#021(3日目・夜・セイン)

「ふざけないでください! 私たちはこれからも2人でやっていきます。目障りなので消えてください!!」

「ははは~、妹はキッツいにゃ~。しばらくの間だけでいいから許してほしいにゃ~」


 夜。俺たちは酒場の個室でニャンコロさんの提案について話し合っていた。


 ニャンコロさんは、元々L√プレイヤーだが、エンジョイ勢であり、ソロプレイヤーだ。L√にこだわる意味はなく、他のPCの勧誘がわずらわしくて本格的にC√に√変更することにした。


 それにともない、勘違いで兄だと思われている俺に、勧誘をことわる手伝いと…、C√の手ほどきを頼んだわけだ。


「そういう問題ではありません。なにが妹ですか! 兄さんの妹は私だけです!!」

「あくまで勧誘の連中へのカモフラージュにゃ」


 取り付く島がないとはこの事だろう。似たようなことは過去にも何回かあった。しかしアイは俺とペアで攻略する事に拘りをもっている。


 昼間はソロなので、他のPCと一時的に同行することはあっても…、アイがログインする夜は、他者をPTに加えたことはない。


「私は純粋にアナタが邪魔だと言っているのです!」

「なるほどなるほど。それなら…」

「な、なんですか…」


 珍しく押されているアイ。本当にニャンコロさんは、話の主導権を握っているとき"だけ"は強い。


「これは妹にとっても悪い話じゃないにゃ」

「言っている意味が分かりません」

「アチシが妹になってるあいだ、妹はセインの友達でも恋人でも、好きに名乗ればいいにゃ」

「(ガタッ)」

「別にアチシは勧誘がウザいから、うまいこと断る理由が欲しいだけにゃ」

「 ………。」

「アチシは妹役だから、別にセインとベタベタするつもりはないにゃ。実際、今日も少しペア狩りしたけど…、お互いベテランだから何も話さず黙々と狩りしてただけにゃ」

「(ふるふるふる)」

「妹は恋人役として、イチャイチャしたり、"結婚"でもなんでも、すきにすればいいにゃ~」


 ちなみにL&Cにも結婚システムは存在する。専用のイベントスキルも存在しているが…、条件が限定されるので利用しているPCは少ない。


「ところで、セインはどう思っているにゃ?」

「どうって、俺は別に。まぁニャンコロさんが一緒なら転生するまでの√偽装は確実になるからありがたいかな? 実力も折り紙付きだし」

「セインもそういってるにゃ。アチシも妹に色々と協力するから、ゆるしてくれにゃ~」

「 …わかりました。兄さんがそこまで言うのなら」


 その時歴史が動いた。と言うのは大げさだが、アイが折れるところを見るのは実に久しぶりだ。


「ありがとにゃ~。妹、じゃなかった、未来のお義姉ねえちゃん!」

「ふ、ふふふ、ふふふふふ…」


 アイが今まで見たことのない表情をしている。と言うか、ちょっと気持ち悪い。いったいどんなマジックをつかったらこうなるのか…、こんどこっそり教えてもらおう。


「セイン、じゃなかった、兄ちゃん。それでこれからどうするにゃ? アチシとしては素材集めをつづけたいけど…」

「それだと、また連中が声をかけてくるでしょうね」

「うぐっ。アイツラ苦手にゃ。しばらく狩場を変えるか…、露店を見回るか…」


 ニャンコロさんが林2で狩りをしていたのは、"ソロだとそこが限界"だからではない。その気になればもっと他に選択肢はある。しかし、大多数のPCが[毛皮]目的で狩りをするのが林2で、そこで狩りをしながら、ついでに他のPCからも[毛皮]を買うのが最も効率がいいのだ。


「それじゃ…、こういうのはどうでしょう?」

「「?」」


 俺が提案したのは…

①、C√プレイヤーを警戒しているグループに歩み寄り、別行動ではあるが協力関係になる。


②、L√の妨害になる行為をしているPCを探して、場合によっては交戦する。PKKと言ってもいいだろう。


③、証拠のスクリーンショットやログをグループに渡し、報酬をもらう。


 つまりはギルドを通さず賞金稼ぎをするわけだ。当然ギルドを通していないのでL値やクエストポイントを稼げないが…、それはC√なのでむしろ好都合。そして報酬としてレアアイテムや猫グッズを貰う。


 あまりガメつくやると怪しまれるだろうが、それでもL√プレイヤーからは感謝されて、報酬も貰える。ついでにドサクサにまぎれて自分たちもNPCを狩ったり、C√PCを狩って殺人数を稼げるのだから一石何鳥だ?って話だ。


 殺人系の称号は基本的に相手の√は問わない。もちろんC値は加算されないが、手間のかかる称号さえとってしまえば後はいくらでもやりようはある。


「なるほどにゃ~。アチシもザコ狩りはいい加減飽きてたし、面倒な交渉はセイ…、兄ちゃんがやってくれるなら異論はないにゃ」

「別に、プライベートエリアでは兄さんのことを兄呼ばわりする必要はないでしょう?」

「どこでボロがでるかわからないにゃ~。妹も、兄ちゃんのこと…、呼び捨てにしたり、ダ~リンとか呼んでみるにゃ~」

「そ、そんな! いえ、そんな、心の準備が…(ぶつぶつ)」

「まぁそれは置いておいて…。連中との交渉がこの作戦の1番憂鬱なところだな。正直に言って俺もソロ派だから気は進まないが…、まぁやれるだけはやるさ」


 この手の交渉事は本当に久しぶりだが…、まぁやれるだけはやってみよう。幸い、ニャンコロさんは俺に全て任せてくれるそうなので、自己判断で好きにやれる。


 偽装ルートなんて面倒な事を考えてしまった事に後悔はあるが…、これがMMOである以上、どこにいっても少なからず人間関係で悩まされる。それなら面倒でも、火中に飛び込んで先手先手をとっていくまでだ。




 結局、その後はアイの商人系クエストをすすめる手伝いをして解散となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る