#266(6週目水曜日・夜・セイン2)

「あぁ、ヤバいよヤバいよ、どうしよう!?」

「どうするもこうするも、戦うしかないだろ?」

「いや、だって俺が出て行ったって…、て! なんでセインさんがココに!?」


 旧都近隣のセーフティーエリア。そこには何もできずに狼狽えるレイの姿があった。


「ちょっと装備をとりにな」

「いや、それどころじゃないんです! 買い取り商人の人たちが、鬼畜道化師に襲われているんです!!」

「そうらしいな」


 レイの話を聞き流しながらNPCに話しかけて装備を整える。


「いや、だから今も大変なんですって! 今、心当たりに声をかけているんですけど、なかなか対人戦の得意な人がつかまらなくて!」

「ハンパな実力のPCを集めても邪魔になるだけだぞ? それよりも無関係なPCを退避させたりしたらいいんじゃないか?」

「いや、野次馬なんて!?」

「野次馬をバカにするのは良くないぞ?」


 そう、真面目な話、上位プレイヤーになればなるほど一見無害なギャラリーを嫌う。クレナイもそうだったが、元勇者であっても「ギャラリーは無条件でPKの仲間と断定する」と宣言するくらいだ。


「とにかく! セインさんもすぐに応援に行ってください! セインさんなら、普段の装備でも全員倒せちゃうんでしょ!?」

「買い被り過ぎだ。俺だって適当な装備では敵わない相手はいるぞ?(スバルとか)」

「いや、まぁそうでしょうけど…、って! なんですかその格好は!?」


 アイテムの整理も終わって、俺の装備に驚くレイ。俺もそこまで無鉄砲ではないので、護衛付き商人を襲うような計画犯に無策で挑んだりはしない。わざわざココ(倉庫)に来たのは…。


「なにって、[道化師の仮面]だけど? どうだ、それっぽいだろ?」


 装備はピエロ風の仮面と、奇抜な色の各種防具。アイに頼んでギルド経由で用意してもらった。


「いや、そんな恰好じゃ、まるで鬼畜道化師の連中みたいじゃないですか!?」

「そうか、そう見えるならOKだな」

「え? もしかして相手に成りすましてキルするつもりですか? でも、そんなのアイコンを見れば1発でバレちゃいますよ!?」


 L&Cの仕様では、無関係なPCの名前などは常時非表示だが、フレンドやPTメンバーなどなら様々なところに表示が出る。まったく同じデザインのアバターを用意したとしても、他人とフレンドを見間違えることは無い。


「それくらい知っている。そうじゃなくて、道化師の活動に、混ぜてもらうのさ」

「え? えぇ? えぇぇぇぇええ!!?」





「おい、あの女性PC、ほんとうにネカマかな?」

「どうだろ? 本当に女性だったら助けに入ってもいいけど」

「いや、お前じゃ勝てないだろ? 出オチになるだけだから」

「ぎょっ!」

「魚? それよりも…、え?」


 振り返ると、そこに会話をしていた相手の姿はなく、代わりに淡く光るクリスタルが落ちていた。L&Cを続けていれば、目にする機会の多いアイテムだが、その時ばかりはソレが何か…、キルされるまで思い出すことは叶わなかった。


「よっと。ダンジョン内だってのに、警戒が甘すぎだろ」


 俺は、あえてオープンで発言しながら、ゆっくりとした仕草で2人分のドロップ(クリスタル)を回収する。


「おい! PKだ! 道化師のヤツラ、ギャラリーまで襲いだしたぞ!?」

「ちょっ! マジかよ!?」

「なんでだよ! 祭りの商人が狙いじゃなかったのか!?」


 逃げ惑うPCを次々とキルしていく。武装しているとは言え、いまだに昼間エリアでダラダラ狩りをしている連中に、俺の仮面を割るだけの実力を有しているプレイヤーは存在しない。


「おい! テメー、何者だ!?」

「"俺たちの"成りすましか!?」


 早速発見。この手の襲撃は、ギャラリーにも仲間を潜ませておくのが定番だ。特に鬼畜道化師は赤や黄色を基調とした非常に目立つ格好をしているので、余計に変装には気づきにくくなる。


「なんのことだ? まぁいい、キルすることに変わりはない。俺たちは道化師。パフォーマンスには、見合った見物料が必要だろ?」


「くそ! って!?」

「な! つよ!?」


 訂正…、は必要なし。どうやら、控えにも俺の仮面を割るだけの実力を持つ者はいないようだ。割られたら割られたで、別のプランも考えていたが…、今回は面倒なかけ引き抜きでいくことにする。


 メイン会場の方を覗き見れば、何とか持ちこたえているようだ。これは良い実戦経験になっただろう。まぁ、それでも押されているので時間の問題かもしれないが、それはさして重要ではない。


 こういう時、物語の主人公ならカッコよく助けに入るものなんだろうが…、残念ながら俺にそういうのを期待してはいけない。(むしろSKあたりなら助けを嫌うと思うが)そして、そういう話のオチは、バックに控えていた伏兵に肝心なところを(瞬間移動で)持っていかれるまでが一連の流れになる。


 もちろんイベントは成功してほしいのだが、正直なところ「C√PCたるもの、自分のケツは自分で拭くべき」と思う気持ちも存在する。こうやってフォローをしている時点で俺も大概過保護だと思うが…、正々堂々戦って勝ち取るなら、それは勝ったほうが報酬(商人のドロップ)を持っていけばいい。むしろ「襲撃があったらボーナス報酬」くらいに思えなければダメだ。


 それに、L&Cはそういうところ、本当によくできている。調子にのって派手に初心者狩りをすれば、然るべき制裁を受ける。その制裁をはねのけるだけの実力があるなら許されるが、初心者を相手に足踏みをしているヤツに、その制裁をはねのけるのは不可能。むしろどんどんトップと差を広げられるだけ。




 そんなことを考えながら…、俺は悪役らしく、無差別にギャラリーを虐殺していった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る