弱くてニューゲーム! 魔王は弱くなっても規格外だった。

@be-yama

第1章 転生・学院入学編

第1話 プロローグ

人類歴1086年-

世界最高峰の山、<霊峰エールベスト>。

その何人も寄せ付けない魔境の頂上に、2人の男がいた。

1人は魔王。黒で統一された衣装に、黒髪、魔族の特徴である赤い瞳。

腰には彼の持つ神器〈虚滅神剣きょめつしんけんアランベルグ〉がある。

もう1人は聖王。こちらは白で統一された衣装に、金髪金瞳。

彼も自分の神器〈輝源神剣きげんしんけんジ・イグアス〉を腰にさげている。

「遅かったな聖王。約束の時間ギリギリだぞ」

魔王がそう言うだけで、並の生物なら失神しかねない程の圧力が辺りを襲う。だがー

「ああ、すまないね。けどそう言うんなら道中の魔物を退かしておいてくれてもいいんじゃないかい?」

聖王は全く影響を受けない。それどころか彼の所作にも魔王と同等の圧力がある。

2人の間に存在した不運な岩、雪、氷、植物がバチバチッと弾けて凍りついているハズの山頂に地面が現れる。

「ふん。知り合いにはきっちり別れを告げてきたか?」

さらっと聖王の文句を流す。聖王が不満そうな顔をするが、無視。

すると、ため息と共に返答がある。

「もちろんさ。の件も含めてね。君は?」

「勅令を出し、細かい指示をした後は部下に任せてきた」

「うわぁ…」

聖王が少しひく。

ちなみに、現在、彼の部下数人が魔王城で混乱への対処や制度の再編成など、膨大な量の仕事と涙目で戦っていたりする。

「君ってやっぱり鬼畜すぎるよね」

「知るか」

たとえその部下からそう言われたとしても、知らないったら知らないのだ。

「全てが片付いて、もう一度会えたなら…文句くらいは聞いてやる」

「あはは…美味しいお酒もセットでね?」

魔王がめんどくさそうに返したのを見て、聖王は朗らかに笑う。

一見すると、ただの知人同士の会話だが、この場を見る者がいたら驚きのあまりに卒倒してもおかしくない。

なにせ、1000年以上も前から争い続けている魔族と人族の王が和やかに談笑しているのだから。

歴代の王達は相手を滅ぼすことしか眼中になかった。その上、この2種族の溝は深く、お互いを憎悪し、侮蔑し、嫌悪するのは当たり前であった。

だが、歴代最強と謳われるこの2人はそれを当たり前とせず、なぜこのようになるのか、原因を探り、1つの結論に辿り着いた。それはー


『神がこの世界に介入を続ける限り、今後もあらゆる場所で戦が起き、終わることがない。つまりー神をぶっ飛ばせば全て解決する』


という結論だ。

神とは、あらゆる事象、感情が世界に満ちることで誕生または覚醒し、己の起源に基づく秩序、結果を全生命に与え続ける超上位存在だ。

神は不老で不死で不壊で不衰だが、。そして、神が滅べばその世界への影響力は今までの2割程にまで落ちる。

その為に世界最強の2人の王は手を組んで、〈戦乱神〉と〈憎悪神〉を討つと決めたのだ。

「さて、そうこうしてる内に月が出たみたいだよ」

「分かっている」

いつの間にか日は暮れ、2人の頭上には大きな満月が浮かんでいた。

神々は巧妙に隠しているが、月に一度出る満月に神の世界、〈神界〉を繋げて月光を使って干渉を行っているのも調べがついている。

魔王は月に手を向け、大量の高密度な魔力を使い、魔法を発動させる。

「〈極限扉魔法テラ・ゲート〉」

扉魔法ゲートは地点AとBを繋げ、一瞬での長距離移動を可能とする魔法だ。

無論、効果範囲は発動した世界の中だけだ。〈神界〉は存在する次元が違うため、繋げることは出来ないが、今は真上に〈神界〉とこの世界の中継点がある。

これを利用すれば2つの世界を繋げることも可能になる。

ガガガ、ギギギギと空間が軋むような音と共に巨大な白い扉が現れる。

「おお、さすが…」

聖王がマジかよ、という表情で褒める。彼は剣に関する事であれば負け無しだったが、魔法に関しては魔王が数枚上手なのだ。

「さっさと構えろ。天使達から介入される前に突入する」

魔王が目をスっと細めると、扉が開き始める。その隙間から様々な色の鳥の羽のような物が降ってくる。神を守護する天使と呼ばれるモノの羽だ。

「「対応が速いな(すぎる)…!?」」

2人は即座に神器を抜き、〈飛行魔法フライト〉を使い、飛び立つ。

2人はぐんぐん上昇し、月に猛接近する。すると、

「ねえ魔王。君の名はなんだい?」

藪から棒な質問に魔王は頭の上に?を浮かべるが、

「シオン、シオン・クロスロードだ」

と、短く答える。

「そっか…。僕はアーネスト、ただのアーネストだ」

「ふむ。何がしたい?」

「いやね、この戦いが終わったら僕らは転生するだろう?そしたら、君とは今度こそ友人として過ごしたいと思ってね?」

そう聞いた魔王は一瞬目を丸くして、

「はははは!魔王と聖王が友になるとは…よくもまあ思いつくものだ」

と、笑う。

返事は、至ってシンプルだった。

「いいだろう。ならばさっさと仕事を終わらせるぞ」

2人は、神界への門に飛び込む。

「「友よ、500年後にまた会おう!」」

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