蚊と浮遊要塞 1
みんなで集まって居る時に、ミサキが
「バーベキューでもしない? みんなも串に刺した肉にかじりつきたいでしょ」
「なんでまたバーベキューなの?」
僕が聞くと、あるWebの動画を見せながら言う。
「これ、火星刑務所のヤクさんのバーベキュー講座なんだけど、バーベキューに使うソースのレシピも載っているの。ちょっと試したくない?」
そう言われて、ミサキのスマフォの動画をみんなで見てみる。
火星の赤茶けた大地を背景に、いかにもアメリカで使ってそうな、巨大なバーベキューグリルが映し出される。
キャンプ用のテーブルと、山盛りの大豆から作られた肉。
ヤクさんは、その肉の塊を、焼き肉のタレのようなソースに、たっぷりと漬け込む。
ソースの配合は、照り焼きのタレをベースに、
タレに充分に漬け込んだ肉を、パチパチと音を立てる炭で豪快に焼いていく。
したたるタレと肉汁でジュージューと音がして、やがて綺麗なキツネ色の串刺し肉が出来上がった。スマフォの画面は小さいが、それでもかなり美味そうに見える。
動画を見終わると、ミサキは僕らに向って、こう言った。
「どう? 食べてみたいでしょ? どこか良い場所を見つけて、みんなでバーベキューをしましょう」
「いやぁ、俺はいいかな。みんなで行ってくれば」
ヤン太が珍しく断ってきた。いつもこういう事には、
僕は理由が気になり、聞いてみる。
「どうしたの? バーベキューは嫌なの?」
「いや、バーベキューが嫌なわけじゃないんだが……」
「じゃあ、なんでダメなのよ?」
ミサキが問い詰めると、ヤン太はこんな理由を言ってきた。
「じつは2年くらい前に、親戚に誘われてバーベキューに行ったんだが、蚊に10カ所以上、食われまくってさ。あと食材にハエが飛んできて、追い払うのに精一杯で、あまり料理を味わう暇がなかったんだ」
「あー、まあ、屋外だと虫はしょうがないな」
キングが納得したように答えた。
確かに、屋外でやる以上、虫は多いだろう。
「私もちょっと、虫はダメ」
バーベキューに誘い出したミサキ自信が、突然、参加できないと言い始めた。まあ、虫が得意な人など居ない。
このまま、この計画は流れるかと思ったが、ジミ子が変な事を言い出した。
「お姉さんなら何とかならない?」
「え、姉ちゃんが? まあ、そうだね、一応きいてみるよ」
僕がLnieでメッセージを伝えると、しばらくして、こんな答えが返ってきた。
『試作品だったらあるわよ。害虫対策の製品で、本来は農業用に作ったんだけど、試しにつかってみる?』
『うん、お願い』
『わかったわ。じゃあ、試作品を送るから、使用したら後で感想をちょうだいね』
僕がOKの返事をすると、5分も経たずに、姉ちゃんの部下のロボットが、小さな荷物を持ってきた。
それは縦、横、高さ、30cmほどの、立方体の箱で、蓋の部分には姉ちゃんの汚い字で『
「『浮遊要塞』なんだそりゃ?」
ヤン太が不思議な目で荷物を見る。
「まあ、とりあえず開けてみるね」
僕が箱を開けると、そこにはサッカーボールほどの球体と、おそらく充電用のACアダプタ。他にはマニュアルらしき紙が、数枚入っていた。
サッカーボールほどの球体には、中央にクレーターの様な、くぼみと穴があり、映画『スター・ウォーフ』に出てくる、惑星破壊砲を持つ巨大な宇宙要塞『デット・スター』にそっくりだった。
「なんだろう? これ?」
僕がそう言うと、キングがマニュアルを読み上げてくれる。
「ええと『これは浮遊要塞型の害虫駆除機です。設定された場所、もしくは、持ち主に付き添うように浮遊して移動し、範囲内の害虫をレーザーで撃ち殺します。有効射程距離は天候によりますが、晴天時は約500メートルを越えます。範囲内の害虫を皆殺しに出来ます』だってさ」
「……なんかすごそうね」
ミサキが僕に向って言う。
「うん、そうだね」
サッカーボールの部分を持ち上げると、かなり重い。10キログラムはありそうな感じがする。
たかが蚊の対策として、こんなゴツい装置は、大げさすぎる気がした。この装置を使って、わざわざバーベキューをする意味はあるのだろうか……
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