#119(17日目・夜・セイン)

「あ、セインさん、突然ムリ言っちゃって、すみません」

「いや、かまわないが…、その娘は?」

「どうも、"コノハ"です」


 夜。俺はいつもの狩りを1人早めに切り上げ…、レイに会いに来た。本来ならばわざわざ狩りを切り上げてまで会うほどの相手ではないのだが…、内容が気になったので早めに会う事にした。


「それでですね、コノハちゃん、今日L&Cをはじめたばかりなんですよ~。それで、王都で右往左往していたところを…」

「ナンパしたわけか」

「わぁーわぁー、人聞きの悪い事を言わないでくださいよ!? 俺は純粋に…。…。」


 コミュ障のキモオタでも女の子と知り合える! そう、MMOならね!!


 新規スタートしたPCは服装をみれば直ぐにソレと判別できる。知り合いがいるPCやリセットした非初心者である場合もあるが…、とりあえず手助けをするフリをして声をかけ、あわよくば仲良くなってフレンドやPTに加えてしまう。そういう下心をもって女性PCに声をかける男性PCは、本当に多い。


「あぁ~、わかったわかった。俺はそういうの興味ないから。トラブルだけ気をつけてくれれば、それでいい」

「いや、さすがセインさん! 話がわかる!!」


 やっぱりナンパじゃねぇか!


「あの、セインさん?ってかなりお強いって聞いたんですけど…、その、よかったら、お話とか、できればちょっと指導してもらえたら…」

「そうなんですよ! セインさん、パパっと! アドバイスとかくださいよ!!」


 だんだん話が読めてきた。レイはL&Cをコミュニケーションツールとしてプレイしている。日がな一日、あちこちをフラフラして、いろいろな人と話をして回っている。まったく初期レベル初期装備ってことはないだろうが、人に教えられるほどのものはない。


 とりあえずナンパに成功して、一通りの基本操作を教えたところで「上手い(強い)人を紹介してあげる」って流れになり…、恋愛否定派の俺に白羽の矢を立てたのだろう。


 見れば、コノハから見えない位置で必死にレイが俺を拝んでいる。手を貸すかどうかは別として…、とりあえず「あぁはなりたくない」と思った。


「あのなぁ、俺は重要な話があるって聞いて…」

「そこをなんとか! あ、あと、重要な話があるのは本当ですよ? だから、さっそく帰ろうとするのはやめてください」

「おかまいなく」

「おかまいます!」

「ぷっ。セインさんって面白い人ですね」

「いや、今のは流れで…、まぁいい。話ついでに少しだけなら付き合ってやる。さっさと行くぞ!」

「え? いいんですか!?」

「 ………。」

「わわっ、まってくださ~い」


 本来ならこういうのには付き合わないのだが…、今回はレイの情報を地味に期待していたりする。とは言ってもガッツクわけにもいかないので、コノハはいい口実になったといえば、なった気が、しなくもない。




 とりあえず、高耐久のトレントがいるエリアに連れ出し、しばらく好きに戦わせて動きを確認しながら…、本題であるレイの話を聞く。


「とうとう、"自警団狩り"がはじまりました。彼らは、わざと仮面を装備して検問に行き、自警団に仮面を破壊させます。あとは待機していたPTメンバーと一緒に団員を取り囲み、キルします。先にしかけたのは自警団ですから指名手配の心配はありません。これで堂々と団員をキルできます」

「連中にしてみれば、安全確実な初心者狩りだからな。すぐに流行るだろう」

「でしょうね。それに、わざとらしく仕掛けを解説していました。さっき調べたら、さっそく撮影した動画が上がっていました。早ければ明日にはもう…、検問は機能しなくなるかも」


 細部はともかく、基本的な流れは予想通り。俺の演技がなかったとしても、こうなることは時間の問題だっただろう。


「だろうな。それに、仮面を破壊しなければいいと言う問題でもない。検問…、進路妨害も立派な違反行為だ。攻撃されなかったとしても、つぎは違反行為として強制排除してしまえばいい」

「ですよね…。自警団の活動は、ハッキリ言って規約違反です。それでも機能していたのは、ほかのPCが活動を理解して従ってくれていたからです。でも、通報されては…」


 レイ自身は検問にはほとんど参加していないらしい。レイも一応は団員なのだが、ポジション的には"下っ端団員の纏め役"であり、勧誘などが主な仕事となる。


 レイの人柄には全く興味は無いが…、せっかくまとまった組織が2週間程度で崩壊しようとしている現状を純粋に憂いでいる1人だ。見た目こそチャライだけで何のとりえもないPCだが…、人とのつながりは誰よりも強く求めている、そう言うヤツ…、なのかもしれない。


「あの~、まだ続けた方がいいですか?」

「あぁ、もういい。戻ってきてくれ」


 結局1人でトレントを倒してしまったコノハ。とりわけ上手いとは思えないが…、少なくともレイよりは見込みがあるだろう。


「その…、どうでしたか?」

「まぁ、"普通"だな」

「うっ」

「ちょ、セインさん!」

「ここで下手にウソをついても本人のためにはならないだろ? それより、なりたい職業とか、使いたい武器とかはあるのか?」

「えっと、それは…。…。」


 とりあえず、普通にアドバイスはしておく。


 コノハは、典型的な器用貧乏だ。要領は確かにいいと思う。実際、はじめて間もない状態で、トレントを倒せたのは凄い事だ。しかし、それだけ。勇猛果敢に攻めようとする荒々しさもなければ、攻撃を受け流したり紙一重で回避しようとする挑戦心もない。単純に距離をとって相手を観察して、スキを見てちょっと攻撃して、すぐに逃げる。それをくり返していただけだ。


「まぁ向いているのは商人くらいだな。根本的に戦いに向いていないから。資金的なサポートをメインに。あと、戦闘スタイルは弓とか槍でいいんじゃないか?」

「え? お言葉ですけど、俺は僧侶とか魔法使い系が向いていると思うんですけど…」


 すかさず自分の意見を挟んでくるレイ。レイの場合は、自分とデートペアPTを組むのに適したオススメのように思える。


「やりたいなら止めないが…、彼女の動きを見る限り、戦うこと自体に"興味"が感じられない」

「え?」


 すっとんきょうな顔をするコノハ。しかし俺の評価は変わらない。彼女には根本的に、まともにやり合おうとする気概がない。そう、"戦うこと"を目的にL&Cをはじめた者の動きではない。


「とりあえず、適当にあいそうな武器を持ってくるから、それを順番に試してみてくれ」

「あ、はい…」


 とりあえず適当な武器を見繕い、また好きにやらせておく。俺の目的は女性PCではない。コノハの扱いは、このくらいで充分だ。




「それで自警団ギルドは、まだ何も発表していないのか?」

「え、あ、はい。たぶん発表は、早くても深夜、まぁ俺は明日くらいになると思っています」

「そうなると、"明日の可能性が高い"な…」

「え? あぁ、たしかにギルドは腰が重いですからね」




 その後も、コノハの奮闘を傍観しながら、自警団の状況を確認して、その日はログアウトした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る