富士登山 4
僕たちは富士山5合目へとやってきた。
バスから降りると、もう空気が冷たい。僕たちは持ってきた冬物の上着を、荷物から取り出して着込んだ。
ミサキは、薄っぺらいサマーカーディガン一枚だ。この先、大丈夫だろうか?
とりあえず、ミサキの事はあまり考えないようにして、僕たちは富士山を楽しむ事にした。
ここの場所の標高は、約2300メートル。
植物など生えない環境かと思っていたが、周りを見ると豊かな森が茂っていた。
普通の山にも見えるが、木々の根元をよく見てみると、所々にゴツゴツとした岩肌が
駐車場の周りを見渡すと、近くには見晴台があったので、僕たちはそちらへと寄り道をする。
展望台からは、様々な物が見える。
上の方を見ると、植物の
山の
ただ、こんな山奥だが、想像以上に人が住んでいるようだ。僕たちの乗って来た、鉄道の駅の周りには、大きな市街地があり。他には、たくさんのゴルフ場と遊園地などの人工物が見えた。町のそばには湖もあり、あそこが有名な河口湖だろう。
「町が意外と大きいね」
「そうだな。田舎の村を想像していたけど、ちゃんとした町だな」
ヤン太がそう言うと、キングがスマフォで調べる。
「あそこら辺は、『
「近くに絶叫マシンもあるし、住みやすそうな町ね」
ミサキが的外れな事を言う。絶叫マシンがあっても、誰しもが乗りたい訳ではない。
周りを見渡した後、僕らは先に進む事にした。
ここはまだ5合目だ。頂上からは、もっと素晴らしい眺めが見えるに違いない。
駐車場の脇にある展望台から、先へと進む。
すると、大きなロッジ風の2~3階建ての建物が、
「何かお土産を見て行かない?」
ミサキがそんな事を言うが、レオ吉くんがこれを止める。
「荷物になるから、帰りでも良いんじゃないでしょうか」
「それもそうね。先に進みましょう」
僕らは観光客を
先ほどのお土産の店が連なった場所から、少し離れた場所にその建物はあった。
少し古くて、薄暗い建物だったので、最初は間違ったかと思ったが、『宇宙人の最新型、登山道具レンタル有り』と、新しい看板が
僕らが店の中に入ると、店員さんがやってきた。
「登山道具のレンタルでしょうか?」
「ええ、お願いします。こちら、チケットです」
僕が姉ちゃんの観光会社で発行した、レンタルのチケットを渡すと、店員さんが店の奥に案内をしながら言う。
「定番の登山の3点セットですね。今、こちらのレンタルが、大ヒットをしてるんですよ」
それを聞いたジミ子が興味を持ったようだ。定員さんに質問をする。
「そんなに売れているんですか?」
「ええ、それはもう。今まで登山道具のレンタルなんて、ほとんど出ませんでしたからね。頂上までの道のりは意外と困難なので、これまでは、この5合目で、引き返していく人が
ニコニコと笑顔で答える定員さん。本当に売り上げが良いのだろう、店の中はかなり混み合っている。
僕らは奥の更衣室に通される。
さて、僕らは登山に対して、何も知識がない。先ほど店員さんが『3点セット』と言っていたが、どんな道具なのだろうか?
「すいません。登山は初心者なんですが、これから僕たちは、どんな道具を借りるのでしょうか?」
「初心者でも心配はいりませんよ。一つずつ説明しましょう。まずはコレです」
そういって、ベストのような服を取り出して来た。店員さんは説明を続ける。
「この服は、
「ジャンパーの内側に着るんですか?」
「ええ、お客様は冬用の服を持ってきましたか?」
「はい、持ってきました」
みんなはそれぞれ冬用の服を持ってきていた。荷物から上着を取り出す。
皮のジャンパー、コート、ダウンジャケット。どれもが防寒性に優れた服だ。ミサキだけは、薄手のサマーカーディガンだが……
ミサキの服を見て、店員さんが注意をする。
「その服では頂上へは行けませんよ。上着を貸してあげるので、それを着て行きなさい」
そういって銀色のアルミ箔で出来たような上着を持ってきてくれた。
すると、デザインがあまり良く無いので、ミサキは嫌がる。
「大丈夫ですよ。気合いで何とかなります」
「8月の山頂の平均気温は、およそ5度なんですが、ほんとうに気合いだけで大丈夫ですか?」
以前、ロープウェイで山の上に行ったときも寒かったが、今回はその比では無いらしい。
5度というと、真冬でもおかしくない気温だ。
「ええと…… その銀色の服を貸して下さい」
あっさりとミサキが引き下がった。具体的な気温を聞いて、さすがに無茶だと
この後、ロボットがそれぞれの服のサイズを測定して、チョッキが渡された。
僕のチョッキのサイズは、LLサイズと意外と大きい物を渡された。ちょっと太ったのだろうか?
チョッキが行き渡ると、次のアイテムが渡される。
店員さんが持ってきた物は、透明なアクリルで出来たような、ガスマスクのような物だ。
顔の下半分を覆うように作られていて、ちいさな200ミリリットルのコーヒー缶のような装置が付いている。
「これは酸素マスクですか?」
「ええ、その通りですね。宇宙人の技術を使った、最新式の酸素マスクです」
僕の予想が当ったらしい。まあ、登山の時に使うマスクは、この用途くらいしか思いつかない。
「こんな小さな酸素ボンベで大丈夫なのか?」
キングが心配そうに言うと、店員さんが説明してくれる。
「宇宙人の技術なんで平気ですよ。何か化学反応で、水分から酸素を抽出するらしいです。その大きさで5日は持つそうなんで、安心して下さい」
「そんなに長い間、使えるのか……」
キングが驚いた様子で言うと、さらに店員さんが補足して説明をしてくれた。
「ええ、既存の空気に酸素を少しだけ追加する形なんで、かなり持つそうです。装着してみて下さい」
僕らは定員さんに薦められて酸素マスクの装着をする。
すると、シューっという、気体を送り込むような、とても小さな音が聞えた。
ここはまだ5合目だが、それでも息をするのが楽になった気がする。おそらく、このマスクを付ければ、
三つのアイテムのうち、二つが渡された。
最後のアイテムは何だろうか?
「三つ目はなんですか?」
僕がそう質問をすると、こう答える。
「最後のアイテムは登山靴ですね。サイズを見るので、椅子に座って靴を脱いで下さい」
僕たちは言われるがままに椅子に腰掛けると、靴を脱ぐ。
ロボットの定員さんが、足のサイズを測定すると、すぐに登山靴を持ってきてくれた。
「ドウゾ。こちらデス」
足首のちょっと上まである、靴底の厚い登山靴だった。
登山靴はあまり見たことは無いが、一般的な登山靴に見える。
僕が靴を履くと、店員さんが慣れた手つきで靴紐を締めてくれた。
「靴のサイズはどうです? 試しにちょっと歩いてみて下さい」
そこら辺を歩き回るが、特に違和感は無い。
「あっ、大丈夫そうです」
「じゃあ、スイッチを入れますよ」
登山靴に付いていた、プレアデスグループのロゴを押すと、LEDランプが点灯した。
「これは特別な機能があるんですか?」
「ええ、ありますよ。宇宙人の最新の機能です」
「どんな機能なんでしょう?」
「それは登ってみてのお楽しみですね。登山が楽になりますよ」
そう言って答えをはぐらかされ、教えてくれなかった。
謎の機能だが、まあ、おそらく悪い物ではないだろう。
こうして最新の登山道具を借りた僕たちは、富士山の山頂を目指す。
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