#383(8週目土曜日・午後・セイン)

「ニャン子、対人用にショートカットを組み替えるなら、今のうちだぞ?」

「もう済ませたのにゃ。でも…、なんでソレをオープンで言うのにゃ?」

「それはもちろん…、襲って来てくれるかもしれないだろ?」


 立ち止まり、わざとらしい会話で襲撃者を挑発する。


 一応、興味本位で尾行してみただけのギャラリーの線もあるが…、それにしては人数や手際がよすぎる。これはまず間違いなくPK、それも賞金目当てのWSだろう。


「にししし、そう言う兄ちゃんは、アイにゃんに助けを呼ばなくてもいいのにゃ?」

「アイか…。確かにドロップを拾ってもらえるのは助かるが…、露店とどちらが儲かるか、怪しいところじゃないか?」

「まぁ、予備(の装備)だろうにゃ~」


 相手は12人くらいか? 前後に3人PTが1組ずつ。さらに不自然にも、何度もすれ違った3人PTが2組。いずれも外見は違ったが、背丈と職業構成は同じだったので同一人物と見て間違いないだろう。あとはまぁ、視界外にそれらのサポート役がいるかもしれないが、そこは今ある情報だけで考えても仕方の無い事なので、一旦保留にしておく。


「チッ! 余裕こきやがって。奇襲に気づいただけで、勝ったつもりか?」

「勝ったつもりになれるのは、もっと別の理由さ」

「そうにゃそうにゃ。負けた理由は、明日まで考えておいてくださいなのにゃ~」

「だから! まだ負けてないだろ!!」


 少し離れて草むらから弓使いが顔を出す。


 なぜ無言で狙撃してこないかと言えば…、狙撃体勢に入ろうとしたところでアッサリ見つかり、目が合ってしまったからだ。


「もらった!!」

「ん? それがどうした??」

「なっ!?」


 背後から飛来する魔法の弾丸を、軽く横に飛んで回避する。


「くそ! 警戒スキルをセットしていたか。流石に対人経験が豊富なだけあるな」

「いや、そんなもの無くても…」


 余談だがL&Cには、足音などの各種エフェクトを軽減するスキルや、それらをメタるアンチスキルも存在する。しかし、スキルスロットに制限があるので、狙撃や奇襲の専門家でも無ければ使うことはない。加えて、あくまで"軽減"なので、単独の対策だけで気配を完全に消すことは不可能だ。


 今回の場合だと、弓は見た目と音が、魔法は光と音がポイントで…、素人でも警戒していれば結構判別できたりする。あとは、それを瞬時に読み解き、適切な対応が出来るか、そしてその警戒状態をどれだけ維持できるかで優劣が決まる。


「にしし~。そんなの無くても、見え見え過ぎて引っかかりようが無いのにゃ~」

「「くっ!?」」


 煽るニャン子。


 お調子者な性格もあるが、ニャン子はメンタルが弱く、相手のペースにのまれると脆くなるところがある。この煽りは、単に調子に乗っているだけでなく、勝負を優位に運ぶための布石でもあるのだ。たぶん。


「狼狽えるな! 作戦通り行くぞ!!」

「「応ッ!!」」


 木陰から現れた長剣使いが、別の方向から1人ずつ波状攻撃を仕掛けてくる。あえて名付けるなら『集団ヒットアンドアウェイ戦法』ってところだろうか? 長剣なのでカウンターが狙いづらく、なおかつ代わる代わる攻撃してくるので追うにも追えず、SP勝負も分が悪い。


 ともあれ…。


「ふっ! やる気が感じられないな」

「ボクが考えた最強の作戦って感じなのにゃ~」


 結局、機械的に浅い攻撃を繰り返しているだけなので捌くのは容易。安全重視なので決め手も無く、せいぜい間に矢や魔法の遠距離攻撃を挟む程度しかアレンジの余地がない。


「ところでお前たち! 誰に雇われた?」

「「!?」」


 最初は俺たちの賞金を狙うガチなWSかと思ったが…、蓋をあければ幼稚すぎる戦法。来るもの拒まずが心情ではあるが、流石に"お遊戯"に付き合わされるのは迷惑だ。


「まぁいい。こんな面倒なことをする連中は限られるからな」

「アチシも飽きたから、そろそろ終わりにするの…、にゃ!!」

「「!!?」」


 ニャン子が、ぬるい突きを掴み、そのまま武器ごと投げ飛ばす。


 俺も負けじとステップで立ち位置をずらし、握り手をはねる。攻撃が浅かったので完全に切断できる保証は無かったが、レベル差が大きかったのか、かすめた程度でも充分切断できてしまった。


