管理アプリ 4
「お姉さんの開発したアプリなら、私も入れてみようかしら」
ジミ子がそう言って『管理アプリ』をインストールした。そして設定を開始する。
「ふーん。とりあえず『書籍』の管理と、後は『ラブモン』の管理もできるのかしら?」
「『ラブモン』まだ続けてるの?」
ミサキが驚いた様子でジミ子に聞く。
「やってるわよ。私の所有している『深きもの』は、順調に増えて、今は57体いるわ。ええと、このアプリでラブモンの管理ができそうね。これで餌やりとか、水質管理とか楽になるわ」
その話を聞いていたヤン太とキングがスマフォをイジりだした。
「そんな設定もできるのか」
「これからは楽になりそうだぜ」
そんな事を言いながら、管理アプリの追加設定をしている。どうやら二人ともまだラブモンを続けていたようだ。僕も一応、管理アプリを立ち上げ、ラブモンの追加設定をしておく。
「とりあえず書籍の登録をしてくるわ」
そう言ってジミ子は自分の部屋に行き、2分もしないうちに帰ってきた。
驚いた様子でヤン太が聞く。
「本の登録はもう終わったのか?」
「うん。終わったわよ。何枚か写真を撮るだけで終わり。あっ、これ、友達で持っている本の情報の共有もできるのね」
「友達登録ってどうやるんだろ?」
僕が調べようとしたら、キングが画面を見せながら説明してくれる。
「電話帳から指定するか、QRコードの表示と読み取りとかで出来るらしいぜ。一般的なメッセージアプリと同じだな」
「とりあえず友達登録はしておこうぜ」
ヤン太に言われて、僕たちはお互いに友達登録をした。
「まずは、書籍の情報を友達に公開しようかしら」
ジミ子がスマフォを操作すると、メニューに『ジミ子の本棚へ』という項目が現われた。
「じゃあ、僕も公開するね」
僕の本棚も公開すると、ヤン太とキングがこう言った。
「俺も家に帰ったら登録しておくよ」
「興味のある本があれば、その本を貸すぜ」
僕らが楽しそうにアプリをイジっていると、ミサキがこんな事を言い出した。
「私も、アプリを入れてみようかしら」
「じゃあ、ミサキにもアプリのURLを教えるね」
こうしてミサキも管理アプリを入れる事になった。
「ええと管理する項目は、『おまかせ設定』で、情報の読み取りは『自動収集』で行きましょう。私も情報を公開するね」
ミサキも一通り設定を終えると、みんながこのアプリをイジり始める。
「ジミ子は『ジョルジュの奇妙な冒険』を持ってたんだね」
僕がジミ子の本棚のデータを見ながら言うと、ヤン太も同意する。
「そうだな。けっこう絵柄がキツい少年マンガなのに、どうして持ってるんだ?」
「いとこが強く進めてきたから買ったのよ。ちょっと古いマンガだけど、話はとても面白いわよ」
こうして他人の本棚を見ると、意外な本を買っている事が分る。これは、ちょっと面白い。
「ツカサの本棚は、どれも見たことがある本ばかりね」
ミサキが僕のデーターを見ながら言った。
「中学生の頃までは、僕の部屋のマンガをよく読んでいたからね。そんなに変わってないかも」
「新作はないかな…… あっ、この本貸してよ」
「いいよ。今日の帰りにでも渡すよ」
そのやり取りを見ていたジミ子が突っ込む。
「借りてばかりいないで、ミサキも何か貸したら?」
「ああ、うん、そうね。家に帰ったら書籍のデーターを上げてみるわ。それより、あそこに置いて有るのは今日のおやつじゃない? そろそろオヤツの時間だと思うんだけど……」
ミサキは台所の隅に置いてある、お菓子を指さしながら言う。あきれた様子でジミ子が答える。
「相変わらず食べ物に関しては、ちゃっかりしてるわね。まあ良いわ、食べましょうか」
ジミ子の用意してくれたお菓子は、甘辛い味の『歌舞伎せんべい』とマシュマロをチョコでコーティングした『チョコエンゼル』のお徳用パックだ。
ジミ子が『チョコエンゼル』の大袋を開けると、ミサキがさっそく食らいつく。
