#353(8週目火曜日・午後・セイン2)

「は~ぃ。みんな集まったので結果を発表しま~す」

「にしし、参加者は兄ちゃんも含めて5名。はたしてどうなったのかにゃ~」


 夕方、ギルドホームにぎこちない拍手がこだまする。


 用件はもちろん、俺との勝負の結果発表だ。1日の間に、単品の平均取引価格(大手相場情報サイト基準)で俺を超えるアイテムを用意したものが"勝ち"となり、俺に御願い事を頼む権利を得る。


「あ、結局ニャンコロさんたちは、参加しなかったんですね」

「にゃんにゃん。アチシは仕切っている方が楽しいのにゃ~」

「私は、動画もあるしって感じね。まぁ、参加したところで勝てる気はしないしね」


 挑戦者はナツキ、コノハ、SK、スバルとなり、ニャン子やアイは参加していない。まぁ、アイは途中まで参加していたが、俺のドロップを見て辞退したようだ。


「茶番はいいから、サッサと発表してくれ。でないと、結果発表の前に飽きて出て行くからな」

「ちょ、お兄ちゃんが帰っちゃったら、景品が無くなっちゃうじゃない!」

「そうだな」

「そうだなって…」


 俺の性格を知っている面々が、そろって苦い笑みを浮かべる。


 別に、好かれたくてやっているわけではないので、お友達ごっこには一切付き合うつもりは無い。そして、それは今更言うまでも無いので、皆理解している所だろう。


「んだば、最下位から順に、発表していきます!」

「どぅるるるるるるる~(ドラムロールのつもり)にゃん!」

「はい、残念ながら最下位はSKちゃん。記録は、属性石の10kです」

「ははは、全然ダメだったぜ」


 冷めた空気と共に、SKが頭をかく。


 レアアイテムを拾えなかったのは理解できるが…、手持ちのアイテムでもOKで、あえて勝ち目のないアイテムを出してくるのは、SKらしいというか、なんというか…。


「お兄ちゃん、何か一言!」

「ん? あぁ…。SKへのコメントは最後で」

「え? まぁいいけど…。それじゃあ、時間も押しているので、4位の発表です!」

「トゥルルルルルル~。にゃん!」

「はい、第四位は、コノハちゃんでした。記録は"魔術師の"レイピアで1Mです!」

「「おぉ…」」


 流石に手持ちのアイテムが"アリ"だと、大台の1Mにのるのも早い。


 一応L&Cでは、一つの区切りとして1Mが高額アイテムの基準値になっている。よって、ドロップ率とは別に、市場(商人目線)では1Mを超えるかをレアの基準として考える。


 次回はその辺を考慮して、エンチャントや作成後のアイテムは"不可"にしておく方がいいだろう。まぁ、やる気になるかは別として…。


「お兄ちゃん、コメントをお願いします」

「どう見ても手持ちのアイテムだろ? 釣果なしボウズでは、コメントもやれないな」

「ハハハ、しょうがないね」


 理解できた反応だったのか、苦い表情を浮かべて受け入れるコノハ。


「さて! 続きまして~。3位の発表です」

「ブルルルルルル~。にゃん!」

「3位は、スバル君! 記録は、PKを返り討ちにして手に入れた、"神速の"ブローチで、なんと3Mです!」

「「おぉ~~」」


 流石はスバルだ。このクラスの装備を持っているということは、ランカーか、それに近い実力の相手だったことになる。しかもPKなら、ソロで挑んでくることは無いだろうから…、準ランカーPTを1人で倒したことになる。


「はい、お兄ちゃん、コメントをどうぞ。これは文句なしでしょ?」

「そうだな。まぁ、金策とは違うだろうが…、棚ボタも立派な成果だ。今回は、充分褒めていいだろう」

「「おぉ~~~」」

「うぅ~。なんだかクスぐったいです」


 一応、喜んでこそいるが、スバルの表情にはどことなく"物足りなさ"を感じる。


 まぁ、それも仕方ない。本来なら充分、勝利確定ラインだ。これで負けたのは、むしろ運が悪いと言っていい。実際、俺が出す予定だったアイテムは、アレを拾うまでは2M止まりだったのだから。


