#068(10日目・午後・セイン)

「あら、いらっしゃ~い。飲み物は何にする?」

「えっと…、お客様、コチラの席へどうぞ」

「 …お前たち、なにやってるんだ?」


 昼になりギルドに顔を出すと…、そこでは何故かユンユンとスバルがバーテンゴッコをしていた。


 ちなみに見た目こそ酒場な我がギルドだが、お酒は一切とり扱っていない。そもそも現代の技術をもってしてもVR空間でお酒を再現するにはいたっていない。仮に再現可能だとしても、脳に幻覚作用をもたらす機能など国の認可が下りるわけがない。そもそも食事を食べていないのに食べたと錯覚させるような機能自体、国際的に禁止されているくらいだ。


「も~、お兄ちゃんノリがわる~い。せっかくのお祝いなんだから、パ~っといきましょ~!」

「えっと、ユンユンさんの動画が好評で、そのお祝いをしようって話になって…」


 ハウンドのことで頭がいっぱいだったから(建て前)すっかり忘れていたが…、そう言えばユンユンの動画は昨日の夜、公開されるって話だった。


「もしかしてリアルで飲んでいるのか? ダイブ中は酔いやすいらしいから気をつけろよ。吐くとマジで大惨事らしいからな」

「だいじょうぶよ~、このくらい! それよりも、お兄ちゃんも飲め! 私のオゴリだぞ!!」

「それ、ただの店売りのミルクだよな?」

「えっと、ユンユンさん、動画のウケをすごく

心配していて、だから形だけでも付き合ってあげて」

「いや、まぁ…、お祝い自体は構わないんだが…」


 いつの間にかスバルが妙にユンユンになついている。動画制作に協力していたみたいだし、もしかして一緒にいるうちに…。


 いや、どうなんだろう? でも思春期の男の子は年上の異性に魅かれやすいからな…。しかし相手は人が操作しているとは言え、見えているのは仮想アバターの姿であり、中身の年齢はおろか性別すら誤魔化せてしまう。俺としてはアバター相手に恋する感覚は理解できないが…、実際にはそういう人は多いらしい。あまり酷くなるようなら、フォローしたほうがいいだろう。


「そういうことで、みんな~、かんぱ~い!」

「「かんぱ~い」」


 体力も減っていないのに回復アイテムを使ったのは、何年ぶりだろうか…。


 そして飲んだあとの牛乳瓶は光になって消える。片づける必要がないのはありがたいが…、酒盛りをしている雰囲気がなくて、すこし寂しく思えてしまう。


「あぁそうだ、お兄ちゃんには話しておかないとね」

「ん? なにがだ??」

「実はね…、スバル君とも話したんだけど…」

「もしかして、おまえら!?」

「C√に進もうと思って」

「そっちかい!!」

「そっちってどっち?」

「いや、何でもない、忘れてくれ」

「?」


 スバルも俺の顔を覗き込んで不思議そうな顔をしている。穴があったら入りたい気分だ。


「って! C√!? 動画は√色は出さない予定じゃなかったのか??」

「もちろん、本気でPKをしたり、ランキングを狙うつもりはないわ。あくまで狙いは"セイレーン"だから」

「あぁ、なるほど」


 セイレーンは歌で人を惑わす鳥、あるいは魚の魔物。正確には"魔人"であり、C√を確定させないと転生できない。動画の撮影で悩んでいたユンユンは…、当初の目標だった歌系スキルも使えるセイレーンを選んだようだ。


「とりあえず皆には撮影方法で悩んでいることは伝えてあるから…、あとはコメントを拾う形で、"撮影のためにC√に行くけど、√攻略はしません"ってことにする予定」

「あくまでファンの意見を採用した事にするわけか」

「利用しているみたいで気が引けるけどね。それでもアイドルの私が自発的に犯罪者になるのは問題があるでしょ? もちろん"C√=犯罪者"でないことは知っているわ。でも、世間の目はC√=犯罪者だと思っている。本当は初回投稿する時に発表したかったけど…、やはり、放送しながら徐々に視聴者に分かってもらうことにしたわ。まぁ…、私自身が最後まで悩んでいて決められなかったのもあるけどね」


 C√を手っ取り早く確定させるのが"殺人"であるせいで、よく誤解されるが…、実はC√を進めるうえで犯罪者である必要はない。表面的な設定しか見ていない人には分からないだろうが、これは人族と魔人の対立であり…、たしかに人族から見れば魔人は敵であり安全を脅かす存在なのだが…、C√をすすめてみると徐々に違うものが見えてくる。


 つまりLとCの対立は、違う種族、違う価値観の対立であって、殺人や犯罪の善悪とは別の話になっているのだ。しかしそれは、表面的な部分だけを見ている人には、なかなか理解してもらいない。C√を深く理解するには、まず1度、常識的な価値観をリセットする必要がある。


「まぁそこまで考えているなら俺としては異論はない。個人的にもC√の裏ストーリーは好きだし、好きにしたらいいんじゃないか?」

「でも…、それだとお兄ちゃんに迷惑をかけちゃうかも。今は√落ちしているとは言え、元L√のランカーがC√プレイヤーとツルんでいるなんて知れたら…」


 そう言えば、そんな筋書きだったな…。


 俺が最初からC√だと知っているスバルは…、ネズミを捕ってきた猫のように誇らしげな顔をしている。どうやら、昨日のアドバイスをスバルが深読みしたようだ。正直に言って余計なお世話だが…、俺としては不都合がないので、このまま乗っかっておく。


 正直なところ、俺は自警団を陰で支える形でC√を妨害しすぎた感がある。このL&Cというゲームは1人が突出してイベントを進めても意味がない。俺が指名手配に追い込んだPCなんて全体の数%にも満たないだろうが…、それだけでもC√PCの勢いを殺すのには充分だ。


 よし、やはりココは乗っかろう! 上手くいけば…、色々と便利に使えそうだ。


「えっと、少し誤解があるようだから言っておくが…、√攻略者とランキングは別物だ。ニャン子もそうだが…、俺たちはあくまで実力でランキングに名をのこしたに過ぎない」

「え? どういうこと??」

「つまり、イベントを進めなくてもランカーになれる。ニャン子はL√のランカーとして有名だが、L√イベントは殆ど進めていないし、L√に思い入れもない。つまり…、実質N√PCなわけだ」

「??」

「N√はユーザーが便宜上呼んでいるだけで、ゲームの設定に"N値"なんて項目はない。つまりC√を確定させていないPCは、すべてL√PCとしてカウントされるわけだ」

「え? じゃあ…」

「襲撃事件の一件で√落ちしたのも、もともと俺たちがL√攻略をすすめる気がなく、プレイに支障は無いと判断したからだ。表向きは恩をきせるために被害者を演じているが…、実際は√落ちしようが、C√に入ろうが、まったく気にしていない」

「えぇ…」


 どれだけユンユンの決断に葛藤があったかは知らないが、少なくとも今言ったことは事実であり、6時代のニャン子も√攻略者ではない。本当に実力があるのなら、中堅ランカーくらいまでなら適当にフリークエストを消化しながら黙々と狩りをしているだけでもなれてしまう。


「まぁ、そう言うことだから、C√でもセイレーンでも、好きにやってくれ」

「あ、うん。がんばる…」




 こうして、ユンユンの転生目標が、魔人のセイレーンに決まった。

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