#487 確率

 オープンアクションゲーム総合会議室


「なぁ、個人戦で最強のプレイヤーって誰だと思う?」

「それはオープンアクション全部をさしてって話か?」

「そう。ゲームごとの追加要素は抜きにして、1番強いのって誰なのかなって」

「それ、Eスポーツ大会の優勝者でよくね?」


 ここはVR空間に存在する雑談スペース。専用アバターを持ち込み会話する者も居れば、音声やコメントのみで参加する者もおり、ちょっとした暇つぶしの場になっていた。


「それじゃあ今年は、向井千尋で決定だな。はい、解散! がらがら~」

「基本システムは同じでも、ゲームってのはソコに付与された"味付け"が重要なんだから、そんな議論、無意味だろ」

「そうそう、DSBなら俺、向井に勝つ自信あるし」

「呼び捨てかよ。ガチもんのプロだぞ」

「アレを正式ガチなプロというのは語弊があるけどな」

「そうなのか?」

「なにせアイツ、IB素人だし。たまたまやっていた他ゲーの戦法がハマっただけのマグレ優勝だから」

「まぐれでも優勝までいったら、それはもう本物なんよ」


 シンプルなオープンアクション系対戦ゲームの代表格は、Eスポーツの世界大会でも話題になったIBなのだが…………もちろん他にも種類はある。そして後発のタイトルになると個性が重視され、派手な演出とコマンド技が優位なモノ、あるいは戦略やランダム性が高いものと、ベース部分こそ同じでもその様相はまったくの別物となる。


「いや、俺も完全に否定はしないよ? しかし見ただろ? 向井は極端なマニュアル技重視。とてもIBのシステムをフル活用していたとは言えない」

「まぁ、そうかもな」

「つまり癖の強いタイトルなら……」

「話がそれてないか? 地の強さで言うなら、それこそアウェイで優勝した向井が最強って事になるじゃないか」


 IBの世界大会では、基本攻撃や立ち回りを重視する向井と、対戦システムをフル活用するリンシーとの対戦となった。システム的に有利な策で体力を削りにいったリンシーだが、最終的には有効打(クリーンヒット)の数が決め手となり向井が勝利した。


「ま、まぁ、トワキンとかあっち系は、そういうトコが重視されますって話なわけで……」

「声がうわずってるぞ」

「ほっとけ」

「しかし、向井じゃなくてもいいけど、1度でいいからトッププレイヤーと手合わせしたいものだよな。もちろん、こっちの土俵で!」

「最低だな、おまえ」

「ちょ、そこはノってくれよ!」


 他愛のない会話で盛り上がる面々。基本的に顔馴染みの会話だが、そこはオープンな空間なので…………飛び入り参加や、会話に参加しない傍観者、あるいは会話内容を纏めてコンテンツ化する者までいる。


「セインは企業お抱えだから、個人が挑戦するのは実質不可能だな」

「「…………」」


 見慣れないアカウントのレスで空気がわずかに変わる。


「難しいのはわかるけど、L&Cだっけ? 相手のホームならいけるだろ。知らんけど」

「釣られてやんの」

「なっ!」

「まぁそうかもだけど、それもRPGだと飛び込みでは無理。それよりももっと簡単な方法があるぜ」

「「…………」」

「なんだよ、早く言えよ」

「YYP。セインと繋がりのあるストリーマー事務所の連中に絡んでいけば、簡単に釣りだせるんだな、これが」

「簡単では無いだろ!」

「だから釣られてるって」

「ぐっ!」


 あえて隙を見せるのも話術であり戦略。


「少なくともYYPの連中は、セインにいつでも連絡とれるわけだ。そしてYYPは攻略サイトを運営していて、その業務の一環としていつも動画を撮影している」

「つまりその撮影にバカ面さげて凸すれば、顔真っ赤にした向井プロが出てきてくれるってか? んなわけあるか。通報されて終わりだ」

「そうかもな。"個人"だと」

「「…………」」


 どこの世界にも、くだらないことを考えるバカはいる。もちろん大半はその誘いを断るのだが…………それが1%でも、100人に声をかければ1人、100万人に声をかければ1万人が集まってしまう。


「まぁ、難しく考えるなって。べつにガチな迷惑行為をしようってわけじゃない。謎多き有名人に一目会いたいだけってのが大半だ」

「あぁ、そうですか」

「ちなみにセインはイケメンだって有名だろ?」

「「??」」

「だから多いんだよ」

「「?????」」

「会ったからって、何が起きるわけでもないのにな~」

「「…………」」




 それが特大の釣りだと理解はしている。しかし中には信じてしまう者や、途中まで付き合って甘い汁だけ吸わんとする者は、どうしても出てきてしまう。

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