「どうせ、俺たちのビルドでも解析しているんだろ?」

「「!?」」

「装備だって負けること前提の安物。いくらで雇われたか知らないけど、もう少し頑張らないと、正確な解析はできないのにゃ~」

「チッ! 流石にバレたか…」


 こいつらは勝算があって挑んできたわけではない。真の狙いは外部ツールによる『俺たちの装備やスキル構成の解析』だ。ツールによって様々な行動を記録・解析して相手の手の内をあらわにしてしまう。


 説明だけ聞くと対人戦では必須アイテムのように思えるが…、実戦で常時稼働させているPCはまずいない。何故なら『使われたスキルをただ羅列しているだけ』だからだ。それでも乱戦では使えない事も無いが…、結局、操作画面が煩くなるのが耐えられずに殆どのプレイヤーが使用をやめてしまう。


 それでも一応、時間と手間をかければある程度詳細な情報も割り出し可能だが…、そこまで解析するには可成りの試行回数が必要となる。感覚としては『特定の場所に何度も現れる相手に対してなら使える』くらいの代物だ。


「構うことは無い! 繰り返し波状攻撃をかけてビルドを解析するんだ!!」

「いくら貰ったか知らないが…、この無駄な手間を別の事に使った方が、絶対に有意義だと思うぞ?」

「よっと! せめて、スキルを使わせるくらいは頑張ってくれないとにゃ~」


 結局のところ、雇った本人もコイツラが俺たちのビルドを完全に露にしてくれるとは思っていないだろう。解析はついでや建て前で、真の目的は単純な嫌がらせ。何の益もないザコの相手で貴重な時間を浪費させる。


 こんな回りくどい手を使って嫌がらせをしてくる組織は…、俺の知る限り1つだ。


「悪いが俺も、そこまで暇じゃない。やる気がないなら、これで失礼させてもらうぞ」

「ちょ、待て!」


 相変わらずのワンパターンな攻撃で必死に足止めしようとして来るが…、間合いを警戒しすぎて遠くからチクチクやっているだけでは、俺たちは一生止められない。


 まぁ、だからと言って彼らには正面から踏み込んで戦う実力は…、ないのだが。


「くそっ! 無視すんな!!」

「天下のセインさまが、初心者相手に逃げるのかよ!?」

「PK歓迎はウソだってか?」


 必死に煽ってくるが、今さらこの程度の煽りでは怒る気にはなれない。むしろ、健気に頑張る姿に哀れみを覚えるくらいだ。


「「 ………。」」

「まぁ、いいだろう。あまり気のりはしないが、その意気込みに免じて相手をしてやる」

「あぁ~あ、せっかく見逃してもらえる雰囲気だったのににゃ~」

「それじゃあ…、行くぞ!!」

「「ッ!? …??」」


 突進する俺に身構える面々だが、その衝撃はアッサリ横をすり抜けていく。


「おい! 何呆けてる! 狙いはコッチだ!!」

「「しま!!」」


 前衛をすり抜け、放たれた矢も当然のように躱し、まずは1人。


「そもそもさ…」

「「??」」

「なんで高レベルの短剣使いに、速度勝負で勝てると思ったの?」

「「あっ…」」


 彼らも一対一の速度勝負で勝機が無い事は理解していただろう。しかし、全員で代わる代わる攻撃すればどうか? 足りないSPを人数で、攻撃の隙は波状攻撃で補えばイケるのでは? と考えた。


 しかし、支援攻撃に専念する後衛に逃げる足は無く、(居たとしても意味は無いが)守ってくれるタンク役もいない。


「にしし、昔のアニメでよく見た、高速で周りをグルグルする戦法みたいで、ちょっとは楽しめたのにゃ」

「「しま!?」」


 ニャン子もニャン子で、ちゃっかり魔法使いをとりに行っていた。


 あと、余談だが…、ニャン子の魔法防御は見た目に反して結構高い。パッと見は純粋な物理特化の拳闘士だが、奥の手の<闘気拳>(#145話参照)を習得する関係で、こっそり魔法関係のスキルやステータスも上げていたりする。




 この後は、陣形が崩壊して戦意喪失した相手を一方的にキルして…、案の定、つまらない幕引きとなった。

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