#014(2日目・夜・セイン)

「しかし、こうやって王都周辺のザコを狩るのも何年ぶりだろ」

「L&Cをはじめた頃を思い出しますね」


 王都アルバ、南西、"アルバの林2"。このあたりは最初期のレベル上げに来るエリアであり、それが終われば後は直接転送できないエリアへ行く際に通り過ぎるだけの場所だ。


「そうだな。周囲で狩りをしているPCの中にも、いつか俺たちのところまでくる者があらわれるのか…。あ、そう言えばアリスさん、元気にしているかなぁ」

「兄さん! 今はそういう話をしているのではありません」

「え、あぁ、すまない」


 アイの怒るポイントは兄の俺にもよくわからない時がある。まぁ年頃の女の子なので、そう言うものなのだろう。


「兄さん、必要アイテムは把握していますか?」

「えっと、[硬い皮]と[樹液]と[毛皮]100個ずつだっけ?」

「いえ、今のバージョンでは20個ずつになっています」

「えっ、まじかよ…」


 ちょっとショックだ。L&Cはそういう甘えた改変はしないゲームだと思っていたのに。


「ちなみに変更されたのは3年ちかく前です」

「お、おう…」


 つまり俺たちがはじめてしばらくしてから変更されたのか。たしかに当時は、ひたすらにダルかったのをよく覚えている。


 それでも1M、つまり100万もの大金を一括で集めるよりは遥かにラクだ。L√は基本的に面倒なクエストをこなすことで前倒しで様々な恩恵がうけられるのが特徴になっている。


 なれてくると"お金の力"と"実力"で解決できるC√のほうが早いが…、すくなくともリセットされて貯蓄を失った現バージョンではL√のほうが何をするにも早いはずだ。


「とりあえずこの辺りで"ベビーウルフ"と"ホーンラビット"を狩りましょう」

「そうだな、[毛皮]は他にも利用できる。既成事実のためにも多めに集めて毛皮装備を作っておくか」


 [硬い皮]は虫系のコモンドロップ、[樹液]は植物系、[毛皮]は動物系で…、集めると様々なアイテムに加工できる初歩の"素材系ドロップ"だ。なかでもPC間で有用なのが嗜好装備によくつかわれる[毛皮]だ。


 まだ作れるものは低ランクの趣味装備に限られるが…、それでも殆どの人が同じ衣装で冒険をしている現状では"見た目を変える装備"を優先目標にしているPCは少なくないだろう。


「アイはなにか欲しいものはあるか? やはり人気なのは[猫耳]なのかな? たしかケモミミ帽子は…、猫、犬、兎、あとなんかあったっけ?」

「基本はその3つですが、染色できるようになっていますね」

「あぁ、なんか聞いたな、そんな話…」


 他愛もない話をしながら黙々と狩り続ける。王都周辺のザコは、本当にザコで戦っていて張り合いがない。それこそ、苦痛と言ってもいいくらいだ。せめてリーチのある槍か鞭でも持ってこればよかった。


 そんなことを考えながら狩りをしていると…、見知らぬ女性PCに声をかけられた。


「すいませ~ん」

「はい。どう…」

「兄さん。ここは私がお相手します」

「え、あぁ頼む」


 アイは俺と同じでコミュ障だが、厳密に言うと少し違う。俺は付き合いは悪いが表面的には社交的で無視などはしない。対してアイはツンデレというか、好戦的で、本心がわりと態度に出る。まぁC√は油断ならないので、アイはそのへんを警戒しているのだろう。


「えっと、よかったら[毛皮]を売ってくれないかにゃ~」

「買い取りですか。私たちは転売目的で集めているわけではないので他をあたってください」

「そうかにゃ~。アチシはしばらくこのエリアで狩りをしているから、1つでも余ったら声をかけてにゃ~」

「はい、それでは」


 取り付く島のない妹の対応に、あっさりと引き下がる女性PC。しかし、あの喋り方は…。


 女性PCが充分に離れたところでアイに話しかける。


「あのPC、多分L√のランカーだ。なんどか戦ったことがある」

「猫言葉の"ロールプレイ"は他にもいると思いますが…、兄さんがそういうのならそうなのでしょう」


 ランカーが全員ガチ勢とは限らない。エンジョイ勢とは少し違うが、ロールプレイと呼ばれる成りきリプレイにこだわるPCは思いのほか多い。アニメのキャラそっくりにキャラメイクしたり、彼女みたいに猫系獣人やエルフなどの特定種族に拘ったり。


 そう言ったロールプレイヤーはキャラ愛が行き過ぎているのでガチ勢と大差ないほどにやり込んでいる場合も多い。それでも装備などに制限が加わるので上位まで登りつめるのは難しいが…、装備依存度の低いL&Cでは、中位ランカーくらいまでなら才能しだいでなんとかなってしまう。


「とりあえず、俺たちがC√だと言うことは彼女に悟られないように気をつけよう」

「はい、わかりました」


 しかし、これは使えるかもしれない。彼女がL√のランカーなら、彼女の知り合いと言うポジションは良いカモフラージュになる。


「よし、これはL√の有力者に恩をうるチャンスだ。多めに集めて、彼女に売ろう」

「そこまでする必要はないかと思いますが…」

「それに俺たちの装備はエンジョイ勢にしては揃いすぎている。クエストを後回しにして需要の高い収集品を集めて、小銭を稼いでいたことにしよう」

「わかりました。兄さんがそこまで言うのなら…」


 アイは渋々俺の提案に乗ってくれた。




 結局その日は、時間の許すかぎり[毛皮]を集めて、そのつど猫言葉のPCのところに持っていった。

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