農作業とパワードスーツ 1

 ある夜。姉ちゃんが家に帰ってくると、僕にバイトの話を振ってきた。


「弟ちゃん。バイトの話があるんだけど、やってみる?」


「どんなバイトなの?」


「仕事としては農業のお手伝いかな」


「分っていると思うけど、僕らは農作業は素人だよ。それでも構わないの?」


「大丈夫よ。内容としては、パワードスーツの動作テストの意味合いみあいが強いから」


「えっ、パワードスーツ?!」


「そうよ、パワードスーツを来て農作業をやってもらうわ。4時間で1万円でどう?」


「ちょっとみんなに聞いてみるね」


 メッセージツールのLnieを使ってみんなに聞いて見ると、すぐに『参加』の返事が返ってきた。『パワードスーツ』という元男子が興味を引く単語が出て来たので、ヤン太とキングがもの凄くやる気になっている。


『ヤベェ、早く試してみたい』

『バイト代はタダでも…… いや、金を払ってでもやってみたい』


 こういった特殊なメカに憧れる気持ちは分る。

 僕もワクワクしているが、宇宙人のデザインは、ハッキリ言ってダサい。あまり期待はしない方が良いのかもしれない。



 数日後のバイトの当日。僕らは早朝の4時から出かける。

 寝ている姉ちゃんを叩き起こし、ミサキを起こし、地元の姉ちゃんの会社に連れていく。会社の前に着くと、ヤン太とジミ子とキングはすでに会社の前で待っていた。


 姉ちゃんがみんなに向って言う。


「おはよう。朝早くからごめんね。これから畑に移動するわ、そこで詳しく説明をするわね」


 僕達はどこだってドアをくぐりぬけると、そこは山間やまあいの畑の中だった。

 太陽はまだ上がりきっておらず、辺りはとても暗い。



 目的地に到着すると、姉ちゃんは眠たそうに説明を開始する。


「ここは、去年までは管理者が居なくて、荒れ放題だった畑なんだけど、プレアデスのグループ会社が買い取って、今はロボットが畑の管理をしているの。そろそろ収穫の時期なんだけど、ここで農業用のパワードスーツの試験をするわ」


『パワードスーツ』と聞いて、僕はドキドキしてきた。隣にいるヤン太とキングを見ると、やはり目をキラキラとさせている。


 眠たげな姉ちゃんは説明を続ける。


「それでは、まずパワードスーツ無しで、5分ほど作業をしてちょうだい。装着時とどれだけ違うか、後で感想をきかせてね」


 僕らはハサミとカゴと懐中電灯を渡されて、トマトの収穫をする事になった。



 懐中電灯は、頭に装着するタイプだった。僕らはそれを身につけ、ハサミを使ってトマトを一つ一つ収穫していく。

 簡単な作業だが、これが思ったより大変だ。高い位置のトマトのは楽に収穫できるのだが、低い位置のトマトは中腰になったり、しゃがんだりしないと上手く収穫できない。この姿勢が意外と辛くて、5分が終わるころには、早くも腰が疲れ始めていた。


「思ったより大変だね」


 僕がみんなに尋ねると、あまり運動をしないキングが真っ先に賛同さんどうする。


「そうだな。これを続けるのは、かなり辛いな……」


「確かに、何時間も続けるのは辛そうだ」


 運動が得意なヤン太も、眉間みけんにシワをよせて、僕らの意見に同意してくれた。



 その会話を聞いていた姉ちゃんが、ニヤけながらテレビショッピングのまねをして、こんな事を言う。


「さて、そんなみなさんにコチラを用意しました。パワードスーツです!」


 姉ちゃんの後ろに、ロボットが5体いて、それぞれがパワードスーツを持っている。

 パワードスーツの見た目は、ロボットやメカというより、宇宙服だった。

 白い、重たそうな潜水服のような分厚い防護服に、大きなリュックサックの様なものが付いている。頭は半球状のガラスの様な物で覆われていて、そのまま宇宙空間に出ても問題がなさそうだ。


「意外と良いな」「そうだな」


 ヤン太とキングがつぶやくように言う。確かに想像した物と大きく違ったが、それなりに格好良く見える。


「それじゃあ、さっそく着替えちゃいましょう」


 姉ちゃんに言われて、僕らはパワードスーツを身につける。



 パワードスーツだが、装着が大変だった。

 狭い場所に無理やり足を通し、ズボンをはく。ねじ込むように、腕のユニットに手を通す。胴体部分は、胸の部分がとても窮屈きゅうくつだ。

 ロボットが手伝ってくれるので、なんとかなっているが、一人ではとても着られないだろう。


 僕とキングが装着に苦戦していると、いち早く身につけたジミ子が、姉ちゃんに質問をする。


「どうして農業用にパワードスーツなんて開発したんですか?」


「この間、地球の農家さんが、作業が辛いってクレームが来たじゃない。クローンの政策と、アンドロイドの政策で、なんとか一時的に納得したみたいだけど、そのうちまたクレームをつけてくると思うの。そこで、このパワードスーツを貸し出して、火星と地球の負担量を同じにしようというわけね。本当はパワードスーツを作るより、ロボットにやらせた方が効率的なんだけど……」


 確かに、こんな面倒くさいパワースーツを身につけるより、ロボットにやらせた方が早そうだ。


 僕とキングの装着が終わると、姉ちゃんが説明を開始する。


「装着に関しては大幅な改善が必要ね。まあ、いいわ、これから使い方を説明するわね」


 いよいよパワードスーツの試験に移る。

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