#158(4週目水曜日・番外編・チヒロ)
「ほら、起きてください。起きないと、大変なことになっちゃいますよ~」
「ん~、あと5年…」
因みに5年は、5分の約51万倍に相当する。
それはさて置き、今日も今日とて、俺は
まぁ…、車イスの俺に頼む仕事か?って思う気持ちの方が強いけど。
「サクラさん。そろそろ起きないと、マジでヤバいですよ? あと、見えてますよ」
「ん~」
ダメだ。眠りの浅い時は「見えてますよ」と言うと起きてくれるのだが…、流石にそんな幸運は続かない。これで起きてくれるのは、本当に運がいい時だけだ。
因みにサクラさんは、パジャマは着るものの、下着はつけない派らしく、色々と浮き出ていてヤバい。特に夏場は完全にアウトな時もある。まぁ、そのへんは妹のを見慣れているので過剰に動揺しないで済むのは救いだろうか? ブラをつけずに寝ると型崩れすると聞いたことがあるので、普通はつけるものだと思っていたが…、どうやら実際にはノーブラ派が多数派閥であり、それが普通らしい。こういう生の知識は、やはり異性の兄妹がいないと分からないことだろう。
「起きてください、朝ですよ~(ゆさゆさ)」
「ん~、そこは触っちゃ、らめ~」
「ちょっと、人聞きの悪い寝言はやめてください!」
「ZZzz……」
どうやら平常道り、今日も簡単には起きてくれないようだ。本来なら力ずくで起せばすむ話なのだが…、体の不自由な俺には強引な起こし方は使えない。
因みに、全く関係のない話だが…、睡眠中は起床時と違って胸にかかる重力の方向が違うので普通のブラはよくないらしい。世にはナイトブラなんて言う全方向の力に対応したブラもあるそうだが、結局大きい人は胸の重量がどこかにかかるわけで、どうしても窮屈になって寝にくいらしい。そもそも、いくら形が崩れると言ってもブラで昼夜を問わず圧迫し続けていいのか?って問題がある。そんなわけで…、アイは頑なに隠さずに寝る。俺の部屋でも…。
「仕方ない。やっちゃいますよ~(プシュ、プシュ)」
「ん"~、顔にだすのは、やめで…」
「だから言い方!」
「ZZzz……」
次の作戦は霧吹き攻撃。冷やした水を顔に噴きつけると、温度差や感触もあって覚醒しやすくなる。問題は、パジャマが非常に薄手なので、かかると透けて見えてしまう点だ。運が悪いと、起きた後に非常に気まずい雰囲気になる。
それはさて置き、今日も霧吹き攻撃は失敗だったようだ。いつもならこれで3割は起きてくれるのだが…。
「これならどうです?(ブーーン)」
「う"~、千尋くんの熱いのが~」
「本当に寝てます?」
「ZZzz……」
次の作戦はドライヤー攻撃。温風を吹きかけることにより体温上昇と風による刺激て相手を起こす。しかし、こいつには欠点があって、相手が体を丸めて逃げてしまうと効果が薄くなる。
掛け布団をかぶって体を丸めるサクラさん。こうなると体の不自由な俺には対処が難しい。まぁ、そのせいでお尻が丸出しになってしまっているが…、それは見なかったことにする。結局、この作戦の成功率は1割に満たない。やるだけ時間の無駄だ。
しかし、ここからが本番。ここからは良い子はマネしちゃいけない技へと移行する!
*
「うぅ~、寝たりないよ~」
「眠いなら早く寝るなりしてください。いつまでも俺が起こしてあげられるわけでも無いんですよ?」
「別に、一生、私の面倒を見てもいいのだよ?(何かのモノマネ)」
「ん~、それだと2人で遅刻したくなりそうなので遠慮します(分からなかったのでスルーした)」
「?? まぁ、大丈夫。それまでには生涯賃金を稼いで惰性で生活できるようにするから! それまでは、おねがいしま~す」
すごいダメそうな人生設計だが、サクラさんはこれでも研究者としては一流であり、頭もいい。現在の貯金がどれくらいあるかは知らないが…、無駄遣いもしないので、すでに相当貯め込んでいるだろう。案外、誰よりも人生設計を考えている…、のかもしれない。
そんなことを話しながら、サクラさんと職場である研究棟に向かう。俺たちの職場は研究施設と言う事もあってセキュリティーは確りしている。タイムカード的な物はないので、出社は警備員にIDカードを見せて、ゲートで静脈認証を済ませれば出社完了。あとはそれぞれの業務をこなすだけだ。
「それじゃあ自分は」
「がんばってね~」
そして、入ったそばから退館する。無駄な行為だが、俺も一応会社員なのでコンピューター上に出社データを残す必要がある。このあとはリハビリをしたり各種検査をして過ごすこととなる。
「すみません。向井さん、局長から伝言が」
そうこうしていると、警備の人に呼び止められた。俺はサクラさんのチームに所属してはいるものの、午前中は別行動が多い。朝イチの連絡はこのような形になることもしばしばだ。
「はい…、はい…。わかりました」
警備室の内線を借りて局長に連絡をとる。連絡方法はメールだったり、直接会って話す事もあるが、局長の場合はその時々で結構違う。今回は正式な辞令がくだる前の事前通知だったので、形の残らない電話を選んだようだ。
「お疲れさまです。リハビリ、頑張ってください」
「あ、どうも。…えっと、警備の仕事も大変ですね」
「いや、非常時以外はラクな仕事ですから」
「それでは…」
監視の人は俺の名前や役職を知っており親しく話しかけてくるが、こっちは毎朝見かけるだけの存在であり、話しかけられても何を話していいか分からない。悪い人ではないのだろうが…、正直に言って苦手なタイプだ。
それはさて置き、局長の話はかねてから合ったプロモーションの話だった。
俺は障害者であり、ココに勤めているのは"障害者雇用制度"の枠を使って入社した。これは、雇用人数に合わせて障害者も雇わなければいけないと言うもので…、言い方は悪いが、仕方なく雇ってもらっている立場だったりする。もちろん、雇われている理由は他にもある。なにより重要なのはチームの研究テーマだ。我々の研究課題は「VRを用いたリハビリの効率向上」。そう、俺はその研究の被験者でもあるのだ。午前中は普通のリハビリや検査。午後は研究用のVR機からダイブしてデータを集める。あとは、必要に応じて研究作業にも協力するし、会議に出たり、普通に雑用をこなす事もある。
一昔前の現代ファンタジーでは、実は主人公やヒロインは植物状態で、VR空間のみで話ができる…、みたいな話が流行ったが、俺の場合は脊椎損傷の状態から普通に回復してしまった。医療機関の補助なしで生活できるレベルまで回復するには、まだ数年かかるし、完全完治して自由に歩けるようになる保証も無い。そもそも、ぽっかり
しかし、ただの被験者ではなく、会社に勤務した経験があるのは大きい。イメージ的には、二軍のプロ選手と企業に所属している社会人選手の違いだろうか? もしそのスポーツを続けられなくなった時、前者はフリーターと大差ない扱いになってしまう。
そんな事を考えながら、今日も俺はリハビリに励む。
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