古い言葉かもしれないけど

「決勝戦、第1セッション。使用するギアをピット1から出してください」


 セリカが出したのは、ここまで連戦連勝でバーストを決め続けて来た長い二本角を前方に大きく伸ばした漆黒のビートルギアだ。

 後で知ったことだけど、これは「デュアルコーンヘラクレス」と言う名の、突撃力に特化したギアらしい。セリカはこの時、既に他の大会で賞品として得ていたレアパーツ、「タングステン・スケルトンフレーム」を組み込み、機体重量を増やし剛性を増すカスタムをしていたようだ。


 対するユウスケのギアは、機体全面にスパイクの付いた盾状のパーツが付いた「ビッグホーン・ゴライアス」という防御に特化したギアだった。


 どうやらユウスケは、ここまでのセリカの戦いから突進攻撃型のギアが来ると読んだ上で、敢えて防御型ギアで真正面から受けて立つ作戦らしい。見れば足回りもスピードより踏ん張りを重視したのか、ラバー製のキャタピラだった。


 古い言葉かもしれないけど、男らしいと私は思った。


「ギアを交換して。お互いに点検を」


 二人とも慣れた手つきで解体し、組み立てる。


「挨拶を。お願いします」

「お願いします」

「お願いします」

「レディー、セット」


 ユウスケとセリカがギアをコマンダーにセットし、パドック上に据える。セリカが低い姿勢で、右手を後ろに振りかぶる独特の構えを取る。


「3! 2! 1! ゴービート!!!」


 叩き出され、飛び出すセリカのギア。

 対するユウスケのギアはスタジアム中央で受け止める構え。


 ばきぃん‼︎


 バラバラに弾け飛んだのは、ビッグホーン・ゴライアスだった。


「ビートルバースト! セリカ選手、2ポイント獲得!」


 歓声とどよめき。

 ユウスケはいきなり追い詰められてしまった。ギアのパーツを拾い集めるユウスケの目元はキャップのツバに隠れて見えない。

 だが、その口元は小さく、しかし確かに笑っていた。


「第2セッション。第2ピットからギアを取り出して」


 ユウスケのギアはトーナメントを勝ち抜いてきた赤いビートルギア。「ギラフィック・スプリンガルド」

 セリカのギアは金色のパーツで構成された三本角のカブトムシ「ゴッドアトラス」だ。


「すげーあのゴッドアトラス、全部大会賞品のパーツだ!」


 キッズの内の誰かが叫んだ。

 なるほど……大会荒らしてゲットしたパーツか。

 黄金のカブトムシと傷だらけのクワガタムシ。

 それは王侯貴族に挑む剣闘士奴隷のようだった。


 ギアの確認作業を終え、二人がコマンダーにギアを装填する。


「レディー、セット」


 真っ直ぐ構えるユウスケ。右手を振りかぶるセリカ。


「3! 2! 1! ゴービート!!!」


 セリカが打ち出した黄金のギアは、弾き出された瞬間から高速で回転を始めた。


 赤いクワガタは一度接触して強く弾かれたが、スタジアムの壁面に当たって跳ね返るようにして中央に戻り、その大きな顎で回転を続けるセリカのギアをガチン、と挟んだ。そのまま頭全体が捻るように回転したと思うと、ふらつきながらも黄金のカブトムシを裏返し、自分もバウンドしながらスタジアムに着地する。


 裏返えったアトラスの六つのタイヤは虚しく天井を向いて空転し、ギラフィック・スプリンガルドはウイニングランのようにスタジアムを周回する。


 あ、カウントしなきゃ!


「1! 2! 3! アップサイドダウン! ユウスケ選手、1ポイント獲得!」


 わあっ、と歓声が上がる。

 これでユウスケとセリカのポイントは1対2。

 ユウスケが不利なのは間違いないが、彼は一矢報いて勝負を分からなくした。


「現在ポイントは2対1でセリカ選手リード。第3セッション。両選手、第3ピットからギアを出してください」


 二人が出したのは、全く同じ、黒と紫に彩られた、禍々しいカブトムシ型のギアだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る