第5話 【物理】理系と脱出
「はあ...」
「どうしたんだ?溜息なんてらしくないじゃないか」
「親とちょっと言い合いになっちゃってね。教職は過酷だから辞めとけの一点張り、埒があかないわ」
「まあ、大学に行く費用を出すのは親だからな。彼らの気持ちを汲みながら、自分の意思を伝えていくしかないだろう」
「うーんまあ私も言い過ぎちゃったし、これからはそうしていくつもりだけど、なんとなく帰って顔合わせるのが気まずい...」
「家出願望か?ならとっておきの策があるぞ」
「凄くしょうもない予感がしてきたわ」
「まず物理の世界には第二宇宙速度というものがあってだな」
「はいストーップ!どうしてそんな宇宙規模の話なるのよ」
「家出というのは『探さないで下さい』といった具合のメモ書きを残して、見つけやすい場所に身を置くのが通例だろう。しかしそんな構って欲しさ丸出しの家出をしてどうする。どうせなら探したくても探せない所に行くべきじゃないのか」
「そもそも家出すること自体、親に見つけてもらうのが目的だと思うんだけれど...」
「とにかく、そんな情けない家出を家出とは認めん!説明をすっ飛ばしていたが、第ニ宇宙速度とは、地球から脱出して無限の彼方へ到達するために必要な初速度のことだ」
「きっととんでもない速度ね」
「ああとんでもないぞ。ちなみに君は万有引力を知っているか?」
「ニュートンの見つけた力でしょう?」
「そうだな。詳しく言えば、ケプラーの楕円軌道の法則を円近似して作用反作用を考慮した力のことだ。その万有引力を右辺に置いて運動方程式を立てれば第二宇宙速度の導出ができる」
「さっきから思ってたけど、第一宇宙速度はどこ行っちゃったの?」
「地球を一様な速度で一周するための初速度を第一宇宙速度というのものだ。だいたい時速28000kmくらいだな」
「だ、第二宇宙速度は...?」
「時速約34000kmだ」
「宇宙に飛び出す前に星になるわね」
「こんなもんで満足しちゃいけない。太陽系から脱出するには太陽の重力も考えなければならない。それら全てを考慮して第三宇宙速度なるものもある」
「それは、ずばり...?」
「時速約60120kmだ。良かったじゃないか、これで君はあと家出を実践するだけだ」
「ちゃんと親と仲直りします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます