#332(7週目土曜日・午後・セイン)

「それで、今日はレベル上げに専念する感じでいいのかにゃ?」

「ん~、レベル上げは、まぁいいんだが…」

「なんなのにゃ? 兄ちゃんにしては歯切れが悪いのにゃ」


 昼、取りあえずニャン子と合流したものの、思うところがあって今日はノープラン。スバルやSKたちも狩りに出かけてしまったので、本格的にやる事が思い浮かばない。


「いや、まぁなんだ。転生のタイミングで悩んでいてな」

「あぁ~。今、PK多いからにゃ~」


 素人のPKが怖いというわけでもないが…、その気になれば来週中にでも転生条件が満たされる。本来なら最速で転生するべきなのだが、PKやイベントを控えて、セオリー通りに動いていいものか悩んでいる。


「なんでも昨日、グリードアックスをPKにパクられたバカがいたらしいぞ?」

「うえ~、売れば10Mはするんじゃないのかにゃ?」

「それくらいか? まぁ、そもそも市場に流すことはしないだろうから、完全に言い値の世界だけどな」

「うぃうぃ。この手のレアは交換に限るのにゃ」


 そういって、手に装備した猫パンチをワキワキするニャン子。流石に別物だと思われるが…、俺は以前ドロップしたグリードアックスを勇者同盟と交換している。そう、交換したのは猫パンチこと[ビーストグローブ](のメイン素材)だ。


「いっそ、人族でワンクッション置くかにゃ?」

「冗談、それこそ2ヶ月のロスじゃないか」


 現在、アップデートの影響でPKやNPC狩りが流行っている。ある程度スキルを引き継げると言っても、ステータスの初期化は痛いし…、なにより、称号などの条件を満たす目的で狩りをする連中には低レベルのPCは"カモ"でしかない。


 そう、カモだ。なにがカモって、C√で転生すると言うことは、プレイヤーが操作する亜人や人外種族のアバターが出現すると言うこと。L√なら同じ人族なので大人しく初心者に混じって安全なフィールドで最低限のレベル上げをすれば済む話だが…、C√だとアバターの種族で先行している有力プレイヤーだとバレてしまう。判別しやすい上に、狩りやすく、おまけにランカー候補にペナルティーをつけられる。1度そんな情報が流れたら、足を引っ張るしか能のないランカー予備軍どもに永遠と邪魔され続ける未来が確定するだろう。


「にしし~」

「他人事だと思って…」


 楽観的に構えるニャン子。


 もちろん、転生なら初期スポーンする街を変更できるので、魔人陣営の街からスタートすれば、しばらくは安全にレベルを上げられる。しかし、魔人の領地でも最近は時おり予備軍どもを見かける機会が増えた。もし、チラリとでも見つかれば、その日のうちに掲示板に晒され、永遠コース確定だ。上手くやれば確立は抑えられるだろうが、それでも失敗は許されないので、とても楽観視は出来ない。


「でも、その気になれば守ってくれる妹"たち"もいるし、心配する事ないんじゃないかにゃ?」

「まぁ、そうなんだけどな」


 そう、俺に限らず、転生直後の弱体化は仲間に守ってもらって乗り切るのが基本だ。特に今は、アイがインできない平日昼間をカバーできるスバルの存在もある。もちろん、裏切りのリスクはあるが…、流石にスバルたちが裏切るのは考えにくい。


「やっぱり、例のイベントが気になるのかにゃ?」

「まぁな」


 もちろん、BLやアプデは事前に予測していたわけで、俺も当初はイベントを無視して転生するつもりだった。しかし、未知のイベントに好奇心が刺激されたのは紛れもない事実。


 まぁ、L&Cのセオリーを考えると例のイベントは単発で『魔人の試験のクリア報酬』みたいな扱いになっているのだろう。よって『クリアすると更なるイベントが解放されて特殊√に入る』なんてことは無いはずだ。そういう部分はMMORPG的というか、基本的には『途中参加したプレイヤーでは参加条件を満たせない長編イベントは存在しない』ことになっている。(桃姫帰国イベントはオンリーイベントのため再現性が無い)


「ん~、アチシだったら参加するかにゃ~。なにか特別な報酬があるかもしれないし」

「報酬がアベンチャーやビーストグローブだったら、笑うけどな」

「にしし、ありそうで怖いのにゃ~」


 イベントの報酬として確率が高いのは『C値が大量に入手できる』で、運が良ければ『転生に役立つボーナスアイテムが入手できる』ってところだろう。あとは運が悪いと言っては何だが『メインストーリーの裏事情が判明する』や『追加効果のない称号(名誉称号)の入手』だけの可能性もある。


 逆にないのは『追加効果のある称号』や『転生後に発生する追加イベント』などだろう。


「まぁ、ここでウダウダ話していても仕方ない。とりあえず旧都の夜エリアでもいくか?」

「あいあ~ぃ」


 MMORPGで一番ダメなのは、水掛け論や皮算用ばかりで動かないパターンだ。なにも考えるなとは言わないが、それはインできない時間にでもすれば済む話。まずは剣を振り、生産活動をする。攻略とはそう言うものだ。


「ところで…」

「ん?」


 ともあれ、人は機械にはなれないので、移動途中などのちょっとした雑談は目をつむってほしい。


「いや、ニャン子は未知のイベントがまだ存在していると思うか?」

「ん~、新要素なら運営から告知がくるだろうし、無いと思うけど…」

「?」

「あるとしたら、やっぱりC√かにゃ? それも初期から存在していたイベントとか」


 ニャン子の言う通り、新規イベントや期間限定イベントは(詳しい内容は告知されないが)対応NPCの出現などが事前に告知される。それ以外にもNPCに会話が追加されるなどのヒントもあるので新規で見逃しが起こるのは考えにくい。


 もちろん、L√系イベントにも√偽装用の分岐シナリオがあるので細かい部分まで含めれば未発見のシナリオはあるかもしれない。しかし、√偽装は√値の問題でイベント進行に絶対的な限界がある。つまり、L√系イベントで未知のイベントが存在する可能性は『限りなくゼロに近い』と言えるだろう。


 逆にC√なら、そもそも『イベントに縛られなくても進められる』のが売りなので、初期から存在した(アナウンスがない)イベントなら見落としは充分考えられる。


「まぁ、それでも可能性としては低いだろうけど…」

「ゼロとは言えないのにゃ~」

「そうだな。例えば…、初期転生を補助する隠し要素とか」

「あぁ、それならありそうだにゃ~」




 そんな話をしながらも、今日も今日とて魔物を狩って狩って、狩りまくった。

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