第7話 【数学】理系と駆け引き
「ねえねえ、ちょっと教えて欲しい所があるんだけど」
「良いだろう。ここの確率の問題か?」
「うん。大中小3つのサイコロがある。
出た目の和が7だったとき、出た目の積が奇数である確率を求めよ、っていう問題」
「条件付き確率だな。出た目の和が7かつ積が奇数になる場合を、出た目の和が7となる場合で割れば答えが出てくるはずだ」
「うーん、やっぱりそうよね」
「もしかして条件付き確率苦手か?」
「うん、どうしても理解できなくてね。出た目の和が7で積が奇数になる確率を求めるだけじゃダメなの?」
「そうしたい気持ちも分かるが、「〜なとき」と書かれているから、出た目の和が7になることは前提条件だ。求める確率は前提条件を1としたときに、その事象が占める割合ということになる。普通ならば(事象AかつB/全体)だが、条件付き確率ならば(事象AかつB/事象A)というように、分母をより細かいものに移しているのだ」
「なるほどねー。でもまだあんまり実感湧かないなあ」
「例えば俺が君を馬鹿にする確率と、君が理系科目で学年1位をとった時に俺が君を馬鹿にする確率なら全然違うだろう?」
「確かに...!両方とも0であって欲しいけど」
「母体を移し替えれば幾らでも確率は変わるものだ。中にはこんな面白い話もあるぞ」
そう言うと彼は歩き出して教卓の前に立ち、文化祭の食販の余りと思われる紙コップを3杯ほど引き抜いた。
「君にはこの3つコップのうち、一つに消しゴムを入れて混ぜてもらいたい。俺には見えないようにな」
「う、うんわかった」
言われるがままに消しゴムに紙コップをかぶせ、適当に混ぜる。確率の話だよね?これ。
「終わったわよ」
「よし、今から俺は一つだけ紙コップを選ぶ。そうしたら俺が選んだもの以外で、消しゴムが入っていない紙コップを取り払ってくれ。いいか?」
「分かったけど、こんなことして本当に当てられるの?」
「当てられるかどうかは分からん。が、まあ見ていてくれ。じゃあ俺はこのコップを選ぶ」
「はい、とったよ。これで確率は半分ずつ。さあどっちにするの?」
「ならさっき選ばなかったこっちにしよう」
「あら、正解だわ。まさか本当に当てちゃうなんてね」
「俺も確証はなかったが、実は2回目の選択で変えた方が確率が上がるのだ。これも条件付き確率が潜んでいる」
「単なる駆け引きかと思ったら、ちゃんと数学に基づいてるのね。それで、どんな仕組みなの?」
「最初の確率はどれも1/3だ。しかし一つ選んで、もう二つのうち確実に入っていないものを一つ取り払ったとき、実は残ったそれぞれの中に入ってる確率は1/2ずつではない。選んだものの確率はそのままだが、選ばなかった方は2/3だ」
「ええどうしてよ、最後は二つのうちから一つを選ぶ状況と同じじゃない」
「直感的に考えて分かりやすい例で言えば、紙コップが1000個あって、俺がそのうち一つを選び、君が正解と俺が選んだものを除いた
998個を抜くと考えらたらどうだろう」
「確かに、私が選ばなかった方に999個分の確率が乗っかってそうな気がするわ」
「そうだろう?これはアメリカのテレビ番組『Let’s make a deal』で紹介されたゲームで、司会者の名前をとってモンティ・ホール問題という。表にしたり、正解を固定した上で条件付き確率を用いると証明できるぞ」
「なんだか不思議ね。言われてみれば確かにと思うけど、私なら変えて外れちゃった時のことを考えてそのままにしそう」
「大事な決め事をするときはぜひ使うといい」
「そこまでして勝っても気持ちよくないから公平にジャンケンでいくわ」
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