「はい! それじゃあ1位と2位は同時に発表します!!」

「じょろろろろろろろ~。にゃん!!」

「1位はなんと…、ナツキちゃんです!!」

「「おぉぉ~~」」

「お兄ちゃんの記録は、古代の通貨で、3Mと40kでした!」

「ハハ、流石はアニキだな」

「ですね。流石はご主人様です」


 どこか満足げな表情を浮かべるSKとスバル。


 スバルに関しては、僅差だったので悔しがっていいと思うのだが…、あれで本人も、PKからの棚ボタに納得していない部分があったのだろう。


「それじゃあ改めまして、1位はナツキちゃんで、なんとグリードアックスの10Mでした! みなさん、拍手~」

「「おぉぉ~~」」


 流石に10Mクラスは文句なしだろう。ナツキの実力で、このクラスを用意するのは本来不可能。なにか裏があるのは明白だが…、そんなものは、実にどうでもいい。


 今回の勝負は手段を限定してはいない。『商人からレンタル料を払って借りた』でも『PKを返り討ちにしたら拾った』でも何でもいい。金策の趣旨には反するが、それでも10Mクラスのアイテムを"用意した"成果は、それらを霞ませるには充分すぎる。


「これは文句なしの完敗だな。よくやったなナツキ。最近は腕も着実に伸びているし、それらをひっくるめて、改めて賞賛を送ろう」


 納得の拍手がこだまする。


 俺も今回は運に恵まれたが、10Mクラスなら、むしろ負けて良かったと思えるくらいだ。もし、これで勝っていたら完全に変な空気になり、次回も無くなっていた事だろう。


 あと、関係ないが…、照れて下がった頭が、ちょうど良いところにあったので、思わず撫でてしまった。




「あぁ、忘れるところだった。お兄ちゃん、SKちゃんへのコメントもお願いね」

「あぁ、そうだったな」

「おっ。アタシのダメだしか。アニキ、ズバッと言ってくれ!」


 熱気も落ち着き、後回しにしていたSKのコメントが再度要求される。


「折角だから、ついでに纏めるけど…、今回の金策対決は期間が短すぎて運頼み、それこそ成果が上がらない事も充分に想定できた」

「「 ………。」」

「そんな中で充分すぎる成果をあげたナツキは、過程や手段が何だったにしろ…、俺からは称賛以外の言葉は無い」

「えっと、その、ありがとうございます」


「逆に成果が上げられなかったのはコノハだが、コノハらしいというか、しっかりやれることをやった判断は、良かったと思う」

「ははは、私、何もしてないけどね」


「そして、ある意味では同じく金策に失敗したスバルだが、運よくPKに襲われ、それを返り討ちにして成果をあげた。棚ボタに納得できないスバルの心情も理解できるが、そういった場所を巡回していた事や、返り討ちにした実力は紛れもなくスバルの選択であり、完全な偶然の産物ではないのも事実。これも俺は充分、称賛したいと思う」

「うぅ、ありがとうございます!」

「そんな中で、SKは…」

「「 ………。」」


 皆の注目が再度集束する。今回の結果は全員が綺麗にバラけ、ある意味『らしい』結果を残す形になった。


「まぁ、なんだ。期待外れの一言だな」

「えぇ…」

「成果もそうだが、努力、機転、課題の読解力。全てにおいてフォローのしようがない。俺が厚意で企画したサプライズ企画をただの自己満足の場に使っ…。いや、まぁなんだ。これにて御開きって事で」


 言いかけた言葉を飲み込み、強引に話を終わらせる。


 言いたいことは色々あるが…、今この場で言っても闇雲にSKを傷つけるだけ。失敗を糧にするか、開き直るかはSKの問題。


 なにより今SKに、本当に必要なのは『自分と向き合う覚悟と時間』だ。それは他人が説明して理解する事もあるだろうが、自分で考えて出した結論とでは、同じ"答え"であっても意味や価値はまるで違う。それとなくナツキ"たち"にフォローを頼む必要はあるが…、少なくとも、今俺がSKに優しくするのは間違えだ。


 と、俺は思う。




 こうして、金策勝負は…、気まずい雰囲気に包まれながら終わりを迎えた。

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