「いただき! ええとチョコエンゼルの数は10個か、とりあえず2個目もゲット!」
一つ目を口に咥えたまま、二つ目のチョコエンゼルの個別包装を開ける。すると、全員のスマフォが鳴った。
ヤン太がスマフォを取りながら言う。
「なんだ? 緊急の雷雨情報でも来たかな?」
スマフォを取ったヤン太は、僕らに画面を見せながら言った。
「警告がきたぜ、『カロリー警報』だとさ」
スマフォの画面を見ると、『ミサキさんの摂取カロリーが、一日の限度を越えそうです。カロリーを控えて下さい』と書かれている。
ミサキが驚いた様子で叫ぶ。
「えっ、うそでしょ。まだ晩ご飯前よ!」
キングがすかさずスマフォで調べる。
「ええと、チョコエンゼルのカロリーは、およそ150キロカロリー。おにぎり一つと、あまり変わらないみたいだぜ」
「まあ、間食でおにぎり二つはマズいかな……」
僕がそう言うと、ミサキは必死に否定をする。
「何かの間違いよ。今日はそんなに食べてないからオーバーする事なんてないわ」
そう言っている隣で、キングが何かを見つけた。
「この管理アプリの情報で、ミサキの食事のログがあるぜ。成人一日の摂取カロリーは、たしか1800キロカロリーぐらいを目安にするらしいが、もう越えそうだぜ」
ミサキのログを見る。
朝は、クリームパンとメロンパンとバナナで約850キロカロリー。
昼は、天ぷらそばとデザートのバニラアイスで約750キロカロリー。
さらにチョコエンゼルを二つで約300キロカロリー。
合計で1900キロカロリーに達する。このアプリの計算は間違っていない。
「ここに将来の体重予測もあるわね。このままで行くと、半年後にプラス5.7キログラム。一年後には8.8キログラム増えるみたい」
ジミ子がミサキの体重予想を見ながら言った。このアプリにはそんな機能もあるらしい。
「でも…… ぐう、あげるわ私のエンゼルチョコ」
ミサキは二つ目のエンゼルチョコを、しぶしぶ僕に渡してきた。そして、代わりに歌舞伎せんべいを食べようとする。
すると、また同じ警告が来た。
『ミサキさんの摂取カロリーが、一日の限度を越えそうです。カロリーを控えて下さい』
「うそでしょ。揚げてあるせんべいなんて、ほとんど空気みたいなものでしょ?」
キングが再び調べてくれた。
「一枚あたり60キロカロリーみたいだぜ」
「ぐうう、あ、あげるわ私の歌舞伎せんべい」
にらみつけるような感じで、僕にせんべいを渡してくる。そこまでしなくてもいい気もするが、ミサキにはこのくらいがちょうど良いのかもしれない。
ミサキが見守る中、僕らはおやつを食べた。
その後は、僕らは再び遊び出す。マンガを読んだりゲームをやったりして、時間を過し、夕方になるとこの日は解散した。
夕食の時間帯には、管理アプリからミサキへのメッセージが飛びまくっていたが、僕はスマフォを無視した。
この後、数日間に渡って、僕らはこの管理アプリのテストをする。
管理アプリは、ミサキに対して
カロリーの制限はもちろんの事、お小遣いの使いすぎの警告や、宿題などの勉強の強制をしてくる。
アプリの設定で、余計な管理をしないようにすれば良いだけの話だが、僕は黙っていた。ミサキはちょっとうるさく注意されるくらいで、ちょうど良いだろう。
やがてアプリのテスト期間が終わり、特に問題が出なかったので、無事にリリースされた。
リリースされた後、設定をイジっていると、管理する項目に『人生』という単語が現われた。これを設定すれば、どんな事を管理されるのだろう? そして、管理された人生は上手く行くのだろうか?
ちょっと気になる項目だったが、僕は見ない振りをして、アプリを閉じた。今のところは大丈夫だと思うが、どうにもならなくなったら、お世話になるかもしれない。
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