死ねない僕と、妹と、魔法街の何か

二月のやよい

第一章 またも妹が増えました

第1話 日常の前に、非日常を

 僕は歩く。


 一歩、一歩。踏みしめるたびに、硬質な床の感触を靴越しに抱く。


 また一歩。足下のものに躓きそうになった。


 転ばないように注意しながら――また一歩、歩を進めていく。


 歩くたび、僕の周りに死体が積まれていく。


 僕から逃げるように背を向けたもの。


 恐怖におののく顔をしたもの。


 或いは己の運命を受け入れ、固く目を瞑ったもの。


 一歩、また一歩と歩みを進めるごとにその数は増えていく。


 彼らにも家族はいたのだろうか。


 彼らにも愛する人はいたのだろうか。


 そんなことはお構いなしに、僕は歩いて行く。


 僕に抵抗しようと襲いかかってくるものもいる。そんなことは無駄だとわかっているのに。

 

今までに何度もこの光景は目にした。


 罪悪感の一つでも芽生えれば人として上出来なのだろうが、僕にはそんなもの一つとして現れない。


 こめかみから血を流そうが、腹を割かれようが、僕は歩き続ける。大丈夫だ。何が起ころうと僕はのだから。


 ふらふらと当てもなく歩き回り、出会った人間全てを殺して回り、いずれその叫びが聞こえなくなってきた頃、僕は歩みを止めた。


 やはり罪悪感は湧いてこない。


 達成感は……ないか。なかった。


 全ての部屋を回り、誰もが息絶えていることをもう一度確認した。


 そこで意識が遠くなり始める。ちょうどいい。


 何処の誰の部屋かは知らないけれど最上階で汚れもなく広い部屋を見つけたので、そこに横たわる。


 部屋の中には照明一つついていないが、窓から入る光が反射しているため、天井はぼんやりとその姿を捉えることが出来る。


 まあ、それも飛びかけている意識のせいで、だんだん輪郭を失いつつあるけれど。


 体がひんやりとして、だんだん温度を失っていく。


 瞼が重く、今となっては開いているのか閉じているのかよくわからない。


 なら証拠を消してからさっさと撤収すべきなんだけど、今日のは完全に私用だ。


 私用であり、じょうであり、えんである。


 プロならば仕事以外で殺しをするのはポリシーに反する、とかで私情を挟むことはないのだろう。けれど僕はその辺りアマチュアであり、趣味でやっているようなものなのでこういうことも許して欲しい。


 ああ、ダメだ。考えがまとまらなくなってきた。


 ふと頭に浮かんだことも、出血と共に外へ流れていってしまう。


 大人しく今は眠ることにした。


 おやすみなさい。良い夢を。

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