農業と農作業 3
この日、僕らは遊ぶつもりだったが、予定を変更する。
姉ちゃんからバイト代をもらったので、近所の図書館に集まり、地球の農業問題に関して話し合う事になった。
ちなみに図書館までは自転車で15分ほどかかるのだが、『僕ら』は4人居て、自転車は1台しかない。
タクシーを呼んで移動する事も考えたが、同じ姿をした4人が一台の車に乗っている様子は、他人から見れば、もの凄く不気味だろう。
「図書館までは歩いて行こうか?」
徒歩だとおよそ40分くらいはかかると思うのだが、他の交通手段が使えない以上、僕らは歩いて行くしか方法が無い。
「「「オリジナルは自転車に乗って行って、ボクは走って追っかけていくヨ」」」
「走るのは限界があるでしょ? 目的地までの道は知っているの?」
「「「市の『中央図書館』でショ。解っているヨ」」」
「まあ、道を知っているなら、はぐれても大丈夫かな。じゃあ僕は自転車に乗っていくから、後からゆっくりとついてきて。遅れても良いからね」
そういって僕は自転車を漕ぎだした。
そこそこの速度で自転車を漕ぐが、僕に似たアンドロイド3体は、その後ろを走ってピッタリと付いてくる。
息を乱さず、短距離の陸上選手のように綺麗なフォームで、胸を大きく揺らしながら追いかけてくる。
普通なら、直ぐに息が上がってしまうが、そんな事もなく、ずっと付いてきた。
そして15分後、僕らは予定通りに『中央図書館』に到着した。途中、何度か小学生に指をさされたが、まあ、しょうがない。同じ顔をした人物が、一糸乱れず走って行く光景は、それなりに不気味だったと思う。
図書館に着き、スマフォを除いて見ると、Lnieのメッセージが届いている。ヤン太とジミ子は既に到着していて、中に入って居るようだ。
確かに、真夏のこんな暑い日に外で待つのは馬鹿らしい。僕らもすばやく図書館の中へと入る。ちなみに、かなりの距離を全力疾走してきたアンドロイドの僕達は、一切、汗をかいていない。
図書館に入ると、入り口付近のソファーにヤン太とジミ子が座っていた、僕はいつも通りに声を掛ける。
「「「「ヤン太、ジミ子、オハヨウ」」」」
僕ら4人は、ほぼ同時に挨拶をする。
すると、ジミ子が驚きながら返事をする。
「お、おはよう」
「しかし、本当にそっくりだな。これ、中身はロボットなんだろ?」
ヤン太がそういうと、僕らが反論した。
「「「ロボットじゃあないヨ、ボクはアンドロイドだヨ」」」
「お、おう。そうか、アンドロイドなのか…… ちょっと触ってもいいか?」
ヤン太が僕に向って言う。僕の体ではないが、とりあえず僕はOKを出す。
「いいよ、試しに触ってみても」
「肌触りは本物と変わらないな。モチモチしている」
ほっぺたを触りながら言うと、ジミ子も興味を持ったみたいだ。
「私は胸を触って良い?」
「なんで胸なの? まあ、良いけど」
「じゃあ、ちょっとだけ…… おお、このボリューム感、本物と同じだわ」
胸を鷲づかみにして、ニヤけながらジミ子が言う。自分の胸を揉まれている訳ではないが、ちょっと嫌だ。
ジミ子が胸を揉んでいると、ミサキとキングが遅れてやってきた。
「うぉ、そっくりだな。完全に見分けがつかないぜ」
キングが僕らの顔を見比べて言う。
ちなみに3人の僕は無表情だが、僕はちょっとあきれたような表情をしていると思う。
ミサキは僕の胸を揉み続けているジミ子を見て言った。
「ずるい、私も胸を揉ませて、良いわよね? うわ、すごい」
僕の許可を待たずに、ミサキはアンドロイドの胸を揉む。なぜ女性の2人が、こんなに僕の胸に興味を持つのだろうか……
「今日は一体、何をするんだ?」
胸に夢中になっている二人を無視して、ヤン太が僕に聞いてきた。
「ええと、一つ目は、地球の農家が抱いている、火星の農業に対する不満の解消。二つ目は、このアンドロイドが僕に近づくための学習かな、二つ目の目的はオマケみたいなものだけど」
「そうか、じゃあ、さっそく作業に入るか。ほら、そこの二人、いつまでも触ってないで移動するぞ」
「はーい」「しょうがないわね」
ヤン太に言われて、二人が胸から手を離す。すると胸を揉まれていた僕の一人が、こんな事を言った。
「一つ、学習しまシタ『ササブキ ツカサ』は、他人に胸を触られても気にしナイ」
一人が言うと、残りの二人の僕も復唱する。
「「理解しまシタ、他人に胸を触られても気にしナイ」」
「違うから! 僕は他人に胸を触らせたりしないからね!」
僕はすぐに強く否定したが、3人の僕はいまいち理解していない顔に見える。この3人は、変な風に僕を理解していないだろうか?
