タイムリミット
桜牙
第1話
な、なんなんだこの状況──俺のベッドの上で目を閉じて無防備な女の子が腰掛けてる。
俺の人生で最大のチャンスでもあり最大のピンチが訪れていた。
この状況を説明するには少し時を遡らなければならない。
目の前にいる彼女は家が近くてよく遊ぶ女の子でいわゆる幼馴染というやつである。
彼女に今日うちに遊びに来ていいかと言われ、断る理由もなく二人で俺の部屋でゲームをして遊んでいた。
対戦ゲームをしていたのだが彼女が賭けを急に持ち出して来た。
次の試合で負けた方が勝った方の言うことを聞くことという内容の賭けだった。
結果は惜しくも俺の敗北。
それで何故か彼女が勝ったにも関わらず訳の分からない提案をして来た。
「5分間、私が目を閉じてる間、私に何をしてもいいよ」
携帯のタイマーを5分セットしながら彼女が言った。
「じゃあ始めるよ。スタート」
彼女はタイマーをスタートさせながらゆっくりと目を閉じて無防備な状態になった。
それで今この状況である。
何をしてもいいって一体どういう事なんだ。頭が混乱して何も考えれない。
何も出来ないまま時間だけが過ぎて行く。
彼女の方をよく見たら、顔が少し赤くなっていた。やはり恥ずかしくないわけではないようだ。一体どういうつもりなんだろう。
エアコンをつけて涼しいはずの室内なのになぜか体が熱くなり変な汗が出てくる。
制限時間が過ぎて行きタイマーの音が静まり返った部屋に広がった。
ゆっくりと目を開ける彼女。
俺の顔を少し見ると俯いて口を開いた。
「どうして、どうして何もしてこないの?」
「え? どういう──」
彼女の言ってる意味が分からなく戸惑った。
「私ってそんなに魅力ないかな?」
声を荒げ、目には涙が溜まっていた。
ああ、そういうことか。
どうして今まで気づかなかったんだ。
彼女は俺のことが好きで何かして欲しかった。
それでも俺は何もしなかった。
だから彼女は悲しくなったんだ。
だから彼女は怒ったんだ。
そんな彼女の表情を見て俺の心は苦しくなったんだ。
俺も彼女の事が好きだからくるしくなった。
自分の気持ちに気がついてしまった。
「1分いや後30秒だけ俺に時間をくれないか?」
溢れ出た自分の気持ちをそのままにしておけず、気がつくとこんなことを口走っていた。
泣き止んでキョトンとする彼女。
それでも小さく頷いて応えてくれた。
ここでしっかりと彼女に気持ちを伝えるんだ。
「あ、あの」
ダメだしっかりと言うんだ。
「俺はお前のことが好きだ」
そう言いながら彼女を抱きしめていた。
「お前が目の前で泣いてるのを見て苦しくなった。今まで近過ぎて気づかなかったけど。俺お前が好きなんだ」
彼女の顔が見たくなって抱きしめてる腕を解いた。
「私もずっと好きだよ。ちゃんと気持ちを伝えてくれてありがとう」
涙はまだ溢れていたが輝く様な笑顔でこちらを見上げて居た。
やっぱり、彼女には笑顔でいてほしいと心から思った。
タイムリミット付きのチャンス。それは活かすことはできなかった。
だが、タイムリミットがなくてもこれから何度でもチャンスは訪れる。
そういう関係に俺たちはなれた。諦めず勇気を振り絞って、自分の気持ちを伝えることが出来て良かった。
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