#425 侵攻イベント①

「やはり、朝一は空いているな」

「MMOプレイヤーは基本夜型だからな」

「ほら、喋ってないで早く済ませようぜ」

「「おう!」」


 人気のない遺跡を、初心者と思しきPTが進んでいく。


「あれ、確かココのはずなんだけど……」

「何やってるんだよ。もしかして迷子か?」

「いや、攻略サイトでは、ココに対応NPCが居るって書いてあるんだけど」

「居ないじゃないか」

「おかしいな。もしかして、配置変更でもあったのかな……」


 彼らの目的はサブクエストだ。面倒なNPCとのやり取りを効率よく進めるため、この時間、この場所に来た。


「君たち、もしかして"兵士の差入れ"イベント?」

「え? あ、はい」


 そこに現れたのは、そこそこの装備で固めた2人組。彼らは気さくな態度で歩み寄る。


「やっぱり、ココ、よく間違えてくる人、多いんだよね」

「あ、やっぱりそうなんですか」

「そうそう、ほら、あそこを見て」

「へ? あっちですか??」


 3人が揃って指さす方に視線を向ける。しかし、その先に目ぼしいものは無く、必死になって"何か"を探す。


「ウケる」

「マジで、L&Cってチョロイよな」

「「え? …………ッ!!」」


 背を向ける3人の頸を、2人は次々と刎ねていく。


「ザコ過ぎて、マジつまんねぇわ」

「ちょ、何するんですか!?」

「はい、お終い!」

「なっ!!」

「ダル。次は、村でも襲うか」

「そうだな。こんなクソゲー、早く"サ終"にしちまおうぜ」


 悪態をつき、彼らは次の目標に向かう。そのアバターのID表示は、黄色かった。





「アイツラ、片っ端からイベントNPCを狩ってるみたい」

「セカンドアバターを、完全に使い捨てにしているね」


 本来は普通に狩りに出かけているところだが、今日は問題があって、朝からギルドホームで対策会議をする事になった。


 現在、何度目かの侵攻イベントが始まり、まずは王国の領土だった村が1つ魔人に占領された。この後は1週間、魔物が活性状態になり、土日に3か所の領土をめぐって人族と魔人が争う本イベントが発生する。


「気に入らないな。最初からゲームオーバー前提の特攻なんて」

「(セカンドと言ってもゲームオーバーには)デメリットはあるのに…………それでも構わないって感じみたいね」


 しかし、問題はイベントとは関係のないところで起きていた。それは、先日アカウント凍結されたネスへの対応に抗議する形で、トワキン勢が無差別にNPCを攻撃しだしたのだ。むろん、転職などの重要NPCはシステム的に守られているが…………L&Cは自由なゲームであり、守られているNPCが少なく、早くもサブクエストが幾つも進行不能におちいり、現場や掲示板は荒れに荒れているようだ。


「でも、それならそれで、C値が稼げてイイんじゃないか? たしか、L値が先行し過ぎて問題になっていたんだろ??」


 一時はセインさんの活躍もあって進行度は均衡がとれたが、転生後、ほとんどのCルートPCは悪目立ちを回避するために、経験値や装備の拡充に努め…………逆に隠れる必要のないLルートPCは自警団の活躍もあって大きく躍進した。


「限度ってものがあるでしょ? それに本来は、犯罪者を追い回すのも含めて、1つの"流れ"になっているんだから」


 指名手配されたPCは、両ルートのPCから狙われる。何故なら、犯罪者は賞金首であり、倒せば報酬とクエストポイントが加算される。加えて、善人でも悪人でも殺せば『殺人1回』とカウントされるため、両方の攻略ポイントが獲得できる。


 勘違いされがちだが、ルートポイントは"足し引き"の関係では無く、それぞれ独立して計算されているのだ。


 しかし、使い捨てのアバターがポイントを荒稼ぎしては、残るのは"荒れた環境"のみ。指名手配しようにも、相手のホームはトワキンであり、L&C側は月額課金くらいしか痛むものが無い。


「何より、雰囲気が悪くなって過疎化するのが、一番問題なんだよね。MMO的には」

「最悪、(侵攻イベントの)本イベントが仲間割れでグダグダになって終わる可能性だって、あるわけだし」

「流石に、本イベントは"セカンド禁止"になると思うけど、嫌な予感はするよね」


 一部では『信者ファンネル』と呼ばれているそうだが、この妨害行為の厄介なところは、末端を潰しても本体にダメージが入らない点だ。そもそも本人は、すでに『アカウント凍結からの、世界選手権参加不可能』と制裁を受けた後。あくまで個人が、自発的に献身を捧げ、犠牲を持って"抗議の意"を示しているのだ。


「それじゃあ、どうするって言うんだよ? 自警団みたく、イベントエリアに張り込みでもするのか??」

「それじゃあ、問題は解決できないわ」

「そうなのか?」

「えぇ、だってセカンドと言っても、NPCを攻撃しなければ非犯罪者。普通にプレイしている無関係のPCかもしれないじゃない?」

「それは、そうだけど」


 自警団の検問もそうだったが、特別な権限を持たない一般ユーザーに出来る事は限られる。特に悪事を行う"前"の相手に対しては、逆にコチラが迷惑PCとして訴えられてしまう。


「だから……」

「あ、お姉ちゃんが"悪い顔"してる」

「ほっとけ。つまり、私たちが片っ端から、セカンドアバターを狩っていけばいいのよ。Cルートの私たちなら、犯罪者かどうかなんて、関係ないでしょ?」

「ハハッ! 流石はナツキだ。愛しているぜ!!」


 元自警団の私が"無差別PK"を計画している。昔の私が今の私を見たら、何て思うだろう。


「そうと決まれば、ロートの人たちにも声をかけなくちゃね」

「アニキは、流石に不参加だろうけど、ニャンコロさんたちは、どうするかな……」


 L&Cの秩序は、ユーザーに委ねられている。善でも悪でもない、その均衡をめぐる秩序であり、そこには良くも悪くも、自由な世界が広がっている。




 こうして私たちは『信者ファンネル討伐作戦』を企画した。

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