#354(8週目火曜日・夜・ナツキ)

「SKお姉ちゃん、来ないね…」

「はぁ~、仕方ない。とりあえずレベル上げに行きましょっか」

「うん」


 夜、いつもと…、違い、SK不在で狩りに出かける。


「こうなることは分かっていたはずなのに…。流石のSKも、こたえたみたいね」

「 ………。」


 不安そうな表情を浮かべるコノハ。


 金策勝負でSKが負けるのは本人も充分承知していた事であり、結果発表までは『まぁ、お叱りは甘んじてうけるさ』と軽く笑い飛ばしていた。スバルさんもよく言っているように、セインさんは『優しいけど甘くは無い』。叱る時は確り叱ってくれる人なので、怒られることは全員が予想していたことなのだが…、蓋をあければご覧の通りだ。


 いや、ご覧も何も来ていないのだから状況は確認できないのだけど…、そのへん、本人も予想以上にクルものがあったのだろう。もしかしたら心の何処かで『信念を突き通したことを褒めてくれるのでは?』と言う考えもあったのかもしれない。


「まぁ、そのうちヒョッコリ戻ってくるでしょ? SKはそんなヤワな女じゃないわ」

「あ、うん、そうだね…」


 表情が晴れる気配のないコノハに対して、楽観的なフォローをする。まぁ、半分は自分に向けての言葉でもあるけど、そこは『頼れるお姉ちゃん』として不安な表情は見せられない。





「はっ~ぁ。アンタたち、狙われてるって自覚あるの? のんきに普段通りの狩場に来て…」

「はぁ~ぃ、皆さん元気~ぃ」

「「 ………。」」


 レベル上げを開始してほどなく、赤と黄色の道化師が現れた。


「なによそのつまらないリアクション。すこしは驚くとか、身構えるとかしなさいよね? わかってる? 私たち、敵なのよ??」

「ここで、やるつもりなの?」

「「 ………。」」


 ピエロふざけた格好でもお構いなしに、一瞬で空気が張り詰める。


 鬼畜道化師とは元より敵対関係だが、例の商人の件で決闘を控えており、一触即発の状態。相手は悪徳ギルドということもあり、決闘前にPKでペナルティーを課そうとするのは充分考えられる手だ。


「まっ! 今回はやらないけどね~」


 オーバーな身振りをまじえ、Hiが構えをとく。


「でも、それなりに人のいる狩場とは言え、2人だけでは不用心よ。WSで賞金をかけられてるの、知っているでしょ~」

「そう、らしいわね」


 ぶっちゃけ忘れていたが、どうもそうらしい。


 昨日、スバルさんがPKにあったのもそうだが、決闘を控えて、以前商人と戦った時のメンバー4人は、現在WSサイトで賞金首に指定されている。


 しかし、2人の口ぶりから察するに、WSと鬼畜道化師は無関係のようだ。まぁ、鵜呑みにも出来ないが…、多分、賞金をかけているのは道化師ではなく、商人の方なのだろう。


「えっと、それで何かようですか?」

「ふん! 別に用事なんて無いわよ!!」

「「??」」


 Hiの機嫌がいつにもまして悪い。


 まぁ、決闘の日取りなどで揉めているそうなので、そのあたりが原因なのだろう。私としては、早く終わらせてほしい限りなのだが…。


「えっと…、それじゃあ、私たちは狩りを続けるから…」

「ちょ! 待ちなさいよ!!」

「はぁ…」


 用件は無いと言っておきながら呼び止めるHiと、それを笑顔で見守るLu。どうでもいいが、雰囲気がLuお母さんHi思春期の少年見たいで、ちょっと面白い。


「えっと、その…」

「ふふふ、良かったら、少しお話しない? 悪いようにはしないから」

「「 ………。」」


 どうにも対応に困るところだが、向こうに戦意が無いのは確かなようだ。ここは早く終わらせるためにも、話くらいは聞いてみるか…。


「その、用件があるなら、手短にお願いします」

「そんなに構えなくても大丈夫だから。それに私たち、もう対戦相手じゃなのよね~」

「えっ?」

「外されたのよ。ぶっちゃけ、道化師のメンバーが採用されるかも怪しい感じね」

「「あぁ…」」


 決闘のメンバーで揉めていたのは知っていたが、どうやら正式にHiたちはメンバーから外されたようだ。しかも、幹部が残るかも怪しいほど大きくメンバーが入れ替わる。WSもそうだが、代理戦争と言うべきか、どうにも当事者を差し置いてバックが躍起やっきになっている印象がぬぐえない。


「でも、なんでそれを…」

「そうよね、メンバーが強力になるなら内緒にしていた方が、得じゃない」

「それはまぁ…、もう! そっちは今はどうでもいいのよ!」

「「??」」

「えっと…、とにかく! 今はアンタたちの方が確りしなさい! もし勝手に負けたら、承知しないんだから!!」

「も~、ヒィちゃんたら、不器用さんなんだからっ」

「うっさい!」

「「????」」


 結局、それだけ言い残して去っていく2人。


 なんだろ? 少年漫画でありがちな『ライバルが他の強敵に負けないようエールを送りにくる』パターンだろうか? それにしたって私たちの状況を気にかけていたことが引っかかるが…。




 とりあえず、少し気分が晴れたので…、その後は意外なほど狩りに集中できていた。

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