農業と農作業 4

 アンドロイド3人の考え方が、まるで同じだと分ると、ジミ子がこんな事を言い出した。


「ちょっとだけ、3人の思考パターンを変えてみない? 私に考えがあるの」


 なにか面白そうなアイデアがあるらしい。さっそく話を聞いてみる。


「どんな考えがあるの?」


「このアンドロイド、もの凄い早さで本を読んでたじゃない。だからそれぞれ傾向の違う本を読ませて行けば、考え方が変わるんじゃないかなって思ったの」


「なるほど、読書をさせてAI人工知能に学習させる訳だね」


「そうね。チーム分けをして、それぞれの『ツカサ』に学習させたいんだけど、どうかしら?」


「「「良いと思うヨ」」」


 3人の僕が返事をして、この計画を実行する事になった。



 アンドロイドの僕たちを、どういった方向性で学習させるか話し合っていると、キングがこんな提案をする。


「俺はネット中心に学習させてみようと思うが、どうだろう?」


「良いんじゃないか、じゃあ俺は新聞と書籍を中心にバランス良く学習させるか」


 ヤン太がさきほど集めてきた、農業関係の資料を手に取り言う。


「じゃあ、私はさっきの続きで、ヤン太に協力しようかしら」


 どうやらジミ子はヤン太のサポートにつくらしい。


 ミサキがあごに指を当てて、こんな事を言う。


「私も1人もらうね。立派に育てて見せるわ!」


 3人の担当がそれぞれ決まり、僕はやることが無くなってしまった。


「僕はどうすればいいの?」


 するとジミ子は真面目に、こう言った。


「オリジナルは自分で勉強してちょうだい。アンドロイド達と違った意見が出せるようにお願いね」


 なるほど、僕は自分で考えて勉強するわけか。


「わかったよ。じゃあ僕は独自に勉強するね」


 こうして割り振りが決まり、それぞれの学習を開始する。



 僕は学習方法がかぶらないようにするため、他の僕たちの学習を観察する事にした。


 始めにキングの様子をうかがう。


「まずは、この問題を討論をしている掲示板あたりかな。ここのページを読んでくれ」


 そういってキングはスマフォを差し出すが、アンドロイドの僕は、その画面をチラッとみただけで、こう言った。


「読み終わったヨ。ボクにはWi-Fiが搭載されているから、URLか、ページのタイトルを見せて貰えれば、すぐに読み込めるヨ」


「お、おう。そうなのか、じゃあ、コレとコレ。あとトゥイッターの『火星と地球の農業』についての『つぶやき』の中から、評価イイネの高い物も抽出しておくこともできるか?」


「できるヨ。コレとコレとトゥイッターの内容だね。理解したヨ。ちょっと読み込むまで待ってネ」


 先ほどキングが見せた内容が気になり、僕もタイトルで検索して、掲示板を覗いて見る。

 すると、白熱した討論が延々と続いていた。全部を読もうとすると1時間以上は掛かりそうだ。


「読み込んだヨ。次はどの資料を読む?」


 アンドロイドの僕は声を出す。1分も経たずに全てを読み切ったようだ。


「お、おう、早いな。ちょっと待ってくれ、次の情報源を探すから」


 キングが慌てて次のネタをを探しにかかる。


 僕もネットから良い方法を探そうかと思ったが、この方法では勝ち目はなさそうだ。

 あきらめて他の方法を見つけ出そう。



 キングの方向性は分ったので、こんどはヤン太とジミ子のやり方を見る。


 まず、2人は持ってきた新聞の一部を渡して指示を出す。


「全体のまだ半分も調べていないけど、付箋ふせんの付いているところは、『農業』関連の記事だから、読んでおいてくれ。残りの記事はこれからチェックする」


「分った、読むヨ」


 ヤン太に言われると、もう1人の僕は新聞をペラペラとめくっていく。

 次から次へとめくっていき、とても読んでいるようには見えないが、それは中身が人間の場合だ。2分ほどで指定された全てを読み終わる。


「読んだヨ」


 あまりの早さに、ヤン太が驚いた様子で答える。


「は、早いな。まだ残りの新聞はチェックしてないぞ……」


「『農業』関連をチェックすればいいんだよネ。自動で出来るヨ」


「じゃあ、残りをすべて渡すか」


 山のような新聞を渡す。するとジミ子がこんな事を言った。


「ついでに経済と政治の記事も読んでくれる。農業と全く関係がない訳じゃないし」


「分ったヨ」


 そう言うと、渡された新聞のページをめくり始めた。


 今回は農業の記事だけではなく、政治と経済という、新聞のほとんどの紙面を読まなくてはいけない内容だが、先ほどのスピードと全く変わらない。あっという間に読み終わり、次のデーターの催促さいそくをする。


「読んだヨ。次はどの資料を読む?」


 するとヤン太が眉間にシワを寄せながら言った。


「ちょっと待ってくれ。困ったな、あと思いつくのは農業関係者の書籍か…… なんだっけ? 『雨ナドニハ負ケズ、風ナドニハ負ケズ』ってヤツ」


 ジミ子がすぐに答える。


「それは宮崎賢逸みやざきけんいちね。この読むスピードだったら、もう『農家』とか『農業』といった単語が出てくる書籍を、手当たり次第に読ませていく?」


「そうだな。片っ端から行くか。時間が余ったら、政治や経済のコーナーも読ませよう」


 ヤン太とジミ子はアンドロイドの僕を農業関連のコーナーに連れて行き、端から本を読ませ始めた。

 アンドロイドの僕は、渡された書籍を次々と読破していく。


 僕も図書館で調べ物をしようと考えたが、それでは、このアンドロイド以上のアイデアは得られそうに無い。

 何か別の方法を見つけなくては……



 ミサキは僕と同じく、しばらくボーッと他のチームの動きを観察していたが、何かを思いついたようだ。


「そうだ! 優秀な本を読ませれば、優秀な考え方が身につくはずよ!」


 確かにミサキの言う事は一理ある、ただ、そのアイデアには一つ大きな問題があった。


「優秀な本ってどういう基準で選ぶの?」


 僕が質問をぶつけると、ミサキは口を大きく開けたまま固まった。本の選定基準を何も考えていなかったのだろう。

 ミサキはしばらく固まっていたが、また、何かを思いついたようだ。


「そうよ、売れてる本は、優秀な本と言ってもいいでしょ。売り上げランキングの上位から読ませて行けば良いわ」


 ミサキはロボットの司書ししょを呼び、売り上げランキングを調べてもらった。そして、この図書館にある売り上げトップ1000のリストを印刷してもらう。


 ミサキとミサキが担当しているもう1人のアンドロイドの僕は、このリストに従い最も売れている本から読み始めた。


 農業に関係の無い本は、無意味に思えてしまうが、知識や知恵の底上げには役に立つだろう。

 この方法は、ちょっと遠回りに思えるが、なかなか良いやり方なのかもしれない。



 他の僕の学習の仕方は決まったが、肝心の僕のやり方が解らない。


「うーん…… とりあえず『ヤヒューの質問ボックス』にでも解決法を質問してみるか……」


 僕は、この問題の解決方法をネットに聞いてみたが、しばらく待っても、ろくな答えが返って来なかった。さて、どうしよう……

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