この図書館は空いている。僕達は大きなテーブルを一つだけ占領して、これからどうやって問題を解決するか考える。
「とりあえず、火星の農業と、それに関する地球の農家の反応が載っている、新聞の記事を調べましょうか?」
先ほどとは違い、ジミ子が真面目な提案をした。
「そうだね。それが良いね」
僕が返事をすると、キングはこう言ってくれる。
「俺はちょっとネットから調べて見るぜ。何か良いアイデアが転がっているかもしれないからな」
ある程度の方向性が決まると、ヤン太とミサキがそれに続く。
「じゃあ、俺はジミ子の手伝いをするか」
「私はキングの手伝いをするわね」
ヤン太はジミ子の手伝いを、ミサキはキングの手伝いをする方向で決まる。
「分かったよ、そっちはお願い。じゃあ僕は何をしようかな……」
何かやれることを考えていると、三人の僕がこう言ってきた。
「「「『ササブキ ツカサ』に対するデーターが足りまセン。良ければ、これまでに読んだ書籍を教えて下サイ」」」
これはどういう事だろう? ちょっと理由を考えて聞いてみる。
「僕の読んだ書籍を知ってどうするの? 本の内容から、考え方の傾向でも分析するの?」
「「「ハイ、書籍を読んでデータを分析して、そこから新たに思考パターンの学習をしマス」」」
「わかったよ。じゃあ、覚えているタイトルの本を持ってくるね」
こうして、それぞれ作業が決まった。
僕は記憶に残っている書籍をいくつか手に取ると、テーブルに戻り、その本を僕らの前に置く。
すると、僕の1人が手に取り、パラパラとページをめくる。
「読み終わりまシタ」
「えっ、もう読んだの?」
「ハイ、読み終わりまシタ」
中身はロボットだからだろうか。300ページほどの本を5冊、2分もかからず読み切った。
「……早いな。他の2人は読まないの?」
本を読んだのは1人だけで、残りの2人は手をつけていない。
「「データをリンクしたので、大丈夫です。ボクらも読みました」」
どうやらデーターを共有したらしい。これは便利だが、この様子を見ていたジミ子が、こんな疑問をぶつけてきた。
「貴方たち、データーをリンクしているみたいだけど、考え方とかに違いはあるの?」
「「「ボクらは同期しているので、完全に同じ思考パターンデス」」」
「それだと、3人居ても意味が無いんじゃないの?」
「「「ハイ、1人でも、2人でも、3人でも、同じデス」」」
その言葉を聞き、ジミ子は僕の方を向き、こう言った。
「このままだと、アンドロイドが3人居ても意味が無いじゃない」
「まあ、そうだね」
「だから、ちょっとだけ、3人の思考パターンを変えてみない? 私に考えがあるの」
どうやらジミ子に何かアイデアがあるようだ。
ちょっと面白そうなので、話を聞いてみる。
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