくれないかしら?」
ギンギツネさん?でもなぜ?そりゃありがたいけど…。
「個人的に興味があるのよね… 今後の発明のいいアイデアになりそうだし!それにあなたの今の状況!タイムスリップ?異世界転移?なんだかワクワクするじゃない?」
ただの好奇心か… って言うかあんた人の気も知らんでワクワクしてんのかい。
まったく人が苦労してるってのに… でもまぁ何度も助けてもらってるんだし、お話くらいしてあげようではないか。
「わかったよ、じゃあなんでも聞いて?答えられる範囲なら答えるから」
「そうね?じゃあ、家族はどんな感じ?奥さんと子供と… あとあの子はどんなお母さんになってるの?それから旦那さん!あなたのお父さんってどんな人なのかしら?聞かせて!」
それから俺の生い立ちとか色々聞かれたことを彼女に話していき、訓練にもアドバイスを取り入れ徐々にコツを掴み始めた気がした。
そして俺達はゴコクより向こうへ。
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