#267(6週目水曜日・夜・ナツキ)
『お姉ちゃんたち、アイテムもMPも尽きちゃったから、もう、回復は期待しないでね』
『『了解』』
ここまでなのか…。いや、まだ終わっていない! たとえ勝てないとしても、最後まで足掻いてみせる。それが無駄な足掻きだとしても、そこで歩みを止めてしまえば、私自身の成長が止まってしまう。
一時は押し返したものの…、コチラが優位になるタイミングで奥の魔法使いが強力な周囲魔法で仲間もろとも吹き飛ばす。そして回復の隙に、前衛を丸ごと交換してフリダシに戻る。正直に言って、今まで魔法使いをバカにしていた。ほかのゲームならまだしも、L&Cには魔法使いは不要だと本気で思っていたが…、まさか集団戦闘において、ここまで魔法使いの存在が厄介だとは思わなかった。
『こんな事なら、もっと魔法対策を勉強しておくんだったね』
『クソ! せっかく目が慣れてきたってのに、私もMP切れだよ!』
横目で確認すれば、EDの3人は商人1人を守りながらギリギリのところで踏みとどまっている。アチラのPTには妨害魔法のできるメンバーはいないのに、それでもだ。
『一か八か、妨害魔法はカットしちゃう? それならMPも節約できると思うけど』
『それは…』
『やろうよ! お隣が出来て、私たちにできないなんて無いよね!』
『わかった! 負けるにしても全力は尽くさなくちゃね!』
コノハに言わせれば、L&Cの魔法の仕様は、本当に独特らしい。
①、味方はおろか自分自身にまでアタリ判定がある。種類にもよるが、爆発系やトラップ系は、至近距離で起爆させてしまうと術者自身にもダメージをおう。
②、魔法同士にも当たり判定がある。RPGだと定番の魔法の重ね掛けなどは不可で、周囲防御魔法を展開していると相手だけではなく自分たちの周囲魔法まで妨害してしまう。(ただし周囲妨害で単体魔法は完全には止めきれない)
③、発動場所に直接遠距離を指定できない。他のゲームだと、周囲魔法は射程内の任意の場所を指定して、そこから一定周囲に効果が及ぶのだが…、L&Cでは、あらかじめ条件指定して設置しておくか、爆弾のような爆発源を射出する必要がある。
これらの仕様により、下手に味方もろとも吹き飛ばそうとすれば、味方に当たって肝心の狙いに届かなかったり、射出直後に高速魔法を撃ちこまれ自爆する可能性まである。そのため、扱いが非常に難しく、例えるなら現代戦争における爆弾やミサイルのポジションに収まっている。
つまり、ハイリスクハイリターンなのだ。少人数で運用すればリスクの方が際立ってしまうが、多人数で正しく運用すれば圧倒的なアドバンテージが得られる。魔法使いは防御面が貧弱なため、実際にやってみると本当に(ヘイトが高くデスペナを貰いやすい)苦労するが、上手い人が使えば手が付けられなくなる。
「ネカマにしては根性あるよな。もう、勝ち目なんてないだろうに」
「おまえら、時間かけすぎだ! サッサと仕留めろ!」
「へいへい」
「仕方ない、そろそろ本気を出すか…」
マズい、幸いなことに相手は口先だけで、特別なにか変わったとは思えない。しかし、回復手段がつきている状況は、本当にどうにもならない。目の前の人たち"だけ"なら勝てるのに!
悔しさが私の体を駆け巡る。L&Cをはじめるまで、私がこんなに負けず嫌いだなんて知らなかった。いや、悔しい思いは今まで何度も体験してきた。私の人生、そんなのばっかりだ。しかし! ここは理不尽な現実に、抗う事が許された世界。抗っていいなら、抗うしかないじゃないか!
そうだ、こういう時はアレだ。上手い人ならどうやって切り抜けるかをイメージするんだ。そう、セインさんなら…。
………。
ダメだ、やっては見たが、レベルが高すぎて実現できそうにない。いきなりハードルが高すぎた。
「なっ! ふざけたマネを!?」
「マジかよ!?」
「ありえねぇ、卑怯すぎるだろ!?」
とつぜん狼狽えだす変な格好の人たち。
『なんか、様子が変じゃない?』
『何かあったみたいだね。なんだろ?』
『とにかくチャンスよ! コノハは少しでもMPを! SKも無理に攻めないでSPを全回復させて! 勝機があるとしたら、速攻で各個撃破するしかない!』
『『了解!』』
ダメもとでも、粘ってみるものである。例え自分たちに勝機が無かったとしても、チャンスはどこから生まれるか分からない。私たちは迂闊に飛び込むことなく、回復と陣形の立て直しにつとめ、貪欲に勝利につながる細い糸を手繰り寄せる!
「くそ! てめえら、何が目的だ!」
「え? いや、なにがって…」
あっ!
私はギリギリのところで、心当たりがあることを必死に隠す。そう、何かあるとしたら、あの人しかいない。あの人が来たなら、勝ったも同然。私たちの粘り勝ちだ!
「仕方ない、ここは一旦引くぞ!」
「いや! 折角ここまで追い詰めたのに!」
「そうだ! 今さら雑兵が増えたからって!」
「こんな手口を使う雑兵がいるか!? 俺は撤退する! いやなら勝手に時間稼ぎでもしていろ!」
リーダーの判断力の高さに驚かされる。仮面装備なのでBLでのID参照はできないが、やはりあの魔法使いはランカークラスの実力者なのだろう。
「ちょ! お前たち、勝負はまだ!」
「SK! 深追いはダメよ!」
「そんな! これからだってのに!!」
それから撤退する変な格好の人たちの背中を見送りながら、2人でSKを必死で抑える。
ほどなくして、珍しく派手な装備を着込んだ、あの人が現れた。
「生きていたか。即座に撤退するとは…、やはり…」
「アニキ!」
「ん?」
「なんで邪魔するんだ! 折角いいところだったのに!」
「ちょっとSK、抑えて。セインさんは助けてくれたんだよ?」
「そうだよ。私たちの目的は、商人さんたちを…」
「そんなことは!!」
ヒートアップしすぎて気持ちに整理がつかないSK。気持ちは分からなくもないが、だからって助けに来てくれたセインさんに当たるのは、お門違いだ。
「ぷっ。流石はSKだ。いや、悪かったな、邪魔しちゃったみたいで」
「そんな、セインさんが謝ることは! 第一私たち、セインさんが来なかったら絶対に負けていました!」
「だから…、ちゃんと負けたかったんだろ?」
「ふん!」
そっぽを向くSK。
「やはりSKは、根っからのC√プレイヤーだな。お前はそれでいい。そのちょうしで頑張れ」
「「!!?」」
そういってSKの頭をポンポンと撫でるセインさん。
しまった!? 間違っていたのは私の方だ。最後の最後で、助かったことに気が緩んでしまった。最後まで諦めないと誓ったのに、最後の最後で…、
私は、自分の力で勝つことを、諦めてしまった。
その後のことは、正直よく覚えていない。こんなに酷い自己嫌悪はいつぶりだろう? それくらい、私は落ち込んだ。
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