最先端ファッション

 ハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥで時間を潰していると、ミサキが雑誌を取り出してきた。


「これ、さっき本屋で買ってきた雑誌なんだけど、みんなで見てみない」


 雑誌のタイトルには『原縮はらしゅくストリート、宇宙時代の最新モード特集』と書いてある。原縮とは東京にある、最先端のファッションの街だ。学生がよく集まって居る場所でもあるらしい。


「食い物以外の本を買うなんて意外だな」


 ヤン太が少し驚いた様子で言う。するとミサキは反論をしてきた。


「私も少しくらいはファッションに気を使うわよ。それに調べておかないと私たちが原縮デビューする時に困るでしょ」


 頬を膨らませているミサキを、なだめるように僕が言う。


「そうだね。まあ、たまにはこういう本を見てもいいかもね」


 とりあえず僕は、ファッション雑誌のページをめくってみた。



 ページをめくると、キングが思わず声を上げる。


「うお、すげーなこの服」


 銀色のアルミホイルで出来た、ジャンパーみたいな服が出て来た。

 ページの見出しに『軽くて丈夫な断熱性99パーセントの新素材! 防水性も抜群!』と大きく書かれている。

 これを見てヤン太が言う。


「今は夏なのに、こんな服を着たら熱中症になるだろう」


 確かにこの服は冬場なら良いかもしれないが、夏場の今だと、サウナに入って居るようなものだろう。


「大丈夫みたいよ、この部分を読んで見て」


 ジミ子は雑誌の記事の一節を指さす。そこにはこう書かれていた。


『背中に温度調整ユニットがあり、冷房、暖房の両方に対応しています。充電はUSB電源で行い、およそ16時間持ちます』


 ミサキはこれを見て言う。


「機能は良いわね、見た目はダメだけど」


「そうだね。見た目をどうにかする必要があるね」


 僕が相づちをうち、次のページをめくる。



 次のページも、銀色の温度調整のついている服だった、ただ、こちらのページは、先ほどのジャンパータイプとは違い、上着とズボンの繋がった『ツナギ』で、全身タイツのような、さらに酷い格好の物だ。


『冷え性の人にお勧め! 手足など、体のパーツ毎に温度調整が可能な、万能型おしゃれタイプ!』


 ジミ子があきれ果てた感じで言い放つ。


「『おしゃれ着』って、これは酷すぎるわよね。無いわ」


「無いな」「無いわね」「ねーな」「有り得ないね」


 全員が否定する。流石にこの格好をするのは、芸人くらいだろう。

 僕は次のページをめくる。



 次のページには、こんな特集がされていた。


『銀色ジャケットに合わせたコーディネート。オススメの肌と髪の色!』


 モデルさんが銀色の服を着ている写真が、たくさん載っているのだが、服の色に合わせて、顔の色と髪の色が、白になっていたり、青になっていたり、緑色になっていたり、金色になっていたりする。


 僕が思い出しながら言う。


「そういえば、宇宙人のシステムで、肌の色を自由に変えられるようになっていたね」


「そうね。この肌の色にするなら、銀色のジャケットに合うかも」


 そういってミサキが、肌色と髪の毛の色の服、全部が銀色のモデルさんの写真を指さす。


 コーディネートが合っていると言えば、合っているが、コーディネートの為に肌を銀色に変えるのは、あまりにも馬鹿げている。もしこんな事をやってしまったら、朝に起きて鏡を見たときに、絶対に後悔する自信がある。



 僕らの着られる服は無いかと、次のページをめくる。

 すると、そこには秋物の特集のページだった。


『プレアデス・ローブ特集』とタイトルが振ってあり、いつも宇宙人が着ている、修道服しゅうどうふくのローブのような服が、これでもかと載っている。

 数あるローブは、少しずつアレンジが違うが、シルエットはだいたい同じで、そんなに印象は変わらない。


 このページを見てキングが言う。


「ゲームのキャラにこういうヤツがいるな」


「ああ、これは『アサシン・グリッド』みたいで、ちょっとカッコイイかもしれない」


 ヤン太がちょっと興味を示した。


『アサシン・グリッド』とは、中世の時代にアサシンになって、色々なミッションをこなしていくゲームだ。


 確かにあのゲームのキャラクターは格好いい。

 この雑誌のモデルさんも手足が長く、このローブをカッコ良く着こなしているが、僕たちが着るとどうなるだろう?

 背の高いキングは上手く着こなせそうだけど、あまりスタイルの良くない僕らは、『アサシン』と言うより、ラブモンに出てくる『狂信者』というモンスターに近い気がする。



 次のページをめくると、そこにはショッキングな写真が載っていた。


『新素材! ズレない服の最新モード』


 ズレない服とは、前に僕がきた『ズレない水着』と同じ素材で出来た服だろう。

 肌に貼り付く機能があり、スイッチを入れると、肌にピッタリとくっついて離れない。


 僕が着た水着も布面積が少なかったが、この雑誌に載っている、『ズレない服』も、水着に負けないくらい布面積が少なかった。


 ジミ子が、背中の部分が丸出しの服を指さして言う。


「これなんてツカサに似合うんじゃない?」


 するとミサキが軽く反論をする。


「いえ、ツカサにはこっちの方が似合ってるでしょ」


 胸の局部が隠れているだけのおびのような服を、僕にオススメしてきた。


「いや、いくらなんでもこれは……」


 そう言いかけると、ジミ子やヤン太達から、こんな風に言われた。


「似合うと思うわよ」「そうだな」「たぶん似合うぜ」


 ……みんなどんな風に僕を見ているのだろうか。



 雑誌をほとんど読み終えると、ヤン太が僕らに問いかける。


「こんな服を着るヤツは居るのか?」


「いないでしょ」


「まあ、いないだろうな」


 ジミ子とキングが同意する。確かにこんな服を着るヤツは居ないだろう。


「そうよね。ちょっと有り得ないわよね」


 そう言いながらミサキがページをめくった時だ。


「あっ! これを見て!」


 ミサキに言われて僕らは雑誌を覗き込む。


 そこには、原縮はらしゅくストリートの写真が載っていたのだが、金色や銀色のジャケットを着た人や、肌の色がピンクや紫色、髪の毛の色が銀色や緑色といった人。宇宙人のようなローブを着た人や、露出狂に限りなく近い人がたくさん映っていた。


 原縮ストリートは、本当に地球上にあるのだろうか?

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